コロナ危機の次は食糧危機
昔から人類の歴史の中で、疫病の後には戦争、そして飢饉が来るというパターンは幾度となく繰り返されてきたわけですが、どうやら21世紀に入ってもそれは変わらないことになりそうです。
▼小麦価格の記録的な高騰
大手肥料メーカーのヤラ・インターナショナルは、ロシアのウクライナ侵攻によって世界的な食糧供給が危うい状態だと警告しています。
短期的に見ると、ヨーロッパでの食糧生産に使われる原材料をまかなう調達源はなく、世界の最も恵まれた人々しか十分な食糧を得られなくなる可能性があるというのです。
教科書などでは必ず習う日本の低い食料自給率。その中でもダントツに低いのは小麦であり、約9割は輸入に頼っているというのが現状です。そのため、政府は小麦を安定的に供給するためほぼ全量を買い入れて、製粉会社などに売り渡しています。
その価格は直近の半年間の国際価格を参考に決定されているのですが、昨年アメリカとカナダが干ばつによる不作に見舞われたため、この4月には17.3%の引き上げが決まりました。
ただし、4月の価格改定には、ウクライナ情勢やロシアへの経済制裁の影響を一部しか織り込んでおらず、次回の売り渡し価格が改定される10月にはさらに上昇する可能性があるそうです。
▼世界的な肥料不足も起きている
実は、ウクライナ侵攻前の2月はじめからロシア政府は2か月間の「硝酸アンモニウム」の輸出禁止を発表しています。
この硝酸アンモニウムというのは、世界各国では肥料の原料として広く使われているもので、ロシアの輸出量は世界1位、生産量も世界1位。生産量は世界の 3分の2を占めているため、ロシアから多くを輸入している国では、これから大きな影響が出てくるものと思われます。
硝酸アンモニウムと尿素は、世界で最も多く使用されている窒素肥料の主な原料なのですが、昨年11月の時点の韓国での報道では、価格上昇についての懸念が示されていました。
尿素は主に石炭と天然ガスから抽出したアンモニアを使って製造されています。その2つの原料価格が上昇していることで、尿素の価格も跳ね上がっており、最大の生産国・中国が、国内需要を満たすために輸出制限したこともさらに追い討ちをかけているそうです。
また、中国はリン酸についても2022年6月まで輸出を禁止しています。
世界第2位のトウモロコシ輸出国・ブラジルはロシアからの硝酸アンモニウムの最大の輸入国でもあるため、ウクライナ侵攻直前にボルソナロ大統領がロシアを訪れて、ロシア製肥料の調達など経済的な連携について話し合いを行っていました。
同じように、世界第1位のトウモロコシ輸出国・アメリカでも、肥料価格高騰によるコストの上昇を嫌って春作物の植え付け面積が減るという懸念があるようです。
日本の農業では硝酸アンモニウムは使われていないそうですが、日本に輸出されている農産物は海外からの輸入品が多いわけで、ロシアによる肥料の輸出禁止は、今後の食糧価格に大きな影響を与えることが確実でしょう。
加えて、カリウムとリン酸は日本国内でも広く使われている肥料です。日本と同じコメ生産国であるタイでは、肥料代の高騰によるコメ生産への打撃が予想されていて、タイ農業協会の会長は以下のように主張しています。
小麦だけでなくコメの価格も高騰となれば、日本人にとっても、かつて冷夏の影響でタイ米を緊急輸入した平成のコメ騒動の再来か、それ以上に危機的な状況になる恐れもあります。
ちなみに、前述の韓国の記事の中で、現代の農業において肥料の果たす役割について触れていたのが印象的でした。
▼食料を買い占めている中国
尿素、リン酸という重要な肥料を輸出禁止としている中国。その一方で、あまり報道されていないことですが、国家をあげて大規模な食料の買い占めを行っていることが報道されています。
昨年秋、中国商務省が地方政府に対し、冬から春にかけて生活必需品を確実に供給するよう指示。一般家庭に対しても冬の数カ月、非常事態に備えて日用品を備蓄するよう促しました。
この声明に対してネット上では、食料備蓄の要請は台湾への攻撃と関連しているなどと臆測するコメントが相次いだため、国営メディアは食料備蓄の呼び掛けは、コロナ感染拡大で自宅待機を余儀なくされた場合に備えるためだという火消しを行なっています。
また、ウクライナ侵攻後には、複数のメディアで中国での小麦の収穫が「史上最悪」になる見通しが報じられました。
その原因は、2021年の大雨によって通常の小麦作付面積の約3分の1の作付けが遅れたからだと言います。
日本は中国から小麦の輸入をしていませんが、世界全体の穀物供給が少なくなっている状況の中では、大きな影響につながりかねません。
▼穀物の価格高騰をまとも食らう畜産業
人間にとっても不可欠なカロリー源である穀物ですが、その価格上昇によって確実に大きなダメージを受けるのが「食肉」。家畜を育てるエサが高くなることで畜産業者が窮地に立たされることになります。
記事中で取材された神奈川県・葉山の畜産業者の方は「このままの状態が続けばどんどん畜産業をやめる人が増えてくる」と言います。
食肉を生産するには、エサとなる穀物が不可欠。一般的には、肉1kgを生産するのに牛なら11kg、豚なら7kg、鶏なら4kgの穀物が必要と言われており、いまや世界の穀物の半分は畜産のエサに使われている状態です。
その穀物の供給が激減したらどうなるか・・・?
人間の食べる穀物と優先するか、家畜が食べるエサを優先するか、という話になるのは当然の流れでしょう。
2022年から始まる食料危機では、まず肉から食べれなくなっていきます。いちおう、代替案は提示されていますが。
▼代替肉が躍進する
いわゆる「代替肉」とは、大豆などの植物性タンパクから作られていながらも、本物の肉のような食感味わいが再現された食品。もともと肉魚を食べないベジタリアンや、動物性タンパクを一切摂らないヴィーガンの人たちに好まれています。
こうした代替肉は大きく分けて「植物肉」と「培養肉」の2種類があります。
「植物肉」
大豆、小麦、じゃがいもなどから作られ、フェイクミートとも呼ばれています。
「培養肉」
動物の細胞を培養して作られます。細胞から作られるので家畜を殺す必要がありません。微生物を発酵させてタンパク質を作る方法も研究が進んでいるそうです。
このような代替肉のメリットは、畜産業が放出する温室効果ガスを削減できる事だとされてきましたが、食料危機によって半ば強制的に「リアル・ミート」からの転換が進むことが予想されます。
世界経済フォーラムが2030年までに起こる「グレート・リセット」の中で、肉の消費は最小限にまで抑制されると予測していたように、一般大衆の食事からは本物の肉が消えることになるでしょう。
また、代替肉が普及して畜産肉を上回るシェアを占めることになれば、畜産業で働く人、食肉の流通・販売に関わる人も「リセット」されることになります。
また、代替肉のさらなるオルタナティブとして、「昆虫食」というのも用意されています。イナゴを食べられる人なら抵抗ないのでは?
▼先進国はすべて代替肉に変えるべき
世界的なパンデミックを5年以上も前に予測していた世界最大の慈善事業家であるビル・ゲイツ。彼も代替肉を強力にプロモートしている人物の一人ですが、インタビューの中で食糧問題について以下のように語っています。
もちろん、エールを送るだけでなく、ゲイツ氏はこうした代替肉メーカーへの投資も怠っていません。代替肉を手掛ける2大メーカー、インポッシブル・フーズとビヨンド・ミートそれぞれに投資しています。
また、投資家としてだけではなく、2021年春にはアメリカ最大の農地所有者になったことも報じられていました。
ゲイツ氏がそこまでたくさんの農場を買っている意図は不明だそうですが、彼の農場で作られている作物はニンジン、大豆、米、玉ねぎ、イモ、綿花など。なんだか普通・・・に思えますが、先を見通すのが得意なゲイツ氏なので、これから高騰する作物なのかもしれませんね。
ちなみに以下の記事によると、マクドナルド用のジャガイモも作っているのだそうです。
そして、ビル・ゲイツ氏と言えば、新型コロナウィルスをはじめとしたワクチン開発への支援で有名ですが、代替肉を製造する技術を応用することで、レタスやほうれん草などの野菜にコロナワクチンを注入した遺伝子組み換え野菜も作ることが可能だそうです。
カリフォルニア大学リバーサイド校・植物学部のジラルド教授によれば、
ファイザーやモデルナのワクチンに使われるmRNAの溶液を野菜に移植することで、日常的なコロナ感染対策が可能になるというのです。
この技術は上述のレタスやほうれん草だけでなく様々な野菜にも適用できるそうで、ジラルド教授は大規模な農家にも恩恵をもたらすことになるだろう、と予測しています。
▼食料自給率37%の日本はどうなるか
世界的に見ても、日本の食料自給率(カロリーベース)は極端に低い部類にありまして、2018年のデータになりますが主要な先進国では以下のようになっています。
「カロリーベースの食料自給率」というのは、食事を通じて摂取できるカロリーの自給率を表しています。国産の牛肉や豚肉を食べたとしても、牛や豚のエサである飼料がすべて輸入されている場合、摂取カロリー自給率は0カロリーとなります。
もし、飼料の輸入が途絶えてしまえば、日本の畜産業は壊滅的な打撃を被ることになります。数字だけで言えば、牛肉の生産は現状の9%になる可能性すらあるということです。
以前にも紹介したことがありますが、政府が公表している「不測時の食料安全保障マニュアル」によれば、もし食料の輸入が途絶えた場合に、生きていくために必要な1日当たりの摂取カロリーを確保する食事メニューは以下のようになると予想されています。
さらに、マスコミがコロナ報道→ウクライナ報道に忙しい中、農業の現場では大変なことが起きているそうです。
去年2021年から上述した肥料に加えて、農薬、ハウス用ビニール、機械の価格が高騰し、大規模な農家が苦境に陥っていると。
ただでさえ農家では高齢化も進んでいた上に、2020年からコロナ禍での外食産業などの需要が減ってしまって農産物の価格は下落。そのために廃業を決める人も増えているそうなのです。
その結果、(ウクライナ危機がなくとも)食料危機が2〜3年、早ければ1年で来るのではないかと現場の農家さんは予想されています。
先に書いた食料自給率で日本は韓国と並んで最下位にあり、私たち日本人の食卓は、とても脆弱な基盤の上に成り立っているのをお分かりいただけたと思います。
今後、ウクライナでの紛争が長引けば長引くほど石油・天然ガス価格が上昇、食料を含めてあらゆるインフレが進むことで、紛争当事国であるNATO(ヨーロッパとアメリカ)、欧米に経済制裁されているロシアよりも大きな被害を受けることになるかもしれません。
最悪、飢餓をさけるために食糧を配給制にする、というシナリオもありえるのではないでしょうか。そして、配給を受ける際には、これまでなかなか普及が進まなかった「マイナンバーカード」が必要となる→ それを元に国民全員をデジタルIDで紐付けして一元管理、という流れも見えてきます。
それを行うことで、今後AIの普及や職業自体がなくなるような「グレート・リセット」によって仕事を失う人にベーシック・インカムを配布するインフラも整う、というメリットもあるわけです。
全国民へのデジタルID配布は、陰謀論ではなく国連SDGsや世界経済フォーラムが2030年に向けて計画している目標でもあります。そのあたりについては、以下の記事で書いておりますのでご参照ください。
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