ラブリラン 占い酒場でまっちーがオリビアラボでのことを振り返り、占ってもらったことは
新感覚ラブコメディー「ラブリラン」特別編、最終回の10話が配信終了しました。でも、全回配信されると聞いています。楽しみにしています。
古川雄輝くんと中村アンちゃんがW主演の本ドラマ。最終回の10話で、中村アン扮するさやかと古川雄輝扮するまっちー(町田)がいよいよハッピーエンドになります!!
でも、お互いに好きという気持ちに素直になって、相手を受け入れるまで山あり谷あり、いや、谷あり谷あり(具体的には39分ぐらい)、最後の二人の笑顔を見るまでは「我慢」です。
私はまっちーが大好きなんですが、オリビアラボを辞めてロンドンに行くことに関しては、よくわからないんです。転職してからイラついていたまっちーは、さやかのおかげでやり直す自信がついたのに、どうしてロンドンに行っちゃうのかなあ。
そんなとこも知りたいので、送別会の二次会で、菅野さんに聞いてもらおうと思ったんですが…。
町田は路地裏にある占い酒場にいた。
白い割烹着を来たおかみさんがやっている小料理屋だ。
「菅野さん、菅野さん」
菅野はカウンターの柱にもたれて眠ったまま反応しない。送別会の席で「まっちーをぼくの行きつけの店に連れて行きたい」と菅野がしつこく誘うので来たのだが、やっと着いて座ったかと思ったらこれだ。忙しい中に行われた送別会で飲んでしまったから、無理もないのだが。
「すみません、菅野さん最近仕事詰まってて疲れがたまってたんだと思います」
「大丈夫よ。どんなことがあっても終電には起きるから。少し寝かせてあげましょ」
入れ違いで男性客が出て行き、今は町田たちだけ。おかみさんは慣れた様子で驚きもしない。奥からケットを出してきて菅野さんにかけると、前の客の片付けを始めた。
菅野さんの平和そうな寝顔を見て、以前さやかと鷺澤さんたちで懇親会の席を設けたときのことを思い出した。
あのときも菅野さん寝てしまったんだよな。
町田はふっと笑った。
もう随分遠い昔の気がする。
「お疲れ様」
おしぼり、お箸、突き出しが出された。
「何を飲む?」
一人で飲むのも何だけど、何か注文しないと悪いな。
「ハイボールをお願いします」
おしぼりで手を拭きながら町田は店を見回した。
明るい色の一枚板のカウンターは3人座れるくらい、あと2人席と4人席。広さとしてはダリルよりちょっと狭いくらいか。新しくはないが、掃除が行き届いていて、照明は明るすぎず暗すぎず、居心地がよい。
「どうぞ」
小さくてよく動く手が町田の前にハイボールを出した。
炭酸がはじけて喉がうるおった。
小柄なからだはこの店にぴったり。女手ひとつで切り盛りしているんだからきっと、しっかり者なんだろうな。
「あんまりこういう店、来ないでしょ」
「そうですね」
壁に貼られたおすすめ料理を眺めた。
腹はそこそこいっぱいだけど、食べるとしたら。
あの「まかない焼きおにぎり」って何だろう、と思い、目線を移すと、おかみさんがにこにこ町田を見ていた。
「とっても仕事のできる人が入ったって、最初ちょっとビビってたのよ」
いきなり振られてよくわからない。菅野さん?
「むやみにたくさん仕事取ってこられたら、自分の仕事も増えちゃうじゃない?」
菅野さん、そんな心配してたんだ。
「でも始めてみたら、デザイナーの効率をよく考えてくれることが分かって、最近じゃ仕事がとてもやりやすいって、すごく信頼してたよ」
それが僕の仕事だから、と町田は思った。
それにしても。
菅野さんてこういう店で飲んでたんだ。
こういう、ほおがふっくらしたお母さんみたいな女性が癒しなのかな。玉子焼きの甘いにおいがしてきそうな、50歳くらいの。
プライベートのことはあまり知らなかったけど、結婚して子どもがいたと聞いてたから、なんか意外。
「送別祝いに、占ってあげましょうか? はい、手を出して」
そう言って、おかみさんはにっこり手のひらを見せた。
占い酒場ってそういうことか。
「あ、別にお金は取らないから安心して」
菅野さんは寝ているし、終電にはまだ時間はある。
町田は出されたおかみさんの手のひらに、自分の左手をのせた。
小さな手はあたたかかった。
「とっても細くてきれいな指ね」
おかみさんは町田の手のひらを返して甲を見て、指を見て、そしてまた手のひらを見た。
「とても目上の人に礼儀正しくふるまう人なのね。年上の人にかわいがられるタイプ」
「そんなことわかるんですか」
おかみさん、笑い出す。
「これは手相じゃないよ。今の印象」
「ああ、そうか」
そう、おれは知ってる。おれは目上の人は基本リスペクトしてしまうんだ。かわいがられるかは…ちょっと分からないけど。
だから年上のさやかに惹かれたのかなあ。鷺沢さんに問い詰められたときも勝てなかったし。あのパンチはきいたな、くそ。
「いまの会社はとても合ってたみたい」
「そうですか」
何でわかるんだ。菅野さん情報から? 見た目から? それとも脈拍から?
でも、そうだったかもしてない。
思い返せば、オリビアラボは真面目でこじらせのさやかとか、なんかおかしい菅野さんとかがいて、エリート集団というよりはでこぼこチームで、最初は不安もあったけど、みんなで頑張って、新規に化粧品メーカーと取引したりできた。オリビアラボには自分の居場所があると思えた。仕事をしていて「ここにいてもいいんだ」っていう自信をもらえた。
「懐の深い会社でした」
今朝の朝礼のとき、「まっちーが笑った」って菅野が泣いたのを思い出した。
おれ、そんな無表情で仕事してたのかな。すまなかったな。
送別会には他の人も来てくれて、みんないい人そうだった。あまり話す機会がないうちにお別れになって残念だったなと思った。
「自分の居場所があると思える会社だったのかな」
そうです、と町田は心の中で答えた。
「それなのに辞めちゃうのは、どうしてなの?」
変なこと聞くなあ。それは手相に書いてないのか。
「それは、、、ロンドンへ行って、世界的なプロジェクトチームで働くのが僕の夢だったからですよ」
「それは、今でなければ駄目なのかしら?」
「呼び寄せてくれる先輩がいて、今がチャンスなんです」
杏子も勧めてくれたし。
「そっか、それでロンドンを選んだのね。彼女には話したの?」
「話したっていうか…、つい昨日、振られちゃったんです」
「あら、ごめんなさい。そっか、じゃあ……遠い異国で失恋の傷を癒すなんてロマンチックな体験ができるわね。全然慰めにもならないけど」
「…そうですね」
気まずくなったのか彼女はじっと町田の手を見ている。
あんまり見られて、町田は自分の気持ちの奥底まで、もう全部おかみさんに見透かされたような気がしてきた。
「おれ、やり直すつもりで彼女に会ったんですよ」
町田は語り出した。
「おれ、彼女のことが好きなんです。なのに、彼女のこと誤解してて、冷たく突き放しちゃってたから、謝って、やり直したかったんです。でも、」
話すうち、あのときのショックが蘇ってきた。おかみさんは手を見ながらじっと耳を傾けている。
「彼女に付き合ってて辛い、もう忘れたいって言われて」
涙がつーっと落ちた。
「どうしたらいいんですか。どうしたら彼女と仲直りできるんでしょう。彼女とのこと、もう駄目ですか」
こんなに思っていたことに、町田自身が何よりびっくりだったが、事態は切迫していた。
町田はおかみさんの手を両手でがしっと握った。
「お願いです、彼女とのこと占ってくださいますか? どうしたらいいか教えてください」
涙がぼろぼろ流れ、鼻水も出てきてしまったが、構ってる場合じゃない。町田は必死におかみさんにすがった。
「好きなのに、やり直したのにまた振られるなんて、ばっかじゃねーの、おれ」
「うっうっ、さやか~」
町田は実は泣き上戸だった。
おかみさんは涙の土砂降りが過ぎるのを待って、それから話し出した。
占いが終わって町田の気分が落ち着いたころ、菅野さんがむっくり起きた。
「さあ帰ろうか」
あまりに唐突で心配なくらいだ。
「菅野さん…大丈夫ですか?」
「ぜんぜんオッケーよ…ていうか、おれ寝てた?」
おかみさんと町田は目を合わせた。
「今までずっと寝てたんですよ。おれをここに連れて来たくせに」
「ほんと? いや~ごめんごめん。でも終電逃すと奥さんに怒られるから、今日はもう帰ることにしてくれない? またゆっくり、まっちー。おかみ、お会計」
慌ただしさに、町田苦笑。
10分もたたないうちに二人は店を出る。ガラッと戸を開けると、夜風が心地よかった。駅に向かう。
歩きながら、
「菅野さん、あの店にどうして連れて行ってくれたんですか?」
「え? 何でだっけかな、うーん…、」
とくに重大な話とかはないのだなと町田は踏んだ。
「あ、占ってもらったの?」
「そうですよ。菅野さん寝ちゃってほかにすることもないし」
ちょっとすねた風に町田は答えた。
「へえ、何占ってもらったの?」
「内緒です」
「なに? なに? 教えてよまっちー」
すり寄ってくる菅野。
「ちょちょちょ、やめてくださいよ。言いませんよっ」
町田は笑った。
町田は気持ちを吐き出して、そしてたくさん泣いたおかげですっきりした。
ロンドンは夢への挑戦。
がんばる。
それで、おれは日本に戻ってくるんだ。
そして、さやかに会う。
「おれ絶対、日本に、オリビアラボに帰ってきます」
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