かき氷を掘りながら、京都の夏を思い出す 【エッセイ】
神社へお参りに行った帰り道、湿気を含んだ暑さにすっかりのぼせた私たち夫婦は、近くの喫茶店へと涼を求めて転がり込んだ。
店内は、ダークチョコレートのような色合いの床と柱があり、入ってすぐの棚には様々な種類の果物が漬かったシロップの大瓶がズラリ。なんだか、ジブリ映画の主人公が足を踏み入れそうな雰囲気がある。
私はイチゴのかき氷を、彼は梅ジュースを注文した。
かき氷も最近では変わり種のシロップが続々登場し、味はもちろん目にも楽しい。
この喫茶店にも、無花果(イチジク)や白桃などで作られためずらしい自家製シロップがメニューにあったのだが、今日は冒険したい気分になれず、昔から好きだったイチゴのかき氷を選んだのだった。
さすがは自家製。食紅などの添加物は一切ない、イチゴごろごろ爽やかな甘さとミルクのハーモニー。
思わず目を瞑る。
知覚過敏はさておき、一口目を食べた瞬間にちょうど首振り扇風機がこちらを向いたので、まるでCMのような効果が得られた。オーディエンス(夫)からは、「おや、そんなに美味しいのかね」という反応。
親切にも、スプーンがふたつ用意されてあったので、反対側から掘っていいよ、と片方のスプーンを夫へ差し出した。
ふたり揃って、西川氏ばりに風を浴び、体が夏になる。
背中を汗が一筋、つつつーっと伝い、私の記憶は遠く十数年前の京都ひとり旅へと引き戻されていった。
◇
祇園祭も五山送り火も、つつがなく終えた京の都。
灼熱の太陽と狂おしいほどの熱風のなか、さ迷い歩く私の背中には、どこぞの滝か?というくらいの汗が流れ伝っていた。
このままでは命が危ない。
しかも私は『路地裏探訪♪京都人になりきって、観光地ぽくない道を歩く』単独ツアーを自身に課していた。
よって、周囲に飲食店や土産物屋はない。
アホやなあって笑ってください。
そしてお水を恵んでください…。
アスファルトの上に揺らめく陽炎。打ち水はことごとく秒で気化してゆく。無知な観光客(私)と仕事でやむなく外回りする人しか外には出ていなかった。
なんとか祇園へ戻った私は、飴屋さんへと辿り着いた。その2階は喫茶になっていて、夏場は和風パフェの他にかき氷がいただける。
天の助け、これぞオアシス!
しかし、さすがは人気店。外まで行列している。もう他を探す気力も体力も残されていない私は当然並んだ。周りは友達同士かカップルで並んでいて、ひとりなのは自分だけ。
やがて列は進み、クーラーの効いた店内の待ち合い椅子に座って待つことに。ああ、あともう少しで氷にありつける~。いよいよ私が呼ばれる番に…
すると店員さん、なぜか私の後ろのカップルを先に、喫茶へ通しはじめた。
え?なんで飛ばされたの?と思っていると…
「ごめんなさい、お席ふたつ空いたので、先に2名のお客さまから通させてください」とのこと。
ああ、なるほど、列が外まで伸びてるから、なるべく効率的に並んでいる人を捌きたいわけですね。
郷に入っては郷に従え。
私はひとりのポツンとした感じが急に恥ずかしくなり、できるだけ明るく「どうぞ、どうぞ」と会釈してみせた。
そんなこんなで、次の組もそのまた次の組も、店員さんが申し訳なさそうな顔でこちらを見つめるので、全然大丈夫ですよ!という笑顔を作り、「お先にどうぞ」と譲り続けた。
数十分後、やっと2階に通されて食べたかき氷の美味しさたるや。涙がつうっと伝いそうになった。
◇
そしてその数年後、いまは夫である彼と京都旅をした際、再びあの飴屋さんを訪れた。
ひとりはひとりの身軽さがあって楽しかったが、誰かと旅をすると、いろんなことをシェアできることに気づかされた。
宇治抹茶の氷、黒蜜きなこの氷。どっちも食べてみたい。じゃあ、一口ずつ交換っこ。
鴨川のほとりでは、カップルが自然と等間隔に腰をおろす例のやつもしたし、ひとり旅では行く勇気がなかった陶芸体験もできた。
◇
「ふう…生き返ったねぇ」
イチゴのかき氷を食べ終える頃には、すっかり汗もひいていた。
ここで食べたかき氷のことを、今度は京都で思い出す日が来るかもしれない。
たぶん私は思い出して話すから、「そんなこともあったっけ?」なんて顔中ハテナ?にしたりせず、忘れないでいてくれよ。
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最後まで読んでいただき、ありがとうございました🍀