神様がくれたアディショナルタイム(『The Shipper』感想)
簡単に言うとこういうストーリーですが、これだけでは語りきれない魅力がたくさん!
一方的に妄想していた相手の体に入ってしまったことで彼の本当の姿を知ったり、思いもよらない人に好かれたり――という入れ替わりものの王道はしっかり押さえつつ、友情、恋愛、兄弟愛、親子愛などたくさんの愛、そして「Shipper=カプ推し」についても深く表現されている、大好きな作品です。
パンがつないだ時間
この物語の主人公はキムの体に入ったパンで、キムの登場シーンは過去回想がほとんどです。
それにもかかわらず、周囲の人々を介してキムの真実が浮き彫りになっていく終盤は、彼の抱えていた想いにただただ圧倒されて涙が止まりませんでした。
そして、少しずつ気づいていきます。
キムの物語は、1話の事故前にすべてが綴られていたのだと。
行動も想いもすべては既に存在していて、パンが彼の体に入ったことで、たまたま周囲に明らかになっただけなのだと。
試合の行方はもう見えていて、数分間のアディショナルタイムでは結果は変わらないかもしれません。
でもパンが期せずして時間をつないだことで、キムが抱えていた葛藤や愛情が、彼の大切な人たちに届くことになった。彼らが受け取るための時間が与えられた。
……最終話の一番最後のシーン。
もしあれが、1話の時間軸だったとしたら。
この時間は、キムが願った奇跡だったのかもしれません。
# WayKimForever
同じ傷と息苦しさを抱えていたキムとウェイ。
……キムはウェイに出会えて、すごく救われたのだろうと思います。誰かのために頑張るという理由ができて。
依存に近いかもしれないけれど、本当の意味でもたれ合って支え合っていたのではないでしょうか。
1話以前の二人については想像するしかないですが、ウェイが「鈍い」と言及されていたことを考えると、キムはもう少し自覚的だったのかなと思いました。ピンピンがいたので、関係を発展させたいとは考えていなかったと思いますが、自分たちの絆の強さを知っていたと思います。
それでも、お互いのためにそれぞれの道を進むべきだと分かっていた。
そしてきっと、その先を信じてもいたのではないでしょうか。
「#WayKimForever」と綴った気持ちは嘘じゃない。
彼らの絆は、あのバイクで出会った日からずっと育まれ続けていて、二人ともそれを知っていた。
だから、ずっと――出会った日から事故の日までずっと、彼らは幸せを感じていたと信じています。
優しさでできている
この作品が持つ、視点の優しさが大好きです!
たとえば、Ship行為について。
全編通して「妄想と現実は違う」と強調されていて、生きている他人で妄想することの代償は、1話できちんと描かれています。パンとソーダの後悔から物語は始まります。
でも “推しCP” のリアルは、パンやソーダの妄想なんて軽く超える、遥かに深く尊いものでした。
Shipperを否定しないこの展開は、「自カプもそうかも!」と思う自由を許してくれる、とても優しいものだと感じます。
それから1話で、パンが「二人はお似合い」「好きだからこそ素敵な人と幸せになってほしい」と、彼らの核の部分を捉えるような発言をしているんですよね。
その時キムが何を思ったかは想像することしかできませんが、もしかしたら救われたキムはいたかもしれないと思います。
もう一つ。
キムが行っていた行為は決して許されることではなく、誰かのためであれば仕方ないねという話ではないと思います。
でもウェイは、彼の行動を優しさとして受け取っていました。ウェイには全部伝わっていた、そこに意味があるのだと思います。
この描かれ方が、とても優しくて大好きです。
……物語のラストで、パンとソーダはShipし続けることを選択します。
その意味合いは1話時点とは大きく異なっているわけですが、 “他人で勝手に妄想する” という行為自体は変わりません。
でもウェイは、それを目にして微笑んでいました。
彼女たちのShip行為の根底にある想い――ただ推したちに幸せでいてほしい、という想いを受け止めてくれたのだと思います。
“Shipperの業” とでもいうべきものも一緒に受け入れてくれているようで、とても優しいラストです。
Ship行為の問題点はきちんと描きつつも、それをマイナス面を並べ立てて糾弾するのではなく、優しさと愛でもって教えてくれる。
とても素敵な作品だと思います。
★2020年12月視聴
★画像 cr.GMMTV(Youtube)
※当時アップした「初見感想メモ」をまとめ直しました
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