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オリジナル短編小説 【秋桜の物語〜花屋elfeeLPiaシリーズ23〜】

作:羽柴花蓮(旧 吉野亜由美)
ココナラ:https://coconala.com/users/3192051

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 ここに小さな一軒の花屋がある。花屋elfeeLPia。妖精が感じられる場所、という造語だ。造語ではあるが、ここには花の妖精が産まれる土地が地下にある。それはまだ小さな店員向日葵さえも知らない事実だ。花屋を継ぐ者だけが知りうる事実。その妖精と花言葉を成就させているのが小さな店員向日葵だ。最近になって、居留守を使っていたためか花屋のパワースポット化はなくなりつつある。残暑厳しい九月だが、客は向日葵を探し回らなくなった。恋は暑い夏のものなのだろうか、と向日葵は不思議だ。

 向日葵は中学校が終わると途中まで親友の冬音と桜子と帰るが途中で寄り道する。花屋elfeeLPiaだ。向日葵はそこに入り浸っている。幼い頃はただ夢中で花言葉を覚えていた。そして妖精と縁を結んでいた。それが今は仇となって追いかけ回される日々だ。居留守を使ってやっと開放されつつある。そんな花屋に向日葵より早く、来ている同じ学校の生徒がいた。

「紗世ちゃん?」
「ひまちゃん! 助けて!」
 振り向いた紗世の肩には秋桜のチョコレートコスモス以外の秋桜の妖精が勢ぞろいして乗っていた。思わず、二度見する。
「紗世ちゃん! 一体どうしたの?」
 こんなに妖精が乗ることはまずない。一体乗ってるのが普通だ。
 
 コスモス。秋桜とも書く。コスモスの由来はギリシャ語の「kosmos」に由来する。そのギリシャ語は調和や秩序という意味があり。コスモス全般の花言葉「調和も」ここから来ている。そのほかには姿から「乙女の純真」という意味がある。色別もある。白は「優美」「美麗」、赤は「乙女の愛情」、ピンクは「乙女の純潔」、黄色は「野生の美」、茶は「恋の終わり」。
紗世に乗っている黄色いコスモスの精はやや意味があやしいが、特に問題はない。茶の「恋の終わり」が乗っていないのもほっとするところである。また人によればコスモスの花言葉は「乙女の真心」と言う者もいる。ある程度の意味は決まっているが、表現は様々だ。そんなコスモスの精を勢ぞろいさせている紗世はおそらく、「初恋」の成就だろう。紗世からはよく恋の相談を受けていた。「乙女」というのも少女の中学生にはぴったりだ。
「ひまちゃん。コスモスの花束作ってみる?」
「みる?」ではなく、「作れ」である。言外の行間を読むと。落とし前はつけてくれ、というところか。
「はぁい。ひま、コスモスの花束つくりま~す」
 鞄をぽいっと置いてエプロンを着けるともう店員だ。これがアルバイトでもなんでもなく、ただの遊び場の恩返しというのは誰も知らない。過去の向日葵を知る人間は少ない。無賃金で労働させるのは法律違反だが。お手伝いなのだ。あくまでも。この花束を作るのもいずれ継ぐものとしての練習だ。慣れたもんで、ちゃっちゃと作る。その手際の良さを店主の一樹がチェックを入れている。かすみ草をたしたのは正解だったようだ。ざっくりとした感の庭から花を摘んできたというような感じの花束ができあがった。それぞれの色を入れたからカラフルだ。
「まぁ、今回はこのラインナップだからな。しかたないか」
 一樹もカラフルさに仕方ないと太鼓判を押す。妖精の花言葉を成就させようとしたらこうなったのである。節操のない花束といえばそうだろう。
「はい。花束。さぁ、行ってきて」
「どこへ?」
「告ってくるんでしょ?」
「一緒に来て!」
「ちょっと。紗世ちゃん!!」
「出張サービスいってらっしゃ~い」
 一樹の声が後ろから聞こえてくる。
「花屋の出張って!」
 文句を言うがすでに花屋の姿は消えいていた。ぐんぐん引っ張られていく。折角帰ってきたのに元の中学校へ戻ってしまう。エプロンは流石に恥ずかしいので道の途中でとった。捨てはしないからいいだろう。
「清人君、呼んできて。お願い!」
「はいはい。恋の成就はお任せあれ」
 清人のいる教室に行く。海外へ行った向日葵の賢太と仲良くしていた清人だ。向日葵もある程度は見知っていた。清人は部活に入っているが室内部のため呼び出しやすい。化学室でたむろっている清人を見つけて、ほっとする。ちょい、ちょい、と清人に手招きする。
「なに? ひま」
「あんただけよ。ひまって呼び捨てにするのは。ちゃんをつけなさいよ」
「ひまちゃんなんて小学校のあだ名じゃないか。まだ、お子様なのか?」
「失礼ね。待ち人が待ってるわよ」
「待ち人?」
 清人の顔に緊張が走る。
「紗世、か?」
「なんだ、解ってるじゃないの。じゃ、二人きりにするからね」
「おひっ」
 そうして人気の少ない中学校の一角につれていく。紗世は花束を持ってうろうろしていた。
「紗世ちゃん。連れてきたわよ。あとはごゆっくり」
 さぁっ、と花屋elfeeLPiaに戻るか、とする向日葵の手を二人が摑む。
「待って、ひまちゃん!」
「待て! ひま!」
「ちょっと。あとは二人で解決することでしょ? 純君達は立派にやり遂げたわよ」
「お願い、側にいて。もう、気を失いそう」
 紗世の懇願にしかたなくとどまる。
「じゃ、見てるから告りあって」
「え」
 二人が向日葵を見る。
「そうでしょ? そのために会ってるんだから」
「って」
 清人は掌ににじんだ汗をズボンで拭う。紗世も花束を持て余して何も言えない。
「ほら。何も言わないと始まらないよ?」
 向日葵の一言に二人がはじけるようにお互いを見る。声を最初に出したのは紗世だった。
「あの、もう彼女いるって聞いたけど、気持ちだけ受け取って。私は清人君が好き。花束だけでも受け取って。あとから捨ててもいいから」
 なにぃ。努力の結晶を捨てるだと? 突っ込みたいが向日葵は黙る。
「誤解なんだ。彼女は目の前にいる。俺が好きなのは・・・」
「ひまちゃんなの?」
 紗世のとんちんかんな返しに向日葵は転けそうになった。だが、清人は真摯なまなざしで紗世を見ている。
「紗世、なんだ。好きなのは。ずっと好きだった。入学式で見たときから。その話を少ししたら噂が一人歩きしてしまって、いつの間にか彼女がいることになってたんだ」
「うそ・・・」
「嘘じゃない」
「じゃ、この花束受け取ってくれる? ひまちゃんが作ってくれたの」
「ずっとあそこにいるのにえらくカラフルだな。統一感がない」

 妖精がそれだけいるのよ!

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