殺人者の生まれるところ(『Remember You』感想)
人生って誰のものなのでしょうか。
育ててくれた人がいて、その人がいなかったら今の自分はないとして、でもそれって、今生きているのはその人のおかげなのでしょうか。
人生はただ一人、自分だけのものなのではないでしょうか?
上質なサスペンス
次々に殺人事件が起こり、凄惨で暴力的なシーンも数多くありますが、それらに耐性がある方には是非おすすめしたい、とてもよくできたサスペンスでした!
主人公であるタンワとアーイのペアが因縁の殺人犯・パトムカーンの真実を追う話でありながら、数話ごとに別の殺人事件が起こってどんどん進行していくので、まったく飽きさせません。
1時間×16話構成ですが、続きが気になって長さを感じませんでした。
そして、伏線の張り巡らされ方も見事でした!
ミステリドラマの中には、最後に「実はこうでした」とすべてが明かされ「初耳なんですけど!?」と置いてけぼりになることも少なくないですが、今作では必要な情報はすべて序盤から描写されているので、真実が明らかになる過程で「ああそういうことか!」「あれはそういう意味だったのか!」と、驚きと共に納得感を得られます。
ヒントはすべて出ているので、推理しながら見るのも楽しいかもしれません。
キャストとキャラクター
メインキャラクターを演じる俳優さん方は、我らがTay Tawanを除くと初めましてな方が多く、純粋に物語にのめり込んで見ることができました。
皆さんとてもハマり役で、子役の二人も素晴らしかったです。(彼らの存在感がありすぎて、見事にミスリードされましたが…)
ヒロインのアーイは、主人公らしい無鉄砲さはあるものの、そこまで極端なキャラ付けをされていないので、彼女視点でニュートラルに物語を追うことができます。
タンワとアーイの関係性は一服の清涼剤✨
もちろん、Tay目当てで見ても120%満足できること間違いなし!
何を言ってもネタバレになるけれど、個人的には、この作品の中で一番演じ甲斐があって見どころのある役だと思います。
親と子、そして家族
印象的だったのは、「親の代の報いを子が受ける」「親の代の因縁を子が清算する」という点でした。
物語全体を通して親子や家族のつながり、兄弟の絆がキーポイントになっていますが、これらが色濃く描写されているのはアジアならではなのかもしれないと思ったりもします。
成長して大人になっても、決して切れない絆、つながり。
「自分には関係ない」と断ち切ってしまいたいけれど出来ない因縁めいたものが全編にわたって支配していて、思わず人生って誰のものなのか…と考えてしまいました。
⚠ここから先、盛大なネタバレ⚠
以下、ラストのネタバレを含みます。未視聴の方はお気をつけください。
あまりに美しく伏線が張られていたので、つい深読みしてしまったことがありました。
15話のラストでタンワが殺人の記憶を思い出しますが、「ああ、タンワにも暴力的な殺人者の顔があったのか…」と思ってしまったんですよね。二重人格だったのかな?と。そして父親とミーナとパトムカーンは気づいていたのではないか、と。
ミーナが一つの体に頭が二つの絵や、笑顔の後ろに暗い顔が寄り添っている絵を描き続けたこと、父親がタンワこそが怪物であると決定づけたこと、ミーナの「お兄ちゃんの言うことは信じないで」という言葉、タンワとミーナが接触できないように離されたこと…。
でも、作中で明言されたとおり、タンワの殺人がきっかけでミーナの暴力性が引き出されてしまったというのが真実で、それ以上でも以下でもないのでしょう。
あくまでタンワの殺人は、正当防衛のあの一度きり。
ということで、二重人格はさすがに深読みしすぎましたが、タンワにも愛する者(=ミーナ)を守ろうとして表に出てしまう暴力性があった…ということは示唆されていたのかもしれません。
最終話でミーナがパトムカーンに刺されたときに、我を忘れて殴りかかっていました。あれは子供の頃と同じく、暴力性が顔を出した瞬間に見えました。
強制的に止められなければ、以前と同じく殺めてしまっていたのかも。
一年後、ミーナはタンワの愛によって何かを変えることができたようでした。残していったのは用意された別人のIDでしょうか? 希望の光が見えるラストでした。
ですが、アーイですらも殺意を露にする描写があったように、人には必ず別の顔がある、誰でもミーナやパトムカーンに成り得る素地は持っている…そういう見方もできるようになっていたようにも思いました。
★2022年1月視聴
★画像 cr.NETFLIX