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象印マホービンに聞く、ムダを生まない、“ごはん”に寄り添う企業の食品ロス削減への取り組みとは

大阪に本社を構える、象印マホービンさん。炊飯ジャーや電気ポットをはじめとした「調理家電」製品、ガラス・ステンレスマホービンを中心とした「リビング」製品に加え、空気清浄機や加湿器などの「生活家電」製品を手がけています。一方で現在、大阪市内を中心に『象印食堂』『象印銀白弁当』『象印銀白おにぎり』の3つの飲食店ブランドを展開。
外食産業における食品ロスの主な要因とされる「お客様の食べ残し」「調理・仕込みの余剰」「発注ミス」などがある中で、どのような想いをもって、いかに食品ロスの課題に向き合い工夫されているのか、取材しました。

お話をうかがったのは
象印マホービン株式会社
経営企画部 事業推進グループ 徳岡 卓真さん
(2018年11月〜2021年11月までは、新事業開発室に所属)
新事業開発室 栗栖 美和さん

※2023年8月取材。本文中の肩書きは取材時のものです。
(左)栗栖 美和さん (右)徳岡 卓真さん

飲食店ブランドの誕生は、食品ロスの課題に挑むスタート

「象印らしい新事業をつくる」。それが新事業開発室に課せられたテーマでした。目標としたのは、ごはんのおいしさをもっと多くの人たちに知ってもらうこと。そんな想いとともに、炊飯器メーカーだからこその強みを活かし誕生したのが、炊飯ジャー「炎舞炊き」で炊き上げたごはんを主役とする『象印食堂』『象印銀白弁当』『象印銀白おにぎり』の3つの飲食店ブランドでした。それは同時に食に関わる企業として、これまで以上に食品ロスと向き合う新たな取り組みのスタートでもありました。

『象印食堂』は当社で初めての常設飲食店。
おかげさまでリピーターも多く、ごはんレストランとしてランチやディナーのご利用に皆さまから好評をいただいています。象印食堂では、3種類のごはんを召し上がっていただきたいことから1杯をおよそ80gに設定しています。通常の半分といったところでしょうか。おかわりの際には、お客様に初めの1杯目と比べて「少なめ」「多め」をお聞きした上でよそっています。そのためごはんについては、お客様とコミュニケーションをとることで食べ残しを抑えることができています。

『象印銀白弁当』は、新大阪駅すぐのロケーションということもあり新幹線の利用者数で販売数が大きく変動します。その日の天候を見たり、週末のイベントを考慮したり、曜日によって店頭に並べる量を変えるなど販売数を調整することで食品ロス対策を講じています。また、食品ロスを削減するフードシェアアプリである「TABETE」を採用しています。廃棄処分になってしまうお弁当を出さないようコントロールすることが大切ですが、アプリに登録することでお弁当が残ってしまいそうな場合でも廃棄処分にしないように努めています。その反面、有難いことに売り切れの状態が続くことがあります。それは逆に欠品が人気の証としてお客様に受け止めていただけると幸いですね。事実、欠品を避けて取り置きの予約が増えてきていることは、お客様も巻き込んだ食品ロス削減につながっているのではないでしょうか。

「ごはんが主役」がコンセプトのお弁当。
ごはんの味を引き立てる「ごはんがすすむおかず」と一緒に楽しめます。
ごはんは量が選べるだけでなく、
種類や「常温ごはん」「あったかごはん」といった温かさまで、お好みで変更可能。

百貨店内に店を構える『象印銀白おにぎり』の食品ロス対策の取り組みも試行錯誤の連続です。開店時の陳列の見え方は十分でなくてはなりません。開店以降は減った商品から作り足していくようにし、効率よく補充していくことを基本としています。あと割引のタイミングについても大切ですね。象印銀白おにぎりでは消費期限が7時間を踏まえ販売時間を5時間として、作ってから4時間後には割引するようにしています。百貨店さんに合意をいただいて食品ロス解消を見据えた製造・販売を行なっています。

象印銀白おにぎりは具の種類が豊富。どれにしようか、つい立ち止まって悩んでしまうほど。
お米の一粒一粒がしっかりしていて、
いつでも手軽にごはんの「もっちり感」と「ふっくら感」が楽しめます。
創作おにぎりも。まぁるい見た目が可愛いおにぎりです。


「象印らしい」にこだわってこそ生まれた試み

2018年にできた新事業開発室は4人からの出発でした。現在の飲食店ブランドの立ち上げのみならず、新たな学びや試みがありました。「象印らしい新事業をつくる」というテーマとともに、当社が打ち出している中期経営計画のメッセージは「食と暮らしのソリューション企業になる」というもの。それを受けて、まずは「食と暮らしの観点から身近な社会課題はなんだろう」と考えました。そこで改めて気づいたのが、私たちが今までアプローチしていた視点は「調理」にとどまっていたこと。その視点をもっと俯瞰で捉えていくと、農業があり、食卓がつながり、その先に食品ロスがあるなど視野が拓けていきました。自分たちで1週間ごとにテーマを決めて勉強、調査、専門家に教えを請うなどしていましたね。そんな中、経産省主催のイノベーター育成プログラムに参加した際に出会ったのが、「独自技術でロスになる食材からエタノールをつくる」などの事業を展開されている、ファーメンステーションさんでした。

当時、象印が炊飯ジャーの商品開発時に出る試食のごはんを「農作物の肥料にする」以外になんとかできないかと思っていたところ、アップサイクル(※)での協業の申し出を快諾いただきました。そして実現したのが、ごはんから精製したエタノールで作った「除菌ウエットティッシュ」でした。これを機に新しい商品開発の流れができたように思います。
続いて開発した「ハレと穂(クラフトビール)」も、炊飯ジャーの開発段階で試食に使っていたごはんを資源として原材料へアップサイクルしたもの。商品の付加価値をどこに付けるかすごく意識しました。なにぶん『象印食堂』で提供されることも想定してどういったストーリーにするのか何度も議論を重ねましたね。

※アップサイクルとは
捨てられるはずだったものにデザインやアイデアといった新たな付加価値を持たせることで、元の状態より価値を高めること。

ごはんのアップサイクルプロジェクト『Rice Labo(ライスラボ)』から生まれた、
ごはんで作った除菌ウエットティッシュ。
ごはんのアップサイクルプロジェクト『Rice Labo(ライスラボ)』から生まれた
クラフトビール「ハレと穂」。

アップサイクルという枠の中での価値だけでなく、「美味しい」「食事に合う」など、ごはんの本質的な価値からブレないように思い巡らせました。アップサイクルは目的でなく、あくまで手段。ましてアップサイクルする以上はゴミになってはいけません。ごはんを最後までムダにしない。「象印らしい」とは、 “ごはんを大事に思う心”だと理解しています。常にそこを起点に立ち返るようにしています。


私たちのアクションが、世の中のアクションにつながれば

象印が抱える課題は、何も私たちだけに限ったことではないと感じています。実際に他社さんともお付き合いのある中で、開発者の方々からは「我々もなんとかしなくては…」という切実な声をお聞きしています。それだけに私たちの取り組みは真似されるようなものでありたいですし、食品ロス解消の一助になればと願っています。

昨今、見た目が不揃いの野菜、小売店での売れ残りの食材といった身近な食品ロスについては関心が高まってきたように思います。しかしながらあまり知られていないのが、私たちのような家電を手がける企業をはじめ、何か食に絡むようなものを開発する現場では必ず食品ロスが伴う試験をしていること。その現場ではコスト面などの都合でリサイクルすら出来ないところがほとんどではないかと予想されます。だからこそ、私たちの取り組みに消費者の方々が共感して、それをきっかけに商品を選択していただける機運が生まれてくると、他の企業さんも取り組みやすくなるのではないでしょうか。微力ながら私たちの取り組みが、こういった取材においても少しでもスポットライトが当たればいいなと思います。私たち自身、まだまだ改善すべきことや出来ることはないか、その探求は尽きませんね。


Information



執筆:山本洋平(株式会社アバランチ
取材:明石麻穂(ロスをロスするProject
   山本洋平(株式会社アバランチ
撮影:鹿島祐樹(株式会社エンビジョン
   江戸明弘(株式会社エンビジョン


※この記事は、2023年9月25日にロスをロスするProjectのWEBサイト「ロスは、きっとロスできる」に公開した記事をnote用に編集したものです。

WEBサイトも続々更新中ですので、ぜひご覧ください!

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