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「ことばの日記」をつけてみた【10/7~10/13】
そも「ことばの日記」とはなんぞや、といえば、先日の文フリ大阪にて発行したZINE『暮らしは、ことばでできている』内の企画である。
これに加えて、吉田ボブさん、ぃぃさん、山本ほらさん、松本昨さん、昼間さんによる「言葉の日記」を収録しています。日々の暮らしの中で出会い、拾い集めた言葉をめぐって書かれた日記的エッセイです。
せっかくなので自分でもやってみた。なお、字数は一日400字までとします(3 ツイートいかないくらい)
※ZINEの試し読み、取扱書店、通販についてはこちら
それでは!
10月7日(月)
印象に残った言葉を、といいつつ、耳から言葉がなにも入ってこない。
新しい職場で、わたしの席はマネージャーの対角線上に配置された。6人掛けデスクの角と角。たったそれだけなのだけれど、口頭指示がほとんど聞こえない。チャットでまとめてもらえるのを待って、質問があれば後で持っていく……というスタイルが早くも定着しつつある。
耳からの言葉はスッと溶けて流れていく。
お世話になった先輩が大学を卒業するとき、ふたりで鉄板を挟んでお好み焼きを食べながら、「lotusは真面目そうに見えてほんまに教授の話聴いてへんから不思議やった」と言われたのを思い出した。
だからSNSにしがみついているんでしょうね。SNSの言葉は流れていかないから好きだった。泥みたいに溜まるけど、溜まるから触っていられる。
お好み焼きの生地はちゃんとボウルの底から混ぜなければならない。
10月8日(火)
『パンとエスプレッソと』のローソンコラボがあまりにも話題なので、棚からフレンチトーストを掴んで帰ってきた。ずっしり重たいフレンチトースト。
急な冷え込みはつらい。から、ええやろと思う。
大学2年の今ごろ、不可逆的に体調を崩した私に、ある先輩が「写真やりな〜」と言った。撮れた写真はできるだけいっぱい送ってなとも言われたので、空きコマぜんぶ使って学内をうろついた。
ある日、その人が、手のひらサイズのやわらかい紙束をくれた。見ると、写真集だった。カラフルな写真たちが和紙に刷られて、目玉クリップで綴じられた手づくりのもの。
いいですね! これ先輩が撮ったんですか! と言ったら、ちゃうちゃう、と返された。
全て私の写真だった。いいかんじにトリミングされて、色味を整えてもらった写真は、ぶっちゃけ素人(私)が撮ったとは思えないぐらいよかった。
その裏表紙に、鉛筆で、薄く、小さく「carpe diem.」とあった。意味は「恥ずかしいから教えてあげへん」とはぐらかされた。
ということを、毎年、秋が来るたび思い出すので、冷え込みがつらいぜと思ったら甘いものを食う。それが今年はフレンチトーストでした。carpe diemの意味は、そのまま、知らないままにしてある。
10月9日(水)
突然「カチョエペペ」という単語が頭から離れなくなったので調べたらパスタの名前だった。どこで仕入れてきたんだ……。
ほなチュパカブラもパスタの名前やったか、と思ったらそれは怪物の名前だった。山羊の血を啜るものだった。啜る違いだった。
10月10日(木)
こんなに寒いのに、土日は最高気温26℃まで上がるらしいと聞いて「ウソをついてんじゃねえよ!」と思った。私が「ウソをついてんじゃねえよ!」と思うとき、頭の中でコドブレの刻くんが「オレは!! てめえをどれだけ‥‥!!」と続ける。
FGOの3000万DLキャンペーンで、ナポレオンをお迎えした。戦闘終了のたびに「オレはここにいるぜ!」と言ってくれるのがうれしい。ゲッテルデメルングでは泣きに泣いた。あの世界に彼がいてくれて本当によかった。
ナポレオンがそこにいる、ラストシーンのスクリーンショットを今も大事に持っている。
ところでコドブレの最大の功績は、くそみたいな世界でも、どこかに「刻くんがいる」と信じさせてくれたことだと思いませんか。あの誠実なラスト。どこかで戦うみんながきっといるから、自分は自分なりに正しく生きようと思えたこと。
という話をずっと誰かとしたいのに、自分以外のコドブレファンにまだ出会えていない。なぜ? どこにいるんですか?
※コドブレ:『CØDE:BREAKER』。2008年〜2013年にかけて週マガで連載されていた。lotusが唯一リアタイで完結まで追いかけた漫画。
10月11日(金)
自宅の最寄駅前に吐き出されたところで「ここ、いい街だよなあ」と若い声が聞こえた。わかるぜ、と思ったら「呑むためにある街だよな」と続いたので、ずっこけそうになった。
たしかに駅前は呑み屋さんだらけで、客引きも毎晩いますが、ちょっと離れると緑豊かなジョギングコースがある。図書館も大きいし、本屋も多い。買ったベーグルサンドをその場で温めてくれるパン屋まである。
住み始めてまだひと月だけど、わたしはこの街をけっこう気に入っている。
ただ、ここに来てすぐのとき、無性に鴨川が恋しくなったときがあった。ここに鴨川はないんですか? と思って探したけど、なかった。
東京から出てきた友人と鴨川に来たとき、彼女がめちゃくちゃ喜んでくれたのはそれだったのか。先斗町でこだわりのホットティーをテイクアウトして、それが一瞬で冷めるぐらい寒かったのに何時間も喋ったよなあ。芝生の露でコートが濡れるのも気にしないで。
10月12日(土)
今日は書くことねえや〜と思っていたけど、最後の最後でぜったい書きたいことができた。
こないだ読んだ『レヴィナス入門』(ちくま新書)はじめ、最近やたらハイデガーと出会うので、誰やねんと調べていた。けど本もネットも何言ってんのかよくわからず、最終的に、賭けの気持ちで『超訳・哲学者図鑑』(かんき出版)を買った。もうもはや雰囲気だけでも知れたら万々歳だと思っていた。
ハイデガーを知るために買ったので、いの一番にハイデガーを引いた。「現象学」で死について考えた人とあった。「現象学」に注がついていたので、飛んだら、フッサールという人が出てきた。今度は、影響を与えたとしてサルトルという人が紹介されていた。で、サルトルは『レヴィナス入門』にいっぱい登場した人だ。
ひょっとして、哲学って、説明できないことを説明したり考えたりするために、哲学者たちが「”みんなで”概念を発明してきた」学問なのか? そしてその概念をもとに、次の人、また次の人が、連綿と繋ぎ続けてきたのか?
だとしたらめちゃくちゃ面白い世界だなと思った。月並みだけど、アツいなと思った。推し以外のことでこんなに体温が上がった感覚は久々だ。うれしかった。
10月13日(日)
明日は祝日で三連休らしい。いま知りました。明日のお弁当のための作り置きしちゃったよ。
もうだいぶ前の話だけど、好きなVTuberさんが、体力をつけるのにはランニングがいいと言っていた。1kmを6分ぐらいの早歩きペースから始めるのがいいと。
ところが実際にやってみると、1km10分かかった。おいおいどこが早歩きペースか! と言いつつ、何度か走ってみて、初めて6分で1kmを走れたのが今日だった。
いきなり張り切りすぎると「萎えちゃうから」と話していた、そのやわらかさをやけに覚えている。「萎える」って、斜に構えた態度で、冷笑含みで使うような、言ってしまえばちょっとイヤな言葉だと思っていた。こういう使い方があったんだなあ。頑張りたい気持ちに現実がついてこないことを、笑ってくるんでしまえるような。
頑張るのは、萎えちゃわない範囲でいいのだ。萎えないぐらいに頑張りつづけるのは楽しかった。できることがまだあると信じられるのは、うれしいことだ。
というわけで一週間分は以上なのだが、書いている本人としてはぶっちゃけこれ読んで何がおもろいのか? という気持ちでいっぱいである。おかしいな......人様の日記はあんなにおもしろいのに......。
ただ、日記を書かねばならないと思うと、特になにもない日でもなにか無かったかな、と探そうとする自分はいた。
たぶん、なにもない日なんてないのだ。そういうまなざしを持てたら、今より毎日楽しくなりそうな気がする。
なお、ZINEには(3人+1組)×1週間=1ヶ月分の「ことばの日記」が収録されています。ご興味のある方はこちらもぜひ。
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