【うちよそ】出会った頃は遊び人【ゼルこけ】
こけしくんと出会った頃は
リムサ・ロミンサとゴールドソーサーを往復してたゼル。
7人の姉に鍛えられし気遣いと
磨き上げられた女性の扱いは伊達ではない。
つまり、恐ろしくモテた。
実は、ゼルから女の子に声を掛けたことはない。
この頃のゼルは大家族の実家を飛び出した寂しい末っ子で、
一緒にいてくれる誰かを必要としていた。
実家の在り方が珍しいのは知っていたけど、
いつか両親のように
好きな人と家族になることを夢見ていた。
子供の頃、大好きだった人とずっと一緒にいれると信じてたけど、
その人はいつの間にかいなくなっていて、
さよならもできなかったのは
ゼルの中で重く残っていた。
本人は気づいていなかったけれど。
だから、好かれるとゼルは少し安心できた。
一緒にいたいって言われると嬉しかった。
望まれるように過ごして、でも何故か寂しいままだった。
ゼルのモテにあやかろうとする悪友も多かった中、
純粋に遊ぶことを一緒に楽しめたのがこけしくんだった。
こけしくんと一緒にいるとただ楽しくて、
ゼルはずっと笑ってた。
寂しい気持ちはなくなっていった。
ある日、ゼルはこけしくんと花火を見ていた。
嬉しそうに笑ってる瞳に花火が綺麗に映り込んだのを見て、
ゼルは唐突に理解した。
友達を、好きになってしまった。
顔には出さずに済んだけど、
ものすごく動揺した。
ゼルは女の子にものすごくモテたけど、
男の子にも実はモテていた。
ゼル自身は、あまりその辺の拘りはなくて、
誰にでも、好かれたら嬉しいような気がしていた。
だけれど、自分自身が
友達を友達として好きでいられなかったことに
大きな衝撃を受けた。
こけしくんが女の子大好きなのも知っていたから
人知れず苦悩してた。
ちょうどその頃、こけしくんは恋をして
だからなのか真面目に働き出して、
ほんの少しだけ疎遠になった。
ゼルもだいぶ悩みながら
悪友たちと縁を切って
冒険者として働き出し
踊り子として興行に加わるようになった。
たまーに声を掛けて一緒に飲みに行くと
段々と元気のなくなっていくこけしくんが心配で
ゼルは努めて明るく振る舞ったり
気安い友達でいることを心掛けていた。
「ゼルくんなんか変わったな〜、元々かっこよかったけど、もっとかっこよくなった!」
隈の酷いこけしくんが
大好きな笑顔で他意なく褒めてくれたことを
ゼルは素直に喜びとして受け取った。
そのときの返す笑顔は子供のようで。
「こけしくんに褒められて嬉しいよ、ありがとう!」
ゼルの中の寂しい気持ちはすっかりなくなった。
好きな人のことを考えながら過ごしていたら
子供の頃みたいに素直な気持ちで何でも頑張れた。
遊び人の振りをしていたけれど、
ゼルは根が真面目だったので
何かの為に頑張るのは合っていたようだった。
そうしてゼルは
本来の自分に戻りつつ日々を過ごして
着実な努力を重ねていった。
結果はこの通り。
遊び人に見えたゼルの中身は
とにかく一途だったので
こけしくんもさぞや驚いたでしょうね。
計算通りとかではない。
ただ好きな人との明日を楽しみに
日々を頑張っていただけの、
心の在り方は少年時代から
ずっと変わらないゼルだった。
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