黒歴史の始まり⑨
人目も憚らず、泣きながら歩いた。
家で布団にくるまり、思う存分泣きじゃくりたい。
けれど、今は電車に乗れる状態じゃないほど涙がとめどなく溢れてくる。
私は、歩き続けるしかなかった。
人生初めて就職した職場の最終日を、いまだにふとした瞬間思い出す。
私は数週間であっけなくクビになった。
出社初日「ヤバそうな職場だなぁ、、、」
なんて思ったが、突然訪れた最終日はそれを上回る結末が用意されていた。
最後まで編集長の事は好きになれなかったが、私もどうしようもなく幼な過ぎた、そして、あまりにも向いていなかった。
そりゃそうだ、本当の志望動機は、ただオシャレな世界でキラキラわくわくチヤホヤされたいだけだったからだ。
ただ、就職してからの数週間、同期のカメラマンと取材へ走り回り、未熟なりに頑張ったつもりだったが、全てが水の泡となり1つ1つの経験は、遠く遠くへと消えていった様だった、、、しかし決して惜しくなかった。
情けなさや悲しさ、そして恥じる気持ちなどの感情が、心の中で入り乱れた。
「もういっそのこと、全てが幻想だったと消えてしまえ。」
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その後、私はいくつもの職場を転々とした。
東西南北いくつもの町へも移り住んだ。
工場、接客業、営業職、会員制クラブ、ガールズバー、キャバクラ、…etc
大学を卒業し、家族や地元の田舎から逃げる様に離れた私は、いつの間にか月々の生活費を稼ぐ事の方が大切となった。
そうなると、音楽とかキラキラした夢とか、語れるほどの余力は残らなかった。
生きる為、ただ、生活に追われる。
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あの日、私はグチャグチャな泣き顔で、周りへまともな挨拶も出来ず職場を後にした。
あの光景を思い出すと、仕事でちょっとやそっと嫌な事があっても、あの時感じた感情よりはマシだ、、、となる。当然の事ながらこの日の事は、自分を励ます秘密兵器の様な思い出になっていった。
しかし、3年、5年と月日が過ぎてゆくと、そんな秘密兵器も、もう不必要となった。
遠い未熟なもう1人の自分を、遠くから見守る様に、私は記憶を傍観するまでに成長した。
ただ、悲しいかな、犯罪を犯して生きている訳ではないのに、いつも何か、「社会」に、「生活」に、「人生」に、追われているような気分だった。
そして、いつもふとした瞬間に、もっと余裕があればな…と、心の中は呟いていた。