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赤羽骨子のエキストラ


2024年3月から4月にかけて、
ラウールの主演映画『赤羽骨子のボディガード』
のエキストラの募集があり
私も参加させてもらいました。
そのときの感想をまとめています🙇‍♀️

ラウールという存在に触れた自分の心の動きが
記事の中心です。
嫌な方はスルーしてください🙏


赤羽骨子のエキストラ

2024年4月のある日

私は京都駅から群馬県に向かう夜行バス、シルクライナーに乗り込んだ。

ラウールが主演する映画
『赤羽骨子のボディガード』

その撮影が群馬県桐生市で行われるからだ。

3日間の日程のうち2日間は、エキストラに申し込んだ人が全員参加できる。
私は最後の1日だけ申し込んでいた。

夜まで仕事をして、大急ぎで帰宅してお風呂に入り、晩御飯を食べ
再び化粧をして着替えて駅に向かう。

集合時間は朝の7時。

はじめて行く群馬県、土地勘も何もない、
方向音痴の一人旅。
まずは現地に着けるのか?
不安と緊張と、もしかしたら明日ラウールに会えるのかもという期待で緊張して、指先が冷たくなった。


心に言い聞かせていたこと

エキストラに申し込んだ時点で、
ずっと自分に言い聞かせていたことがある。

ラウールはいないかもしれないよ

てこと。

ラウールが主演だからといって
撮影現場にラウールがいる保証は全くない。

3日間のうち、ラウールが1日でも来るのか、来ないのか。
もしかしたらエキストラだけの撮影で、ラウールはいないのかもしれない。

それでもいい、と思っていた。

大好きなラウールの主演映画に関わらせてもらえる。
こんな嬉しいことはない。


シルクライナーはとても快適な乗り心地で、
各座席に足乗せやブランケットがついていて
もちろんリクライニングつき。
車内にお手洗いもあるけれど2時間か3時間おきにSAでトイレ休憩も取ってくれる。

少しでも寝ておかなくちゃと思って目を閉じるけど頭の中で色んな感情がぐるぐるぐるぐる廻り続けていて全く眠れない。

照明が落とされた車内で時々スマホを取り出していじっていたら、仲良しのラウ担さん二人からDMが届いた。

二人とも、その日(2日目)午後のエキストラに参加していて、帰宅してから私にメッセージをくれたのだった。

そこでわかったのは、
・ラウールはその日の午前中に桐生で撮影していた
・昼ごろに午後のエキストラが集合している場所に現れて、午後の撮影よろしくお願いしますと挨拶してくれた
・その時はいつものフワフワ可愛いラウちゃんだった
・午後はラウールの撮影はなく、東京に帰った

二人は
「明日もきっとラウちゃんきてくれると思うよ」
「どうか会えますように」
とメッセージをくれていた。

でも私はほぼ確信してしまった。

明日、ラウールはいない。

東京からでも桐生市まではかなり距離がある。
撮影を終えて一旦東京に帰って、次の日にまた桐生に来るだろうか?
それくらいなら今日の午後に撮影するはず。

心の中がしんとした。

でも不思議なことに、嫌な気持ちにはならなかった。
それどころか、ラウちゃんがエキストラのみんなの前に現れて、ニコニコと挨拶した光景を想像して
なんとも言えず温かい気持ちになった。

ラウールのファンが大多数だっただろうけど、
中にはラウールを知らない人もいただろう。
地元の人や、エキストラという体験自体が好きという人もいたと思う。
そんな人たちもみんな、可愛いラウちゃんの笑顔を浴びて、満たされた気持ちで家路についたのかと思ったら、自分がラウちゃんに会えるかどうかなんてどうでもいい

て気持ちになった。

その時は心からそう思っていた。

桐生到着


結局一睡もできないまま
バスは群馬に着いた。
高崎駅で降りて始発電車に乗り、乗り換えを経て桐生駅に着く。

朝6時半
凛と冷えた空気。よく晴れて気持ちがいい。

駅にも道路にも誰もいなくて少し不安になったけど、桐生市市民文化会館に着くとすでにたくさんの人が入り口の列にならんでいた。

7時、入り口が開いてぞろぞろと会場に入る。

広いホールの客席。
各々が好きな席に座ると撮影責任者さんが来て挨拶し、映画の概要、撮影するシーンの説明をしてくれた。

すぐにまた全員で移動して外へ。

エキストラはいくつかのグループに分けられ、あちこちに散らばって待機、
それぞれに細かい設定がつく。
「お二人はここに立って、この方向に歩いてください」
「ここでこれを指差して、こんなことを話していてください」
ていう具合。

参加者が300人くらいいて、だいたい2人1組になっているエキストラに設定をつけて回るスタッフさんたち。
ずっと走り回っているし、エキストラの気持ちが高まるように明るく盛り上げてくれる。
汗だくですごく大変そう。

何回も何回も同じシーンを撮る。
角度を変えて、カメラを変えて。

そのスタンバイ中、入り口の列で話しかけてくれてその場で友達になった可愛いラウ担さんが、ぽそっと打ち明けてくれた。

「今日、ラウちゃんいないのかも。」🥺

どうやら、さっき前の列に座っていたご夫婦の旦那さんが、奥さんに「残念だったね」
と言っていたらしい。

旦那さんはスタッフにラウールがいるかどうか聞いたみたいだった。

この状況で、「残念」なことなんて
ラウールがいない以外なくない?

そうラウ担さんに言われて、たしかに…と思った。

覚悟はしていたけれどやっぱりそうなのかと残念な気持ちになった。

それでも。

ラウールがいなくても、
今日は可愛いラウ担さんとお友達になれたし
撮影場所に来れて前もって聖地巡礼ができたんだし、まぁいいか
て思った。

桐生市市民文化会館シルクホールは
印象的な外観の素敵な建物だったし
満開の桜が綺麗だった。

その後も場所を変え、シチュエーションを変え、撮影は昼過ぎまでかかった。
屋外でも室内でも撮った。
動きだけ、声だけ、拍手だけ。
歓声だけ、歓声に拍手をつけた音、
ほんとに色んな音と動きを撮影する。

映画ってこんなふうに撮るんだな
もしもほんの少しだけでも自分が写ってたら嬉しいな

そんな気持ちで私の人生初のエキストラ体験は終わった。


見なきゃよかった

撮影が終わったとき、
私の心の中には確かに満足感があった。

はじめてのエキストラ体験は楽しかったし
ラウールの映画に関われてよかったという気持ちがすごく大きかった。

でも解散した瞬間から、よくない感情がじわじわと広がりつつあるのを感じていた。

中学生くらいの女の子たちが、ラウールに会えなかったと泣き崩れていた。

そりゃそうだよね、すごくワクワクしてたんだろうな。

撮影中はオフにしていたスマホの電源を入れる。
いつもの習慣でXを開いた。

やめておけばよかった。
いや、このとき開かなくても、後で開いても結局一緒だったか。


タイムラインには、前日の撮影にエキストラで参加したファンの、幸せなポストが並んでいた。


🤍🦖ちゃんに会えました😆
撮影現場を見れました😊
エキストラ頑張った❣️
ますます応援したくなった🥹
映画の公開が楽しみ😄

固有名詞やネタバレは避けるように最大限に配慮されていても、どのポストにもラウールに会えた喜びが満ち溢れている。

そりゃ嬉しいよね、
ますます好きになるよね、
その気持ちをみんなに聞いてもらいたいよね。

わかる。
めちゃくちゃわかる。
私も昨日参加したなら同じことをしていたと思う。

でも。

あ、やばい、辛い…

さっきまでの穏やかな満足感が急速に薄れ、
辛い、悲しい、切ない、情け無いといった負の感情が急速に膨れ上がって私を呑み込んでいった。

この執着心を…

その日一緒にいてくれたラウ担さんたちは各々帰路につき

私は一人、駅前のホテルに向かった。

今思えば帰りもシルクライナーを予約しておけばよかった。

でも出発前は、行きは夜行バスじゃないと集合時間に間に合わないけど、帰りは新幹線と電車でゆっくり帰ろうと思っていて、
駅前のホテルを予約していたんだった。

とぼとぼと来た道を戻る。
まだ夕方というにも早い時間。

ホテルのフロントで、どこか晩御飯を食べられる場所はあるかと一応聞いてみる。

名物のうどんを食べられる店が近くにあると教えてもらう。

あったかいおうどん…いいな…
と思ったけど、
部屋に入ると途端に脱力してしまって
そこから何か食べに出ようという気持ちにならなかった。

撮影中にどうしてもお腹が空いたら食べようと思って買っておいたカロリーメイトを水で流し込む。

どんどん辛い気持ちが大きくなって、どうすればいいのかわからなくなってくる。

一人でいることに耐えられなくて、心細くて不安で、テレビをつける。
内容は頭に入ってこないけど、とにかく誰かの声がしていてほしい。

じっとしてもいられなくて部屋の中をぐるぐる歩き回る。
どうしようどうしよう、このままじゃ壊れてしまう。
明日家に帰らなきゃいけないのに。

病んでしまう、壊れてしまう、誰もいないのに。
怖くて怖くて仕方がなかった。

誰かの手違いとか何か原因があって会えなかった
とかなら、怒りという感情をだれかにぶつけられたのかもしれない。
でもこれ、誰も何も悪くない。
自分の気持ちの持ちようだけの問題。

羨ましい

たったの1日違うだけでこんなに差があるんだ。

滑稽だ

こんな遠いところに来たのに会えないなんて。
ワクワクして浮かれて騒いで結局会えないなんて。

会えなかったのは今日参加した人全員なのだから私一人が不幸てわけじゃない。
それなのにいい大人が何を落ち込んでいるのか。
情けなくて仕方がない。

とにかく気持ちをリセットしたくて熱いシャワーを頭から浴びた。
自分の中の執着心や嫉妬を洗い流してしまいたかった。

部屋着に着替え
居てもたってもいられなくて
私が身につけていた「好き」の痕跡を消す作業に没頭した。

スマホの待ち受けを無地の背景に戻した。

スマホケースに挟んでいたステッカーを外し
エキストラの参加賞もバッグから出した。

インスタのフォローをやめ、
YouTubeのチャンネル登録を解除し、
写真フォルダから大好きな人の写真を消していく。

ホテルの部屋で一人ボロボロ泣きながら
大切にしていたものを次々捨てていく様子は、我ながら異様だと思った。

バッグにこっそりつけていたチャームを外し
CDを取り込んでいたアプリも消して
もうこれ以上なにも捨てるものがない
てなったとき

あ、まだあった
と思い出したのがnoteだった。

note

私にとってのnoteは
これまでのラウールファンとしての記録で
とてもとても大事なものだった。

沼落ちのきっかけ
ファンクラブに入るまで
初めてのライブ参戦
TGCの感想や考察
ラウールの好きなところ

一つひとつの記事を心を込めて綴った。
何度も推敲して時間をかけて。

ラウールを好きな自分を文字にして
大事にしまっておく場所
それがnoteだった。

削除するとき、
「アカウントを削除すると記事も全て失われて
二度と修復できません」
とメッセージが出た。

3秒くらい躊躇した。

でもこれこそが、消さなくてはならないものだと思った。

ラウールを好きでいるからこんなにも辛い。
好きな気持ちがなくならなければこの辛さから解放されない

好きな気持ちなど捨てられないし
捨てられたとしても自分の中の執着心や嫉妬まではなくならないのに
その時はそうするしかなかった。

noteを削除して
もう何も無くなったと思ったら猛烈に眠くなって
ベッドに横になってすぐに寝てしまった。
夕べは一睡もできていなかったから
眠いことがありがたかった。


夜中に

明るいうちに寝たので
案の定 夜中に目が覚めた。

心の中がざらざらしている。
つけっぱなしのテレビからボソボソと人の声がしている。

ぼーっとしたまま友達にDMを送った。
ファンになりたての頃から仲良くしてくれて、共にスノラボ全滅して慰め合ったその友達は
夜中にもかかわらずいつもみたいに優しい返事をくれた。

弱音を吐いた。
惨めな気持ちも羨ましさでどうにかなりそうな気持ちも。

全部受け止めてもらったらほっとして

辛かった気持ちが少しずつ少しずつやわらいでいった。

心の中でぐるぐると渦巻いて自分を支配していた汚い感情が薄れていって
こんがらがっていた頭の中に酸素が巡る感じがした。

そうしているうちに思い出したのが、
この後も私は何日もエキストラに応募している
てことだった。

行けそうな日はできるだけ応募して
休みも取ってある。

当たるわけがないとは思っていた。
きっとものすごく狭き門だとわかっている。
でも私にはまだ希望が残されてるんだと気づいて
徐々に気持ちが落ち着いてきた。

そして、いつもの習慣で何気なく開いたエキストラ募集のページを見たら新たな日程が追加されていたので、
一か八かでこれも応募してみよう
てことになった。

調べると、前日の夜から夜行バスに乗って電車を乗り継げば集合時間の1時間前に現地に着ける。

少し前向きな気持ちになって、「当たるといいね」と言い合って
もう一度短い眠りについた。


朝は来る

翌朝6時半

前日、パンとカロリーメイトと水しか入れていなかった体にホテルの朝食バイキングが沁みる。

7時、ホテルを出発

一体何回電車を乗り換えただろう。
制服姿の高校生や、スーツ姿の大人がたくさん乗り込んでくる。
そうか世間は平日…月曜日だ。
しゃんとしなきゃ。
私の心がどうなろうと、世の中は進んで行ってる。

3時間以上電車に揺られてやっと東京に着く。
まだこれからが長いのに、「ただいま」って言いたくなる。
そういえば先月TGCで東京に来たんだった。

どこにも寄り道せず新幹線に乗る。

長い長い帰り道が逆にありがたい。

家に着いたのは夕方16時半。

ほんとに長い旅だった。

家族には「エキストラ楽しかったよ」て言えた。

心配してくれていたFFさんたちにメッセージを送った。

「ラウちゃんで落ち込んだ気持ちは、またラウちゃんが引き上げてくれるはず」
「今は物分かりよくならないでいいよ。なんでラウちゃんいないの〜😭て思っていいよ」
「ゆっくりでいいからね、いつでも話聞くからね」て返事が来た。
みんな優しい。
本当に本当にありがたかった。

夢再び

桐生で死ぬほど落ち込んでから3日後。

私は再び夜行バスに乗っていた。

なんと、あの夜
泣きながら応募したエキストラに当選したのだ。

信じられなかった。
メールで送られてきたエキストラ同意書に入力する指が震えた。

再び仕事終わりに駅に向かう。

今回は前回よりも強く自分に言い聞かせる。

ラウールは、「いない」。

「いないかもしれないよ」
じゃない、
「いない」。

2回参加して2回ともいなかったらもうほんとにそういうもんだと諦めるしかない。

もうあんなふうに錯乱したりしない。

前回と同様ほとんど寝られないまま
バスは横浜駅に着いた。
そこから電車を乗り継いで目的地に向かう。

朝日が眩しい。今日もよく晴れてる。

あと数駅で目的地
というとき
ラウールのインスタがあがった。

ストーリー。
車の窓を全開にして、根本を染め直したであろう金髪を、バサバサと風に吹かれている短い動画だった。

「今日の風」
とキャプションもついている。

思わず「はっ!」と息を飲む。

早朝の電車には数人の通勤客が乗っていてみんな静かに朝日を浴びている。
その中で私は一人、座席から軽く飛び上がってしまった。

ギュッと胸の辺りを押さえる。

これってラウールもどこかに移動してるってことよね?

来る?来るの???

期待しちゃダメだという気持ちがどんどん萎んで、
会えるかもしれない!来るかもしれない!
という熱い気持ちが膨らんで苦しくなった。


金色に輝く…

集合場所の駅に着いた。
今回の参加者は全部で多分30人くらい。

はじめの撮影場所に移動して映画の概要と撮影シーンの説明を受ける。
遠くに見える橋の上にカメラ、スタッフ。

スタート位置に立たされ、指示された方向を向いて待機。

日陰になる場所は寒いね、
などと、その日知り合ってずっと一緒にいることになるラウ担さんと話していたら、
遠くの橋の上に背の高い人物が現れた。


ああっ!!
と、今度は声が出てしまった。

輝く金髪✨
金色のピアスをしているのがわかる。
胸元にはネックレス。
赤いTシャツ、黒と白のパーカー、白いパンツ。
キラキラキラキラ輝く人物が朝日を浴びて橋の上を歩いている。

遠くても見間違えるはずがない
あの首の角度
歩き方

ラウールだ。

私はまたしても一瞬宙に浮いたと思う。
足元の感覚がブワッとなくなって
ざあっと世界が変わったような気がした。

悲しくて情けなくて消えてしまいたかった
4日前の私に
泣かないで、大丈夫、
次はラウールに会えるよって教えてあげたかった。

エキストラ

エキストラ
って本当に不思議な体験だなと思う。

推しに「会う」とき、私たちは通常は「お客」で
「ファン」でいていい。

ファンはキャーキャー言っていいし、
お金を払って見に来てくれたお客さんに、推しは手を振ったり笑顔を振りまいたりしてくれる。
ライブなら数多あるファンサうちわやペンライトの色から
積極的に自分のファンを見つけようとしてくれる。

でも今は全く立場が違う。

今回の映画は、エキストラを募集している段階ではキャストがラウールしか発表されていなかったから、
一般人の役で応募してくるエキストラはラウールのファンが多かったと思う。
それも、朝どんなに早くても電車を乗り継いで遠方から駆けつけてくれるような熱烈なファン。

それはスタッフもラウール本人もわかっていたはず。


でも、その関係性からあえて目を逸らす。

それがエキストラのいる撮影現場だと思った。


徹底していた。

全員集合した撮影場所で
「今日はよろしくお願いします」とスタッフから声がかかり
ラウールと骨子役の出口夏希ちゃんがぺこりとお辞儀をした。

私は気合いが入りすぎていて、その瞬間にバッとラウールたちの方に体を向け、ガバッと90度のお辞儀をしてしまったのだけど(・_・;

ほかのエキストラさんたちは無言で穏やかにパチパチパチパチと拍手していた。

その時もその後も、ラウールの視線がエキストラの特定の誰かに向けられることはない。

たとえば私たちが街中で誰かとすれ違っても
その人をじっと見ることはないし
むしろすれ違いざまには目を逸らしたりする。
電車のホームに何人か人がいても、その人たちは「電車のホーム」という風景の一部であって
どんな人たちなのか気にかけることもない。

通行人、観光客。
私たちは風景の一部になりに行く。

カメラが回っているときはもちろん、
カットがかかってスタート位置に戻る間も
私たちはただの風景。

彼がこっちに目をやることは絶対にない。
意図的に目を逸らされる。
仕事モードの顔は真顔だから
真顔でフィっと目を逸らされる。

エキストラも、心の中では大騒ぎしているけど
それを必死で押さえ込む。

平静を装って風景になりきる。
そこにラウールがいようがいまいが関係ない
「ただお散歩しにきただけです
え?今誰かとすれ違いました?
友達と喋ってて気づきませんでした」
くらいのテンションを
カメラが回っている間もカットがかかってからも必死でキープする。

同じ空間にいられるという最高に幸せな時間を享受する代わりに
推しに徹底的に「無視(極端な言い方をしています)」されに行く。
じっと見ることも、手を振ることもNG
ましてや、きゃーと声を上げることなんか絶対にできない。

みんなすごいなと思った。

私は顔がひきつっていたと思う。

直視できるのは彼の背中がこちらを向いているときだけ。
申し訳ないと思いつつ目に焼き付けた。

不思議と「でかい」とか「脚が長い」とかは全く思わなくて、
とにかく首が長い。
傾斜のついた長い首。
日差しの中キラキラしている金髪の後頭部と襟足の毛流れを見つめる。

肘までまくった袖から伸びた腕が細くて長い。

大きいフードのついたパーカーのロゴが妙に印象的だった。

スタート位置で待機しているときは
骨子役の夏希ちゃんがラウールとスタッフさんに話題を振って、雑談してるのがなんとなく聞こえる。
話してる内容は全くわからないけど
時々ラウールの「わははっ」ていう楽しそうな笑い声が聞こえてくる。

少し天を仰いで笑う、あの笑い方だ。
耳の神経だけをそっちに集中させる。

ラウールがリラックスしてる…
そう思うとなんだかすごく安心した。

そこにいたのは

短いシーンを何度も撮影しながら、キャストとスタッフが細かく打ち合わせしてる。
カメラが回り、演技をし、カットがかかってスタート位置に戻る
という動作が繰り返される。

エキストラもそのたびに、指定された動きをして、
カットがかかったらスタート位置に急いで戻るを繰り返す。

その中で、ふいにラウールの横顔を直視する瞬間があった。

びっくりするほど高い鼻と彫りの深さ。

木村昴さんがポッドキャストで
「グランドキャニオンかラウールか」
と言っているのを聴いた時、
まさにそれだと思った。

その顔で、今聞いたことを頭の中で整理しているのか、自分の中に落とし込んでいるのか、
あまり見たことのない少し難しい顔をしてスタート位置に戻ろうとしている姿。


それを目にした瞬間
頭をガツンと殴られたみたいに私はこう思った。

「あ、人間だ」

うまく伝わるかわからないけれど…

この人はこの奇跡の美貌を与えられ、
一生これを抱えて生きていくんだ
という事実。

私たちファンはラウールのこの顔が大好きで
何をしていたってどんな表情だって愛しているけど
ラウール自身にとってはこの顔、この容姿が好きとかどうとか関係なくて、
この姿かたちで生まれて芸能人として生きていくからには、
この美貌を背負って
保って、磨いて、
これからも
ずっと「好き」と言ってもらえる自分でいるために
努力し続けるんだ。
そういう使命を帯びてここにいるんだ。

そこには当然だけど私たちと同じ「人」としてやらなきゃいけない日々の営みがあり
そこに加えて人より輝くための地道な努力があって、
この美貌だからって免除されることは多分なくて。

「ラウール」という芸能人を成り立たせるための、想像もできないくらいたくさんの下積み、準備、日々の努力を彼はやってきてるんだろう。

彼はこの先もたくさんの人から注目されて生きていく。
自分にかけられた期待の大きさ
果たすべき役割の重み
そういうのを全部背負って
決意をもって生きてるんだろう。

もちろん彼自身はそれを楽しんでいることがわかっているけど
普通なら押し潰されてしまうかもしれない
それくらいのものを背負っている。

その上で今、主演映画の撮影に臨んでいる。
こうやって朝日を浴びて風を受けて
大勢のスタッフやカメラ、レフ板、
彼の映画のために集まったたくさんのエキストラに囲まれて
プロとして役割を果たしている。

その横顔を見た瞬間、ラウールとエキストラの間にあった透明なフィルターがほんの一瞬だけど、
ぱっと取り除かれた感じがした。

そしてその一瞬でラウールの生きている体温みたいなものがこちらに流れ込んできて

私は足がすくんでしまった。

ありがとう、ずっと応援しているよ

夢のような時間はあっという間に過ぎる。

9時半ごろには一般の、ほんとのお散歩の人や親子連れが来はじめる。

何かの撮影をしていることを感じ取って、
「なになに?誰がいるの?」て言いながら覗き込むようにこちらを見ている。

そんな中、エキストラとスタッフを残して、
先にラウールたちキャストの皆さんが撮影を終えた。

ラウールくんが帰る!
という囁きがさざなみのように起きて
今だけ、許せ!
て気持ちでエキストラたちがソワソワと持ち場を離れ、
ラウールの見送りに集結する。

ちょっとはにかんでうっすらと笑顔のラウールが、ぺこりぺこりと会釈しながら帰ろうとしている。

途中でスタッフに呼び止められ、
夏希ちゃんと並んで、公開までのカウントダウン動画?写真?を撮る。

「荒邦」と書かれたシールを貼ったベンチコートを羽織り、
再び一列に並んで拍手で見送るエキストラたちの前を
笑顔で会釈しながら通り過ぎていく。

夏希ちゃんと絶妙な距離をとって並んで撮影現場をあとにするラウールの背中。
この姿を私は一生忘れないでいよう。
そう決意した。

思い出の地に

その後も少しだけ撮影があって
記念品を受け取り
解散になった。

記念に何枚か、景色の写真を撮った。
多分最速の聖地巡礼だ。
もちろん情報解禁されるまでは誰にも秘密の聖地。

桐生で夜中のDMに付き合ってくれたあの友達が解散した場所まで迎えに来てくれて、
一緒にお昼を食べて、新幹線の改札まで送ってもらった。
ほんとはもう少しいたかったけど
「絶対に疲れてるはずだし、寝てないんだから
早く帰って寝なさい」
と言われて、素直に帰ることにした。

その後の日程でもたくさん申し込んでいたエキストラはどれも当たらず。

こまめに募集ページをチェックして、新しい日程が発表されたら再度応募もして、
呼ばれたらいつでも行けるように夜行バスやホテルを予約し、
もうこれはさすがにダメだとなってからキャンセルする。

4月末、
とうとう撮影はクランクアップの日を迎え

私の、エキストラを巡る怒涛の日々も終わった。


公開の日に

クランクアップから公開までのわずか3ヶ月のあいだに
ラウールはダンスの大会に挑み
パリコレに挑み
21歳の誕生日を迎え
帰国してからは新曲のプロモと
忙しい日々を送っていた。

ほんの数ヶ月前の出来事なのに
あの印象的な数日間が幻のように感じられ始めたころ

映画の本編映像が少しだけ公開された。

それは偶然にも私がエキストラに参加したあの日に撮影されたシーンで
ほんの1秒ほどだったけれど
私の姿もちゃんと写っていた。

それを見て、あ、私ほんとに参加したんだ
と思った。

雑誌の表紙祭りも始まって
それまでグループで最も露出が少なかったラウールの姿を、毎日毎日テレビで観るようになり

推しの主演映画
てこういうことなんだ
と実感が湧いた。

そしていよいよ明日、
映画『赤羽骨子のボディガード』が公開される。
ラウールが心血を注いで威吹荒邦になりきった作品。
大切に見届けようと思う。


私にとっても生涯忘れられない作品になるんだろう。

自分では手のつけようがない、
一旦リセットしなくてはどうしようもない自分が
この心の中にいると教えてくれた作品だから。

「あんなに羨ましくて悔しかったのは
ラウちゃんが好きすぎるからだよね!」

そんなふうに気楽に振り返れる日が
私にくるんだろうか。


おわり


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