看取り時における点滴と窒息のリスク
特別養護老人ホームで看護師をしています。
私が働く施設では入所者様に点滴治療をすることがあります。
飲食できなくなり体力が落ちた時、一時的に点滴をすることで再び元気が戻ることがあります。
それを期待して看取り対応の方にも家族の希望があれば点滴治療をすることがあります。
(やらない選択もできます。基本的に看取りとは、日常生活の介助のみで延命を期待した医療的処置はしない。)
しかし、旅立つ日が近くなると1日500mlの点滴でも気道内分泌物(痰)が増え、咳で出せず肺に痰がたまって溺れるリスクが高くなります。
そもそも飲食しなくなるのは、体が旅立つ準備のために必要ないから摂らないのであり、そこに点滴で水分を体に入れるのは大きなお世話というか、ありがた迷惑なことなのだと個人的には思っています。
しかも窒息を防ぐための痰吸引は苦しい処置であり、それを続けたら穏やかな看取りではなくなってしまいます。
良かれと思ってしたことが、返って当人を苦しめることになるのかも知れないのだ。
だから点滴を中止する時期の見極めは大事。
ただ、愛からの決断に不正解はないとも思っています。
もしかしたら、少しでも長く生きてほしいという娘さん、息子さんのために
「しょうがないねぇ」
なんて思ってるんじゃないかしら。
飲食が取れなくなった看取り対応のМさん。
5日間点滴をしましたが元気は戻らず、ご本人の苦痛を考慮して止めることになりました。
この時点でわずかに肺に副雑音が聞こえたけど、SPO2は93%前後で咽頭の痰がらみはありませんでした。
しかし、その日の晩から喉に痰が絡みはじめて
それに気づいた夜勤介護士さんが口鼻腔吸引をしてくれたおかげで、朝まで何とか持ちこたえました。
(介護士さんも痰吸引ができる資格をもつ方がいて依頼すれば処置は可能。しかしナースの吸引処置ほど喉の奥の方まで管を入れてはいけないことになっている。)
朝、SPO2が70%代まで低下していたところにナースがかけつけ吸引処置して88%まで回復し、私がケアを引き継ぐことになりました。
付き添っているご家族と相談し、痰が絡んで苦しそうな時は吸引処置をすること、吸引処置は、なるべく苦しくないようにやるが、嫌だなと思ったらすぐやめるから教えてほしいこと、できるだけ希望に沿うケアをしたいので遠慮なく呼んでほしいことを伝えました。
日中は軽い吸引処置を何回か続けているうちに努力様だった呼吸は次第におさまり、夕方にはSPO2が93%まで回復、肺呼吸音も朝より改善してきました。
血圧や脈拍も安定しており、この分なら2〜3日いけるかも知れないと思いました。
しかし翌朝再び状態が悪化し、回復することなく旅立たれました。
夜間帯、痰はあまり引けなかったとのことで、窒息ではなかったのかも知れません。
個人的には、看取り時に点滴はしない方がよいと思っているが、してほしいというご家族の気持ちも分かる。
私だって親が同じ状態ならしてほしくなると思うかも知れない。
点滴しなかったらもっと早く旅立ったのかも知れないし、したから早くなったのかも知れない。
でも、副雑音が少し出てSPO2が低めになった時に点滴をやめおけばもっと楽だったのかもしれない。
こうすると一番良いんだよ、楽なんだよって
分かったらいいなと思う。
その、声にならない声に気づくことができるようになりたい。