事実は小説より、ドラマがある④【完】
異常な暑さが続く今年の夏。
土曜日の朝10時というのに、平日週5で使い慣れた渋谷の改札を通った。
(体力落ちたなぁ…)
ヨレヨレしながら、スマホ片手にお目当ての初めて訪れる美容室を目指す。
幼い頃、雑誌の切り抜きを美容師さんに見せて、同じ髪型にしてほしいとお願いしたことあったよなぁ。
今やインスタで検索すりゃ、膨大な髪型データとアーティストみたいな美容師さん達の動画が溢れ出てくる。
コンビニよりも、歯医者よりも、美容室の数が多くなるなんて、、、凄い時代だ。
ロングヘアの私は、東京暮らし当初、1回2万円弱の美容室に通っていた時期もあった。
カラー•カット•トリートメントまで付ければ、あっという間にこの値段となる。
出来れば通い続けたいところだが、東京の暮らしは私にとってそう甘くはなかった。
最近は、良心的なお値段、仕上がりまぁ良し、若者過ぎない雰囲気のお店をなんとなーく渡り歩いている。
だが、そんな事を数ヶ月続けていたある日。職場のトイレで鏡に映る自分の姿に、一気に悲しくなった。
40歳を前に年齢的な変化なのか、いや、それにしても、このみすぼらしさ、どうにかしたい…
早速、美容アプリやインスタ検索する事に。
ちょっとお値段張るけど許容範囲・雰囲気良し・プロフィールに30代40代大歓迎!と書いてある美容師さんを指名し予約してみる事にした。
初めて行く美容室は、いまだに意味のない緊張を少しだけする。
だけど、担当となった若いお兄さんは、とっても笑顔が素敵で物腰柔らかく、喋ればこの仕事が大好きです!なんて言うもんだから、なんだか可愛いし好印象しかなかった。
昔は、この場にいる全員が、お姉さんお兄さんに見え、憧れの眼差しで働く姿を眺めていた。
『美容師って仕事、カッコイイなぁ…』
当時の私は、芋っぽい音楽少女だった。
カリスマ美容師という言葉が出来た時代にドンピシャだった事もあり、ノリに乗っていた彼らが眩しかった。
今の私はどうだろう。
『頑張ってるなぁ』と応援したくなる眼差しになっちゃって。少し切なくもある。
ロングヘアの私は、担当のお兄さんとアシスタント君と二人がかりで、カラーをしてもらった。
カラーの最中、ふと何の気無しに店内に飾られたお店のロゴが目に入った。
ロゴの下に、~by○○~ と記憶の彼方に聞いた事がある名前が書いてある。
私『・・・by○○ って。違ったらごめんなさい。
ここのお店って、表参道にある○○ってお店と関係あったりします?』
担当『え、〇〇知ってるんですか?
ここ姉妹店なんですよ。ウチの店舗はあそこから生まれたグループ店で、今年オープンしたばがりなんですけどね。もともとの本体の会社は表参道なんですよ。』
私の個人的な想い出話なんて…一瞬血迷った。
私『昔ね、もう20年近く前になるけど。雑誌の企画に当選して、表参道のお店で切ってもらった事があるの。だから、なんだか思い出しちゃった。』
『その時、初めて地元から東京に行ってね。それもあって、私にとってはすごく思い出深くって。
担当してくれた人の名前もね、まだ覚えてるんだよ。でもすごく前だから、もう居ないかも。
確かTさんって名前、知らないよね…』
初めて来た美容室で、若者二人に20年前の話なんてするんじゃなかった。申し訳なく様子伺いながら、そっと二人に視線を向けてみた。
すると、2人は手を止め目を見合わせている。
担当『今、一気に鳥肌立ちました…』
アシスタント『俺もです…』
担当『Tさんって、僕らのマネージャーですよ!
この店はオープンして間もないから、つい先月までここに出勤されてて、一緒に働いてたんですよ!!
俺も、遂にTさんの次の担当かぁ~~~(笑)
感慨深いっす!!頑張ります!!』
3人の空気感が、パッと一変した。
Tさんは、大きな美容サロングループのマネージャーの立場となり、多くの部下や店舗を束ねる存在となっていた。
気のせいかもしれないが、2人の男の子達は急にスッと背筋が伸びた様に見えた。
こんな事ってあるんだな。
帰りの山手線、なんだかとってもとっても嬉しくなった。
20年前のあの日、たった1時間足らずだけども、私にとっては忘れられないTさんとの出会いがあった。
そして時代を超えて、Tさんの技術を受け継ぐ若き美容師さんに、髪の毛を担当してもらった偶然。
そして何より、あの日の若き『私』とも、再会出来た様だった。
今の地点から、東京さえも知らなかった遠いあの日の私へ、声を掛けてあげれるならば、こう伝えてあげたい。
『大丈夫だよ。
誰に笑われようと、何と言われようと、
あなたが信じる道を突き進んでごらん。』
たまにこう思う時がある。
謎に起こる直感とか、何かに突き動かされる感覚ってのは、未来の自分自身からの、メッセージ(導き)なのかもしれない。
この世界に沢山のパラレルワールドやタイムラインが同時に存在するとしたら、そんな考えもありではないか。
私の実家の押入れの中には、表紙がボロボロになった女性ファッション誌が大事にしまってある。
そこには、頬っぺたを赤くし、はにかんで笑う大学生の私が掲載されている。
全ての出来事は、私(あなた)の人生にとって必要不可欠で大切なストーリーだ。