不満を生まない要約技術 グレイテストショーマン【映画レビュー】

 先日友人と映画についてあれこれ話をする機会があり、その際勧められたグレイテストショーマンが驚くほど良かったのでレビューします。
 タイトルの通り、この映画の特筆すべき点は手っ取り早く多くの情報を観客に受け取らせるのがめちゃくちゃに上手いという点です。
 あらゆる映画に言える事ですが基本的には2時間そこそこで終わるエンタメ作品ですのでわりと物足りなさが残りがちなものじゃないですか。
 もうちょい盛り上がりが欲しかったとか、原作小説があるようなものだとちょっと端折り過ぎていたなぁとか、全体的に面白かった時にもちょっとした不満感が後味として残る。
 映画とはそういうものであるように思います。
 なので私は小説派を自称しています、視覚情報なんて無くても物語を楽しめる人は大体そうでしょう。
 伝えられる情報量が違うのだから面白い話は小説でやった方がいいに決まってるんです。

 でもグレイテストショーマンはそうじゃなかった。
 物語は主人公バーナムの幼少期から始まり、ミュージカル的に歌って踊りながらあっという間にバーナムは成長して結婚し子供をもうけます。
 モンタージュ技法ってやつでしょうか、主人公の背景は語られる必要があるがディティールはさほど重要ではないので短時間でさらっと要約的に見るだけで概ね理解できるものです。
 起承転結におけるやや退屈な起の部分の大半をスキップして尺を節約する上手い方法を採用していました。

 そうして早い段階で物語が動き出し、歌って踊ってサクサクと話が進んでいく。
 非常に重要なビジネスパートナーと出会い協力関係を結ぶシーンも歌って踊って短時間で済ませてしまうのですが、悩んで迷って決断するまでの心の移り変わりを「描く」のではなくスタイリッシュなダンス、ボディランゲージでパッと「表現」する。
 これで十分理解できるものなんですよね。
 丁寧にやるほど尺に余裕が無いから泣く泣く削り落とすということをすると不満になるものが、別の短時間で済む方法で代用することにより上手くフォローされています。

 そしてクライマックスにもまた歌と踊り、ここで披露されるバーナムのサーカスとは何なのかを表す『This is me』はあまりにもエモい。
 私はこのシーンを見ながらこれまで手っ取り早くダイジェスト的に物語を追ってきたにもかかわらず、感情移入を可能にするだけの”タメ”がしっかりと形成されていることに驚きました。
 歌や踊りの効果なのでしょう、声や動作、表情などからはっきりと認識できない形で様々な情報を受け取らされていたことに気が付かされます。
 非常に上手い作りです。
 ミュージカル風な形式は単なる省略のためではなく、凝縮された情報の出力方法として選択されたものだったというわけです。
 ここからまだ話は続くのですが、この時点で十分な満足感がありました。

 クライマックスから後の話は物語としてありふれたものです。
 相変わらず歌と踊りのダイジェストではありますが、クライマックスの余韻を味わいながら消化していくにはちょうどいい塩梅。
 序盤がやや退屈に感じるところはありましたが、中盤に入ってからは構成の上手さに感心しっぱなしでした。
 単純にストーリーだけを見るとなにかトリックがあるわけでもないしテンプレ的な展開で中身の薄い退屈な話と言えてしまうものが、様々な要素を組み合わせることで十分な厚みを持つ感動的なショーになっている。
 職人芸です、小説で読んだ方が良いなんてみじんも思いません。

 目で見なきゃ生まれない感動がある。

 グレイテストショーマンを一言で表すならこれです。
 文字ベースの理屈で説明できる感動しか分からない私はこの映画で他の表現法でも心が動かされるものなんだということを知りました。

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