あの日別れた十字路の先で
良い最終回だった......。-完-
というわけで、UNDEAD×紅月のFUSIONユニットソング『PERFECTLY-IMPERFECT』が発売された。
「型を守り、型を破れ。誰かではなく己のために」というコピー自体が、夢ノ咲学院にいた頃からずっと「誰かのために」戦ってきた両ユニットへの最上級の賛辞だと思う。
発売日にアニメイトに行くと、ちょうど目の前でCDが全部さらわれるところで、慌てて一枚譲っていただいた。大変申し訳ないことをしました。でも、積みたくなる気持ちはすごくわかる。このCDは積む価値がある。それは私たちが彼らに贈れる祝福であり、6年間お疲れさまの気持ちであり、この楽曲制作に携わってくださった全ての方々への感謝と敬意だ。
誰より、楽曲提供くださった草野さまに、心からの感謝を。本当にありがとうございました。
草野さまがおっしゃるように、この歌は、音楽も歌詞もこれ以上ないほど詰め込まれた、非常に濃密な楽曲だ。紅月とUNDEADのこれまでを見てきたファンにとっては、「毎秒何かを思い出す」という大変な歌である。
朔間零と蓮巳敬人。似ているようで正反対な二人だ。
あの日あのライブハウスで、未熟だったふたりは、甘え合い傷つけ合い、別々の道を進むことになった。互いのことをかけがえのない友人だと思っていたからこそ、生じてしまったズレは、あまりにも痛すぎる別れとなってふたりを引き裂いた。
「隣にいる」たったそれだけのことが、どれだけふたりには難しかっただろう。寄りかかり合って、グチャグチャになって、誰一人笑えなかった青春を超えた先にこんな未来が待っていたなんて、一体誰が想像できただろう?
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歌詞を読む前に、ふたりの歩みについて少し振り返ろうと思う。
朔間さんと蓮巳さん、このふたりの因縁が最初に匂わされるのは、「あんスタ!」メインストーリー第一部で語られる、春のS1でのことだ。
「朔間さん」「坊や」と呼び合うふたり。ただならぬ雰囲気こそ感じるが、意外なことに、どういう関係性なのか表立って言及されることはほとんどなかった。その理由は、のちに蓮巳さん自身がこのように語っている。
彼らは幼い頃からの幼なじみで、入学後には大神晃牙と三人で『デッドマンズ』というユニットを組んで活動したこともあった。
生徒会設立当初から、朔間さんを生徒会長に据えて行動するなど、何かと彼に頼る姿勢を見せていた蓮巳さん。「夢ノ咲学院を革命する」という彼(もとい英智)の夢に、あまり乗り気でないながらも、彼のもとを離れはしなかった朔間さん。しかし、『デッドマンズライブ』を契機にふたりは決定的に別れることとなる。
そして英智の主導により、本格的に「革命」が始まると、生徒会勢力に属する蓮巳さんと『五奇人』という対抗勢力に位置づけられた朔間さんは、「革命」の構造上でも対立を余儀なくされる。
こうして決別したふたりは、お互いを強く意識しながらも、その関係を修復する機会を失ったまま、学生生活の多くを過ごした。
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ここからは、ふたりのこれまでを踏まえて、特に印象深かった歌詞を二箇所ピックアップしたい。
まずはこちら。
初っ端から「リズリン上層部に喧嘩でも売ってるのか?」と言わんばかりのこの歌詞、ふたりの/両ユニットの反骨精神がよく表れていてグッと来る。
「伝統的なロック」を追い求めるUNDEADと「伝統を現代風にアレンジ」をコンセプトとする紅月は、一見真逆のユニットに思えるが、根底に流れるエナジーは同種なのだなと思わせられる歌詞だ。
とはいえ、かつて体制側で力をふるっていた蓮巳さんは、生徒たちの「前に習え」な性質を利用していたこともある。
しかしそんな彼でさえ、「前に習え」では自分の求める革命は達成できないこと、どうやら心の底では「前に習え」をぶち壊してくれる誰かを求めていたことは、『太神楽』などから知ることができる。
続いてこちら。
かつて朔間さんを苦しめた「退屈」。一連の台詞の意図については、ファンの間でも解釈が分かれるところなので、ぜひBasic版アプリから『追憶*それぞれのクロスロード』を読んでいただきたい。
一応、わたし個人としては、朔間さんは最後まで「敬人なら退屈を破ってくれる」と望みをかけていたのだと捉えている。しかし、残念ながら彼の願いは叶わなかった。
ただ、『クロスロード』という名のとおり、ここで語られるのはふたりの決別だけでなく、それぞれに孤独を抱えていた7人が出会った、始まりの物語でもある。7つの運命の交差点。「重大決意をするべき岐路」。すれ違うようにして出会った朔間さんを、決して離さなかった人がいた。あの日取られなかった蓮巳さんの手を、代わりに取った人がいた。
それが、上述の歌詞を割り当てられた大神晃牙と鬼龍紅郎だ。この出会いが、今のUNDEADと紅月の誕生に繋がったと言っても過言ではないだろう。
他にも、『デッドマンズ』の楽曲『Death game holic』(と舞台版『Black ball room』)では、崩れ落ちるような高音のグリッサンドが印象的だったピアノが、今回の楽曲ではメロディラインを支える中低音の和音として使用されていることなど、さまざまな所から当時のことを思い返すことができる。
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以前「朔間さんと一緒にいると、蓮巳さんは自虐的になるのでつらい」というようなnoteを書いたことがある。朔間さんが望むと望まないとに関わらず、蓮巳さんはいつも彼の圧倒的な才能を前に、足を竦ませるように見えた。そんなことないのに。あなたはあなたのままで十分素晴らしいのに。
けれど、それは朔間さんにとっても同じことだったのだと、今になって思う。力と賢さとカリスマ性、その全てで皆を魅了してきた彼は、よりたくさんの人々を救うために自身を磨り潰した。
「誰ひとり見捨てられない」彼の善性に、あらゆる人が縋りつく中で、まるで「貴様に救われてなどやるか」とでも言わんばかりに噛み付いてくる蓮巳さんの存在は、どれほど眩しかっただろう。どんなに希望に満ちていただろう。
だから、歳を重ねるにつれて、蓮巳さんが他の人間と同じように自分を恐れ距離を取っていくことが......毎日でも語り合いたい友の「零ちゃん」ではなく「朔間零」というマンパワーとして利用しようとしたことが、どれだけの絶望を与えたかわからない。
「子どもの頃のように」と願ってしまうのも当然のことだろうと思う。成長も変化も不可逆的なものだから、"戻る"という方法では実現できなかったが。
かつて蓮巳さんが夢想していたのは、朔間さんと共に学院を革命する、言わば「ふたりで迎える未来」だった。そしてそれは、もう二度と叶わないものと思われていた。節分祭での共闘が「泡沫の夢」だったように。
ところが、当時の朔間さんには見えなかったところまで時が進んだ今、ふたつの道は再び交わった。別々の道を歩んだふたりは、それぞれに大切な宝物を手に入れ、仲間と出会い、ステージ上で相見える。
春のS1とは違う、策略なしの、全力の対バン形式。
そう、朔間さんも蓮巳さんも、こんなに大きくなったのだ。もう甘え合うことも、傷つけ合うこともしなくて良いのだ。
自分を知り、相手を知り、適切な距離を見極める。もう自分一人の脚で立っているわけではない、そばには信頼できる仲間がいる。今のふたりだからこそ、ようやく、隣にいることができるようになった。
それは、この上ない希望の形ではないだろうか。
ずっと両ユニットが混ざり合いながら進行してきたこの歌が、最後の最後で『UNDEAD』と『紅月』の掛け合いで締め括られるように。
二通りの「オンリーワンの未来」が交わり、「パーフェクトな未来」となる。諦めずに歩んでくれてありがとう、こんなに素晴らしい未来を見せてくれてありがとう。二度と忘れない、極上のライブだった。
...…なお、余談とはなってしまうが、曲中では朔間さんと蓮巳さん以外にも、様々な組み合わせが登場する。彼らについて、最後に少しずつ触れて終わりとしたい。
晃牙くんと鬼龍くん。上述した『クロスロード』での縁以外では、春と冬と二度行われた『龍王戦』の印象が強い。「あんスタ!」内ではトップクラスの健康的な先輩後輩だなあ、といつもほのぼのする。
颯馬くんとアドニスくん。お互いにとって、夢ノ咲学院での「初めての友達」である。あの『デッドマンズライブ』の裏で、こんなに温かい出会いがあったことが嬉しい。お互いを尊敬し尊重し合う、素敵な関係だ。
羽風くんと蓮巳さん。「弟」という共通点以外は全てが真逆なふたりだが、屋上のサーフボードにまつわるエピソード等から、馬が合わないばかりではないのだと思われる。蓮巳さんの行き過ぎた言動を嗜めてくれるのは、大体いつも羽風くんだ。
晃牙くんと颯馬くん。ともに『返礼祭』での奮闘が印象的なふたりだ。なんの疑いもなく、真っすぐに慕ってくれる後輩がいることは、時に先輩たちにとって大きな支えとなる。これからもその情熱を失わずに進んでくれることを願う。
他にも「母親」という共通点から最近親近感が芽生え始めたらしい鬼龍くんと羽風くん、言わずと知れた『海洋生物部』の颯馬くんと羽風くん、『デッドマンズ』から『UNDEAD』への過渡期をともに歩んだ朔間さんと晃牙くんなど、夢ノ咲時代から今までの歴史がギュッと詰め込まれた歌割りになっている。
改めて、草野さまに最大級の感謝を。紅月とUNDEADに光あれ。
ありがとうございました。