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固く結ばれた「家族」が花開くとき——一蓮托生の共犯者たち

紅月......ほんまにやりおったで......。

『浮雲*照らす翔装の華月伝』のイベントストーリーを読み終えたとき、そんなドキドキに打ち震えていた。1月3日、ネタバレ解禁を翌日に控えた夜のことだ。

正直なところ、ここまでの成長を『紅月』に望めるとは思っていなかった。三人だけの閉じた世界、故にこそ固く結ばれた絆 = 「家族」。それこそが彼らの魅力であり、(メタ的に言えば)セールスポイントでもあると思っていたからだ。

ところが、彼らはやってのけた。これを成長と言わずしてなんと呼ぶだろう。

次元問わず、賛否の分かれる決断ではあったと思う。だがそんな中でも勇気ある一歩を踏み出した『紅月』の皆に、まずは心からの祝福を贈りたい。

キャンペーンストーリー『あんスタ思い出ロード』
「紅月」より

一口に「家族」といっても、『紅月』の形は絶えず移り変わってきた。成長には、喜ばしさと寂しさがいつだって付きまとうものだ。

わたしもわたし自身の気持ちに整理をつけるべく、卒業アルバムのページをめくるように、その目覚ましい成長の軌跡を振り返りたいと思う。

【おことわり】
こちらの記事は、イベントストーリー『浮雲*照らす翔装の華月伝』の肯定的な感想を自分なりに書き連ねたものとなります。わたしは「キャラクターたちがあの世界で生きている」という前提でストーリーを楽しんでいる立場であり、「書き手の事情」は勘案いたしておりません。よってシナリオ前後で矛盾するセリフがあった場合、「書き手の事情によりそうなった」のではなく、「キャラクターに心境の変化があった」と解釈しております。
これによって異なる立場・解釈のファンの方々を否定したり、口封じをしたりする意図は一切ございません
また、こちらの記事を引き合いに出して、他のファンの方々を否定したり傷つけたりする行為もおやめください
伏してお願い申し上げます。

今回の騒動を通して傷つかれた方、落ち込まれた方の心身の回復を陰ながらお祈り致しております。




ふたりの『紅月』——閉じた「家族」

夢ノ咲学院で、ちょうど一度目の革命が行われようとしていたころ。尊い才能たちが腐り果てる泥沼の中で、『紅月』は静かに芽を出した。

『浮雲*照らす翔装の華月伝』ミニトーク「鬼龍紅郎/難関加入試験(3)」より

今となっては信じ難い話だが、『紅月』は元々「アイドル」をやるためのユニットではなかった。生徒会の権威を押し上げるために作られた、言わば革命のための「兵器」だったのである。

蓮巳さんにその腕っぷしを買われ、幼馴染を傷つけながらその片割れとなった鬼龍くんも、その在り方には忸怩たる思いを抱えていたようだ。

紅郎
罪を犯しちまったから、俺たちゃどっちも地獄行きが確定だ。だったら、うろうろ迷って時間を無駄にすんのも馬鹿らしいだろうがよ せいぜい花火みてぇに生きて死んで、一緒に地獄の釜で茹でられようぜ そのとき熱湯で洗い流すからよ……今は、とことん血にまみれてやるよ

『追憶*流星の篝火』イベントストーリー『メテオインパクト』
「一年前、ヒーロー失格/第十五話」より

「せいぜい花火みてぇに生きて死んで」……そんな彼の言葉からも察せられるとおり、結成当初の『紅月』は役目を終えたら斃れる予定だったらしい。だからこそ、加入を希望する生徒がいても、わざと無理難題な加入試験を用意して突っぱねた

『躍進!夜明けを告げる維新ライブ』イベントストーリー『新撰組』
「モノローグ②」より

颯馬くんも、何度も追い返されたうちのひとりだ。

超人的なポテンシャルにより試験をクリアしながらも、加入が認められずにいたのは、やはり「『紅月』ではアイドルらしい活動ができない」「長所を活かせる他のユニットへ行くべき」という、ふたりの不器用な思いやりが理由だった。時には颯馬くんの献身を利用し、わざと彼を突き放しさえもした。

『追憶*流星の篝火』イベントストーリー『メテオインパクト』
「一年前、ヒーロー失格/第十五話」より

しかし、颯馬くんのまっすぐな憧れは、とうとうふたりの心にヒビを入れることになる。『海神戦』で身の危険も省みずステージに乱入し、腑抜けた自分たちを叱り飛ばした颯馬くんに救われたふたりは、彼を『紅月』へ迎えることに決める。

『追憶*流星の篝火』イベントストーリー『メテオインパクト』
「一年前、ヒーロー失格/第二十九話」より

原石を抱えてしまった。そんな責任感から、ふたりは「兵器」ではなく「アイドル」としての『紅月』の未来を探り始める。すべては自分たちを無邪気に慕い、リスクを承知で叱咤激励をくれたかわいい後輩に、「錦の御旗」——アイドルとしての絶対的地位で報いるためだった。


三人の『紅月』——春を待つ「家族」

そんな経緯で「ふたり」から「三人」になった『紅月』だが、初めからそううまくいくはずもない。

革命を終えても、泥を被りながら治安維持へ没頭する蓮巳さん。
彼の考えがわからず、鬱屈した思いを抱く鬼龍くん。
そして、そんなふたりへの疑問を押し殺し、年少者として付き従う颯馬くん。ぎくしゃくとした日々が長く続いた。

仲良しこよしの関係じゃない。でも繋がってしまった。そんな責任感と共犯意識が、三人を「家族」として結びつけるよすがだった。


紙幅の都合上、駆け足で振り返るが、ここでは特筆すべき転機として「『S1』での敗北」と「喧嘩祭」に触れておきたい。

『あんさんぶるスターズ!』メインストーリー第一部
第七十二話「審判」より

まずは『S1』での敗北について。
生徒会側のユニットとして学院No.2の地位に立ち続けた『紅月』にとって、これは非常に手痛い事件だった。なぜならば、この敗戦をきっかけに『Trickstar』による二度目の革命が成り、生徒会の権威が失墜してしまったからである。

つまり、三人が『紅月』でいるための大義名分が、まるごと失われてしまったのだ。

『躍進!夜明けを告げる維新ライブ』イベントストーリー『新撰組』
「維新の鬼/第六話」より

もう「錦の御旗」は手元にない。リーダーの蓮巳さんは事後処理に追われ、鬼龍くんも颯馬くんも、事実上の浮草状態となった。もう誰も『紅月』でいる必要はなくなった。

なぜ、彼らはそれでも『紅月』を続けることにしたのだろうか? その大きな理由が『喧嘩祭』からうかがえる。

『決別!思い出と喧嘩祭り』イベントストーリー『喧嘩祭』
「暴君の詔/第二話」より

敗戦後、『紅月』は英智くんから解散を言い渡される。このとき茫然自失の蓮巳さんに代わり、奮起したのが鬼龍くんと颯馬くんだった

紅郎
それは言わねぇ約束だろうがよ。俺は自分で望んで満足して『紅月』で活動してんだよ。おまえらと一緒にやるライブが、大好きだ だからこそ、俺は『紅月』の敵には容赦しねぇよ〔……〕おまえら以外とは、考えられねぇよ。『紅月』、守り通そうぜ

『決別!思い出と喧嘩祭り』イベントストーリー『喧嘩祭』
「暴君の詔/第三話」より

颯馬くんも我を忘れるほど憤り、『fine』の元へ突撃する。責任感と共犯意識から始まったビジネスライクな関係は、いつしか本物の絆へと変わっていたのだ。そのことを三人がはっきりと自覚した瞬間こそが『喧嘩祭』だった。

『決別!思い出と喧嘩祭り』イベントストーリー『喧嘩祭』
「エピローグ②」より

無事ライブを終え、解散を免れた『紅月』。その夜、蓮巳さんと鬼龍くんは、屋台にはしゃぐ颯馬くんと転校生(あんず)を見て笑い合った。「俺たちあいつらの両親みたくなってねぇか?」と。

ここが『紅月』の新たな始まりだった。


その後、蓮巳さんと鬼龍くんが学院を卒業するまでの間にも、『紅月』は様々な試練を経験する。「アイドル」らしく活動できた一年かと問われれば、決してそうではなかったはずだ。それでも彼らにとっては、どんな出来事もかけがえのない思い出だったに違いない。きっと何が欠けても今の『紅月』にはなりえなかったから。それは言うまでもないことだろう。

固く結びついた三人は、いつか夢見た「アイドル」として花開くときを待っていた。卒業、進級、そして......アイドルたちが輝く新世界、『ES』に出会う春を。


ESの『紅月』——成熟した「家族」

社会へ飛び出し、ようやく「アイドル」らしい活動ができるようになった紅月。古い体質の事務所や『盂蘭盆会』での炎上に阻まれ、伸び悩んでいた彼らだったが、実はもうひとつ深刻な問題を抱えていた。

それはなんとも「家族」らしい問題。

親と子、兄と弟......そんなふうに、ユニット内で序列が生まれてしまっていたのだ。

蓮巳さんが「」として指揮をとり、鬼龍くんと颯馬くんが「武器」として動く。結成当初から変わらないその在り方に、このままではいけないと声を上げたのは鬼龍くんだった

『』
「快刀乱麻/第八話」より

紅郎
でもよ、俺らはずっと蓮巳を基軸にして、あいつの理想を叶えるための武器になってたからよ たまにはあいつを抜きにして、自分自身と向きあう必要があると思うんだよな〔……〕これまでは蓮巳が見てる夢を一緒に見てたたけだからよ、自分の本当の夢が——願いがわからなくなっちまってる それは、てめぇも同じだろうと思う。だから、一緒に考えようぜ

「できる」ことと「やりたい」ことは違う。だから、どんなことがやりたいか、どんなアイドルになりたいか「一緒に考えよう」。たとえそれが「和風」や「伝統」にまったく関係のないことだったとしてもいい——『天下布武』でのそんな決意を発端として、鬼龍くんと颯馬くんは「どんなアイドルになりたいか」を模索しはじめる。ただ「武器」として動くばかりでなく、確かな芯を持つことが、未来の『紅月』を救うと信じて

そしてそれは蓮巳さんも同じこと。年長者として、颯馬くんを遠ざけすぎてしまった......そんな反省とともに、今一度彼を対等な戦友と認め、意見を聞いてみる。指揮権を渡してみる。『三光鳥』や『サブマリン』を通じて、そんな心の変化が見られた(そして颯馬くんは見事に期待に応えてみせていた!)。

つまり、ESに来てからの『紅月』はずっと、三人で横並びになることを目指して動き続けてきたように思えるのだ。

その試行錯誤が実ったと言えるのが、『昇華*天地鳴動の晴レ舞台』だったのではないだろうか。

信長先生、秀吉先生、家康先生という曲者たちと向き合うべく、『紅月』は三人別れての単独行動に出る。ずっと培ってきた互いへの信頼を絲として、たとえひとりでも考えて動く。そんな彼らの情熱は、バラバラだった先生らの心を繋ぎ、『天地鳴動』を大人気番組『天地鳴動R』へと生まれ変わらせることに成功した

「家族」としてこれ以上ない成熟。ここに『天地鳴動R』が評価されたことによるダイヤアロー賞受賞が追い風となり、『紅月』はその蕾を大きくふくらませていた。

『紅月』を看板に仕立てようという事務所の思惑に雁字搦めにされる前に、なんとかしなければ。この先も自由に「アイドル」をやるために。

そんなときだった。

迷子の鬼っ子が、三人の前に現れたのは


固く結ばれた「家族」が花開くとき

ようやく話が現在に追いついた。
突然現れた滝維吹くんという小鬼にひっかき回される三人。特にその才能に感化された蓮巳さんの手の速さといったら尋常ではなかった。『デッドマンズライブ』で鬼龍くんに惚れ込んだあとの勧誘や、いざ颯馬くんを身内へ引き入れたあとの可愛がりようを彷彿とさせる姿であった。

さて、これまでの『紅月』をざっと見た後だと、今の皆がどれだけ大きくなったのかをしみじみと実感させられる。

『浮雲*照らす翔装の華月伝』イベントストーリー『翔装の華月伝』
「待ち人来らず/第一話」より

まずは颯馬くん。これまでなら「先輩方を信じよう」とモヤモヤを押し殺してしまっていただろうところを、一度飲み込んだ疑問を撤回してまで蓮巳さんに異を唱えてみせたそう、その意気だ! 確実に前進している……!(それだけ彼が必死だったということでもあるが)

加入試験を経て滝くんを認めたあとは、ぐっと態度が柔らいだのもよかった。才気溢れる後輩を前に悔しさを全面に出しながらも、いいところは素直に認めて評価する。この潔さ!

以前からそうだったが、颯馬くんは自己管理と切替が本当にうまい。感情と理性のバランス感覚こそ、彼の最大の美点ではなかろうか。今回はそんな颯馬くんのいいところがたくさん見られて、温かい気持ちになることができた。

『浮雲*照らす翔装の華月伝』イベントストーリー『翔装の華月伝』
「待ち人来らず/第五話」より

温かさといえば、鬼龍くん。彼もまた大きく頼もしくなった。

自分の考えを言葉にするのが意外と苦手な蓮巳さん(今回は話しづらい事情も重なった)に対して、無理に考えを引き出そうとはせず、ただいつでもなんでも受け入れるぞというポーズは崩さない。彼が隣にいることで、蓮巳さんはどれだけ支えられてきたのだろうか?

このあたり、プロローグとエピローグで顔を見せた朔間さんとは対照的だ。彼は言語化に長けた聞き上手さんなので、蓮巳さんのモヤモヤを「こういうことか」「こうとも言えるな」と言葉にして整理する。それぞれに良さがあり、対して蓮巳さんの惑いぶりが際立っていた

『浮雲*照らす翔装の華月伝』イベントストーリー『翔装の華月伝』
「銀の風、舞う紅葉/第六話」より

なぜ今回の彼がそんなに思い詰めていたのかといえば、ひとえに「仲間の喜びに水を差したくなかった」からだろう。彼は『SS』本戦でも同じようなことで悩んでいたが、今回は鬼龍くんと颯馬くんの力添えによって勇気を出せた、というところだろうか。

大きくなって、より広く遠くまで見通せるようになった蓮巳さん。だからこそ事務所の思惑にいち早く気づき、人知れず手を回してきたのだろうが……どれだけ成長を重ねても、等身大のまま迷い悩み続けられるところが、彼の何よりの魅力だと思う。それがたとえ悟りとは程遠い姿勢だとしても、悩みを手放さずに持ち続けられるのは、強さに他ならない


そんな彼らにしてみれば、滝くんは実に未熟な子どもだったはずだ。言葉遣いは過激で、常識も礼儀も知らず、情熱だけが有り余っていて。それでも『紅月』に入りたい一心で形だけでもと礼儀を覚え、孤児院を脅かすやくざにも殴り返さずじっと耐えた

そんな滝くんのこと、そりゃあ皆は好きだよなあ……と微笑ましくなってしまった。なぜって、滝くんは昔の三人によく似ているからだ

『紅月』の面々と一緒に、やくざを撃退した滝くん。大切なものを守るために、泥をかぶることを厭わない強さ。泥中でも汚れぬ蓮のようなしたたかさ——「兵器」から出発した『紅月』の。それをちゃんと彼は持っていた。もしかしたらそれこそが、三人が滝くんを迎え入れた最後の決め手だったのかもしれない

***

こうして見ると、三人の決断はちゃんと『紅月』の線上に乗っていることがわかる。

『紅月』はそもそも、誰かを受け入れるための器ではなかった。「アイドル」ではなく「兵器」だったからだ。

三人になってもそれは変わらなかった。嵐の中で立ち続けるには何物にも負けない絆が要る、だから「家族」になった。他のユニットと彼らが大きく異なるのは、ここだ。

『紅月』に誰も立ち入る隙がなかったのは、革命から続く戦火の中を「共犯者」として、必死に身を寄せ合って生きてきたからではないだろうか。

そんな彼らの姿は凛として美しかったし、そんなところを応援してもいた、だけど……。

しかし、だとすれば。三人で固く結んだ手をゆるめ、まるでいつかの自分たちのような子どもを迎え入れる、それができる彼らになったということ。それはきっと、本当の意味で、『紅月』が血腥い負の歴史から前へ進んだことを示す

もうほんとうに、彼らが「兵器」になることはない。

今ここに、「アイドル」としての『紅月』が花開いた。新たな彼らの歴史が、またここから始まったのだ。

咲き誇る蓮のステージに立つ四人。まさに一蓮托生の姿!

滝くんについて、わかることはまだ少ない。わからないことについて何かを思うのは難しい。ただひとつ確かなことは、紆余曲折あれども、誰より『紅月』を大事に思っていた蓮巳さん・鬼龍くん・颯馬くんが、彼を新たなメンバーとして迎え入れたという事実だけだ。

そんな彼らの決断なら、わたしは応援したい。

『紅月』の進む未来をもっと見たい。だってこんなの、誰にでもできることじゃない。勇気ある一歩を踏み出した彼らがどんなふうに成長を遂げるのか、心から楽しみだと思えた。

いやあ、ね……つくづくかっこいい人たちだぜ……!



追伸:ネタバレ解禁前から溢れ返っていた様々な声に、なんだか彼らの勇気も、彼らがあの世界で生きているということさえも否定されてしまった気になって、情けなくも熱まで出して凹んでいたのだが(情けないnote)、こちらの記事のおかげでなんとか立ち直ることができた。

わたしのnoteとは違い、ES以降の『紅月』に焦点を絞り、よりミクロな視点で彼らの思考を辿ってくださっている。なにより彼らを想う熱量に胸を打たれた。もし未読の方がいらっしゃれば、ぜひ一読いただくことをおすすめする。

感謝の念とともに、ここに書き添えておきます。


余談:本記事は、移ろい続けてきた『紅月』の形を、「家族」というキーワードで一本道に整理できないかという試みで書かれた。そのため全体の流れをたどることでいっぱいいっぱいになってしまい、『華月伝』での皆の動きにフォーカスできなかったのが悔やまれる。三人とも非常に「らしい」動きをしながら成長も感じさせてくれる、胸の熱くなるストーリーだったので、機会があればそちらにも触れたい。

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