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ラウール at TGC 2023A/W

ラウ担になって丸一年。

好きな人に対する向き合い方
価値観
何もかもを大きく変えてくれたのが
2023年秋のTGCでした。


TRANSCENDANCE


2023年8月29日。

待ちに待ったお知らせが届いた。

ヴェルサーチのスーツを身に纏い、
髪をオールバックにまとめたラウールが
少しレトロな雰囲気のソファに腰掛け
こちらをじっと見ている写真。

今回もラウールがTGCに出演する。

テーマはTRANSCENDANCE

Transcendenceは「超越」。

普通の状態をはるかに超えた状態、
神様の領域をさすこともある言葉。


それをラウール流にもじって
danceと融合させた造語が
Transcendanceだという。

この時点ではどんなパフォーマンスを見せてくれるのか、全く予想がつかない。
けれど彼のことだから、私たちの期待をはるかに「超越」する何かを見せつけてくれるはず。

心を踊らせながらスマホをいじっていたら、
Xで繋がった友人から連絡がきた。


「ラウちゃん今回もTGCでるね!
シンシアちゃんは行かない?」

それを読んだとき、
わたしはTGCを見に行くのか聞かれたと思って
「行かないよー、チケットないもん」
と答えようとした。と思う。

そしたら違った。

一緒に行くはずだった人が用事で行けなくなったので、
シンシアちゃん一緒に行きませんか?
というお誘いだったのだ。

理解した瞬間、私は寝っ転がってスマホをいじっていた姿勢からキョンシーみたいにガバーッと起き上がり、
「えっ?えっ?えっ???」
とドギマギと呟きながら正座をし、
震える指で「行く!!!行きます!!!行きたいです!!!!」
という趣旨の返事を打ち、
すぐさま新幹線のチケットを予約していた。


4日後!!
え?ラウールに会えるの?私…
嘘でしょほんとに????
私がTGCを見に行くの????
え?マジで??やばいやばいやばい…😭

完全に動揺して
立ったり座ったり歩き回ったりして、友人からの返事を待った。


TGCに行くということ


私はそのときまで、自分がTGCを観に行くことなど
一度もまったく考えたことがなかった。

あんなのは、ガチのファンが行くものだと思っていた。

まずラウールが出るのかどうか、直前までわからない。
出たとしてもほんの5分くらいしか出ない。
それなのにチケットは、半年前に頑張らないとほぼ取れない。


関東在住の人ならまだしも
こちらは関西住みなのだから
往復の新幹線代、チケット代合わせたら
日帰りしても4、5万円かかってしまう。

そこまでして観に行くのはよっぽどラウールが好きな人なんだろう
と思っていた。

でも、そのとき気づいた。

私もガチのラウ担じゃないか。

ラウールのパフォーマンスをたったの5分間でも見られるのなら、いくらかかっても惜しくない。

そうと決まればのんびりしていられない。

何を着て行こうか?
ちびぬいにも新しい衣装を着せたい。
準備でバタバタしていたらあっという間にその日は来た。


Are you ready? soon


はじめてのTGC、はじめてのさいたまスーパーアリーナ。
入り口でペンライトとプログラムを受け取る。

タイムテーブルはかなりざっくりしている。
その時初めて知ったのだけど、良い席は時間貸しする人がいて、自分の推しが出ると思われる時間だけそこに座る権利を買う人がいるらしい。当然違反行為なので、誰がいつ出るのかわからない仕組みになっている。

ラウールがいつ登場するのかも皆目わからない。
手がかりがあるとすれば、その日18時ごろからインスタライブをすると本人が予告していたので
前回パフォーマンス直後の休憩中にインスタライブをしたのと同じと考えたら、17時半ごろからと予想する人が多かった。


ところが、たしか15時すぎくらいだったと思う。

ラウールのインスタに
Are you ready?
soon
と書かれたストーリーが上がった。

会場内はとにかく電波が悪くて繋がりにくい。
そんな中、このストーリーに気づいたのはラッキーだった。

予想より早く登場するのかもしれないと思った私たちは、そのままじっと席を動かないことに決めた。


ステージでは協賛企業の商品紹介のコーナーが始まった。
誰もランウェイを歩かない時間。
MCの3人だけがメインステージで話している。
プログラムでは、この後は休憩時間ということになっている。

周りのお客さんたちは、休憩時間になる前にトイレに行こうとする人や、今のうちに企業ブースに並ぼうとする人が多く、席についている人は数えるほどだった。
私たちはアリーナの、メインステージをほぼ正面から見る席。前から15列目。
前の14列には誰もいなかった。

のんびりとした空気の中、商品の紹介が終わった。

次は休憩かと思いきや、
MCが緊張した声でこう言った。

「次はこちらのステージです!!」

スクリーンに映し出される
TRANSCENDANCE
の文字✨


ラウールのステージが始まった。


襲来


スクリーンに流れる映像。
普段着のラウールがソファに腰かけ、ポップコーンを鷲掴みにして食べながら
読みかけの雑誌を乱暴にテーブルに投げつける。

退屈。
苛立ち。
飽き飽きする時間。

すると突然部屋のあかりがチカチカと明滅し、
部屋がガタガタと揺れ始めた。

何かがやってくる。
何かがラウールを乗っ取ろうとしている。

周りではラウールのステージが始まったことに気づいて、たくさんの人がバタバタと走り回っている。
早く席に戻ろうとする人
立ち見をさせまいとするスタッフ
混乱の中、スクリーンの映像は続く。

真っ暗になった部屋のテレビが勝手についた。

別段驚いた様子でもなく、不思議そうな顔でテレビを覗き込むと
普段着のラウールは
ヴェルサーチのスーツを着た人物の姿に変わった。

自転する星
宇宙空間
テレビを通してやってきたのは
どこか遠い星からやってきた人物なのだろうか。

スクリーンには白く
RAUL
の四文字が。


宇宙空間を思わせる漆黒の背景に
星のような白い光が点々と散らばっている。

スクリーンだけではない。
天井席まで埋まった観客が手にするペンライトも
ぼんやりと白く光り
会場全部が広大な宇宙になった。

中央制御式のペンライト。
座席によって点いているものと暗いままのものがあって
私のペンライトは最後まで光ることがなかった。


濃くたかれたスモークの奥に背の高い人物の姿が見える。
大ぶりのサングラスをかけ
髪は後ろに撫で付け
銀色に光るセットアップをまとったラウールが
ゆっくりと歩いてくる。


途中で外したサングラスを乱暴に客席に投げ捨てると、
加速しながらランウェイをぐんぐんこちらに近づいてくる。


髪にはラメ
目のまわりにもラメとビジュー
まるで天の川のように顔を横切っている。
夜空のようなメイク。

その迫力に私は息を呑み
後退りしそうになる衝動を抑えて
なんとかその場に立っていた。


System overrun

センターステージで客席を見下ろし、
長い脚をエッフェル塔みたいに開いて
どーんと立つ姿。

ああ、ラウールだ。目の前にいる。
照明を浴びて光り輝いている。
ラウールだけがいる世界だ。

弛緩した日々に突然やってきた
圧倒的なオーラを持つ地球外生命体。

私たちはあっという間に彼の世界観に飲み込まれていった。

身体全体でビートを打つ
独特のダンス。
機械的に思える動き。
顔は終始無表情だ。

徐々に動きが滑らかになったと思ったら、
ステージの左端まで歩いてきて指を突き立て目を剥いて
観客に向かって大きく舌を出した。

光線が赤く光る。
Warning!
Warning!
と警告音が鳴り

System overrun
の一言ですべての音がパタっと止んだ。


未知の生命体から、「人」へ


銀色のジャケットをバッとはだけたところで
ラウールは二人のダンサーに見つかった。

メイク道具やドライヤーを手にしている。

早く早く、こっちに来て!!
と急かされて
今度はステージの右端の、ライトが当たらない場所に連れて行かれる。

スポットライトが女性ダンサーに当たっている間、
照明の当たらない椅子に座った状態で
なんとラウールは大急ぎで靴を履き替えている!
男性ダンサーに手伝ってもらいながらの早着替え🫢

これは絶対に配信に乗らないやつ!!
暗いステージに目を凝らす。


着替えが終わると、さっきまでの機械みたいな表情は消え去り
楽しそうに笑いながらいくつものポーズを決める。

カメラのシャッター音に合わせてポーズをとり、
楽しい音楽に合わせて全身をバネのように飛び跳ねさせ踊る姿。
観客の笑い声がかぶさる。
これはテレビの中の出来事

幼い頃からコメディアンになりたかった
家ではずっとテレビを見て、いつか出る側になることを考えていたラウールが
今こうやって観客の前で全身から喜びを発散させながら踊っている。

ここはラウールの夢が叶った世界。
キングオブポップ、マイケル・ジャクソンを思わせる振り付けを披露し、糸が切れたマリオネットみたいにガクンと深いお辞儀をして
くるりと踵を返しランウェイを戻っていく。


一年前のTGCでは決別するように
客席から会場を出て行ったラウール。
ガラスの時代の入れものである自分自身を壊し、捨てていったラウール。

今は芸能人になった自分を愛し、そこで輝く自分の姿を見せつけ、着いてこいと言わんばかりにランウェイを戻っていく。

その白いタンクトップの背中を見送りながら、
この凛とした姿を私は一生忘れまいと誓った。


次の目的地は?


ランウェイからラウールの姿が消えた。

スクリーンに再び映像がうつる。

銀色のセットアップをまとった背の高い人物が
どこかに歩いていく。

退屈な日々を持て余していた青年をスターに変えた
あの地球外生命体は
次の目的地に向けて出発したのだろう。


雑誌を投げ捨てソファーで苛ついていたラウールの姿は、ほんの数年前の私自身と重なる部分があった。

ほんとうは何かに打ち込みたい。
何者かになりたい。
でもなんにもなれていない。

日々の暮らしに喜びを見出したい。
でもどうすればいいのかわからない。

そうしているうちに時間ばかりがどんどん過ぎていく。
一生懸命に生きているつもりでも、生きている実感も持てない。

いつのまにか夢を持つこと自体を諦め
このまま歳をとって死んでいくんだな
と思っていた。

ラウールに出会う前は。

ラウールとの出会いは衝撃的だった。
私がそれまでに「好きだ」と思った人たちの顔の、好きなパーツが全部、一人の人間の顔の中に完璧なバランスで配置されていた。

こんな人が実在する
てことが信じられなかった。

彼の存在を確認するためにたくさん画像を見て
たくさん動画も見て
踊り歌い話し笑う姿を見て
どうしようもなくなるくらい好きになっていった。

ラウールを知らなかった頃に戻って、今すぐにラウールを見ろ!!と自分に伝えたくなった。
人生に絶望している暇などないぞと、教えてあげたくなった。

そこからは人生が一変したと思った。
交友関係も広がって
ラウールに会いたいという、それまでの自分じゃ考えられない欲まで出てきた。

それでも実際に会うのは難しいし
金銭的、時間的な制約ももちろんある。 
TGCだって、毎回ラウールが出ていることは知っていても
わざわざそのために数万円かけるという発想自体がなかった。

その考えも、この日を境に180度変わってしまった。

同じ空間にいるということ、
そこでその時を待ち、すべてを見届けるということ。
画面越しではわからない空気感
自分が目撃者になったという高揚感。

なぜ今まで見に来なかったんだろう?
なぜ私はいいや……などと思っていたんだろう。
こんなに、生きていることを実感できるというのに。

ラウールの世界に飲み込まれに行く。
そのための5分間は
最高に心震える時間だった。

突然舞い降りた未知の生命に人生を変えられたあの青年。
私もラウールという未知の存在に人生を変えられてしまったのだった。


おわり




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