見出し画像

オリジナル短編小説 【宝物を掘り当てる旅人〜小さな旅人シリーズ05〜】

作:羽柴花蓮
ココナラ:https://coconala.com/users/3192051

+‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥+

「ひーめ」
 亜理愛が考え込んでいる一姫の背中にぶらさがる。
「一姫!」
「だーめ。ここでは姫、でしょ?」
「亜理愛はその名前をえらく気に入ってるのね」
「ええ。マギーがくれた名前だもの。私にぴったり」
「名前談義してる間あったら、古文書でも見てたら?」
「それはそうなんだけど、姫を呼んでっ、てマギーが」
「マーガレットが?」
 一姫は頑固にも愛称で呼ばない。自分の事も。何故か意固地になっている。きっとそれは大樹とのことだろう、と当事者以外は皆、解っていた。
「もう。考える時間もないんだから」
「何考えるの。こんな平和な日々に」
 万里有が突っ込む。
「万里有はいいわね。のほほんとできて」
 けんか腰だが、万里有は乗らない。
「そう?」
 マーガレットそっくりにのらりくらりとかわしていく。ここに来て身につけた技の一つだ。その方が穏やかに行くときもある、とわかってからそうするようにしていた。
「マギーがあなたに言いたいことがあるって。リーディングの準備をしていたらジャンプカードで一姫の事がでたらしいわよ」
 万里有は刺激しないように、わざと、一姫と呼んだ。そしてジャンプカードはそうだが、一姫と大樹の不毛な恋を終わりにするためにわざわざリーディングしたのだ。
 本人が見てないところでもリーディングはできるらしい。その人のことを思ってすればいいのだ、とマギーは説明していた。
「来たわよ。マーガレット。なんなの? 用は」
 かみつかんばかりに一姫は言う。そんな一姫を物ともせず、マーガレットは座るように指図する。人に命令されるのが大嫌いな一姫だが、ここはしかたないと諦めて座る。マーガレットが一度言い出せば、終わるまでそのままなのだ。さっさと終わりたい、一姫は言われるままにしていた。
 そっと遠くから鈴なりの観客である。
「あなたと大樹を思って引いたカードは『Uncovering treasure』。『宝物を掘り当てる』、よ。そして『表面下に豊かな恵みが眠っている』とも。うわべで見るのではなく。本質をさぐれば宝物はみつかるわ。今、関わっている人間関係をもう一度見直して。ずっとそこにあったのに見てない振りをしていたわね。それを思い出して。ごく普通に想っていたものが、実際素晴らしいと思うはずよ。あなたに吉報がもたらされるわ」
「宝物? そんなのいらないわ」
 つん、とそっぽを向く。
「言葉通りの宝物じゃないわ。あなたにとって宝ものになる人や感情よ。もう一度、しっかり見つめて。ずっと前からあったのよ。手遅れになる前にみつめて。あなたがとっても大事にしているものが失われる前に」
「手遅れ? そんな物・・・」
「一姫」
 そこに大樹がいた。
「聞いて・・・」
「いた。一姫。もう一度、試合をせぬか。今度は負けた振りはせぬ。本気で一姫と試合をする。その後、私の話を聞いて欲しい」
「大樹?」
 大樹は普段から、真面目は真面目だが、いつもより目に力が入っている。本気、だった。それは一姫にもすぐわかった。
「待ってて。道着に着替えてくるから」
 しばらくすると道着を持った一姫が出てきた。大樹は木刀を放り投げる。
「竹刀じゃないの?」
「本気、だと言ったであろう?」
 一姫は竹刀を握る。感触を試すかのように何度か握り直す。
 観衆はドキドキハラハラである。
 試合の審判は大河がする。大河も大樹と同等の武道の心得がある。ただ、それは普段出さないだけだ。大河は古武道よりも古文書を読むことを楽しみしているからだ。この屋敷には不思議な古文書が多い。日々、亜理愛と読む日々が続いていた。
 二人とも木刀を構える。間合いをとってじりじり動く。いつもならしびれを切らした一姫が突っかかってくるが、今日は違った。本気で勝とうとしていた。二人とも本気なのだ。たんなる遊びの試合でなく。
 間合いを少しずつ狭めていく両者である。ついに一姫が動いた。前へ踏み出して木刀を振りかざす。頭に直撃する。ヤバい。そう思った観衆だが、大河は止めない。そのまま振り落とされるかと思った木刀は気がつけば弾き飛ばされていた。そして懐に入った大樹は一姫の喉元に木刀を当てていた。
「大樹の勝ちだ」
 冷静に大河が勝者を告げる。
「そうね。熨斗つけてあげるわ」
 そう言って背を翻す。この前のように。
「待て。一姫」
そう言って。悲しそうなその一姫を背中ごと大樹は抱きめる。
「私が愛しているのは一姫、そなた、一人だ。万里有との事で苦しめた。すまない。だが、父上に言ってきた。私は一姫と結婚すると。当然、勘当された。お前の家で養ってくれ」
「たい・・・じゅ?」
 腕の中で動いて顔を見上げた一姫の瞳は涙で潤んでいた。
「本当に本当なの? 万里有の事好きじゃないの? 私の事を想ってくれてるの?」
 一姫の質問にそのまま質問で大樹も返す。
「一姫は? 一姫は私の事をどう思っているのだ? 先ほどの『宝を掘り当てる』と言うカードはこのことを示しているのか? 私達の行く先を示しているのか? 一姫の想いを聞かせてくれ」
「私は・・・」
 一姫が言いよどむ。心の中を探っていた。確かな愛がそこにあった。ただ、言えなかった。違う人の婚約者だったから。いつも、頂戴とは言っていたが、本気で言っていなかった。もし、万里有と結婚していればどうなっていたか。他の誰かと結婚していただろうか? それは出来なかった。一姫は自分の恋心をついに認めた。
「私も大樹、あなたが好きよ。居候でも何でも養ってあげる。もう。手を離さないで」
「一姫!」
 二人は抱きしめ合う。そして、そっと見つめ合う。

ここから先は

2,176字

¥ 100

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?