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【対談】感傷マゾ研究会×負けヒロイン研究会~『アオのハコ』論考~2巻編①

※この記事には漫画『アオのハコ』第2巻のネタバレと、(なぜか)アニメ『あの夏で待ってる』のネタバレが多分に含まれております。ご注意ください。

前回の対談

参加者紹介
ぺシミ:大阪大学感傷マゾ研究会代表
つむじ:早稲田大学負けヒロイン研究会代表


ぺシミ では今回も、よろしくお願いします。

つむじ お願いします。




雑談『あの夏で待ってる』について

 そういえばこの前、『あの夏で待ってる』見てましたよね?

ペ 見ましたね~

つ 見ていたタイミングが同じだったので、軽くその話をしようかなと。どうでしたか?見てみて。

『あの夏で待ってる』視聴時の負けヒロイン研究会主催

 いやー、谷川柑菜はやばかったですね……。何がやばいって、あらゆるの負けヒロインを考えるときに参照できる存在だと思うんですよ。

 負けヒロイン全部詰めって感じでしたね……。

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『あの夏で待ってる』公式HPより (© I*Chi*Ka/なつまち製作委員会)

 そうなんですよ!負けヒロインはすべて谷川柑菜のスピンオフみたいな印象すら受けました。

 ですよね。この作品、まず5話が大変で。一気に見ようと思ってたんですが過剰摂取すぎてここで一旦止めました(笑)。

 僕も2日かけました(笑)。もはや、あのアニメでイチカ先輩のこと好きになる人がいるのか心配になりますね。
Twitterにも書いたんですが、実は僕が一番好きなキャラは檸檬先輩で。というのは、傍観者だからなんですね。

 あー、視点的には我々と同じ位置ですよね。

 感傷マゾ的な話をすると、檸檬先輩に「うふふ……私だけ、『あの夏』に囚われているわね」って傍観者っぽく言って欲しかったですね。ずっと17歳の設定で、高校生の青春を目の前で見せ続けられるって、だいぶ拷問だと思うんですよ。もう檸檬先輩に同情してしまいました。

 なるほど、そういう見方もあるのか……

ペ とはいえ、谷川柑菜はやばかったです。

 異常でしたね……。3話くらいから負けの雰囲気がかなり出ていて、「まだ3話だぞこれ、大丈夫か?」と不安になりました。

 なんなら見た瞬間「あ、これ負けるな」と思いました。

 で、負けましたね。

 負けました。

(両者、沈黙)

 ……それで、僕『あの夏で待ってる』の一番好きなシーンっていうのがあるんですよ。9話の、柑菜が泣いていて哲朗がその目を覆うところなんですけど。

 あれはエグかったですね……。

 そこまではギリギリ耐えてたんですよ。でもそのあとにバス停のところで美桜がうずくまっているシーンが来てもうダメでしたね。KOでした。

 こんなに敗北の連鎖が続くのかよ……っていうね。噓でしょ……って思いました。

 あそこにいる人、誰も幸せじゃないですからね……。あのアニメ自体、イチカ先輩が最後帰ってしまうから誰も勝ってないんですよね。全員負け、というオチもあるんだなと。一応最後帰ってきてるっぽい描写はあるんですけれど。

 最後、映画でその描写するのは上手いなと思いました。……そろそろ本題に行きましょうか。『あの夏で待ってる』については有識者を呼んで、いずれゆっくり話しましょう。

『アオのハコ』2巻全体考察

 これから『アオのハコ』の話をしますけど、「谷川柑菜」というフィルターを通して読んでしまっている感じはあります(笑)

 わかるなぁ……。まずちょっとだけ前回の補足です。先日『ライトノベル超入門』という本を読んでいたんですね。ちょっと古い本なんですが、その中で「ライトノベルは少女漫画がやっていたことを20年くらい後にやってる」、という話がありまして。僕とぺシミさんの主人公像のズレは解決できるのかな、と思いました。

「ライトノベル草創期からの経験則とでもいいましょうか、あるいは近年の「おたく文化」の癖でもあるんですが、革新的な変化はまず少女むけ文化のなかでおこり、その余波を十年〜二十年後に少年むけ文化が受容して変動するのだと、僕や僕の友人たちは常々感じているのです。」
新城カズマ『ライトノベル「超」入門』65ページより

 あー、確かに。漫画を他人と語るときに常々思うんですけど、少女漫画を読んできた人と読んでない人で、結構対立が起きがちというか。漫画観にちょっと齟齬をきたすことはありますね。
それで、『アオのハコ』2巻についてなんですけど、読み終わったときに「これ、めちゃくちゃ展開早いな」ということを感じましたね。10巻も経たずに終わりそうな雰囲気すらあります。

 ですね、2巻でここまでやるんだ、というのは驚きました。

ペ 『アオのハコ』って王道のストーリーではありますし、テンプレ過ぎて面白くないっていう批判もあると思うんです。けれど、尖りや特異性で勝負するこの時代に、王道で売れる作品っていうのは改めてとんでもないな、とも感じますね。

 ここまでくると、伝統芸能ですよね。こういう王道を行く、洗練された作品は定期的に出てきてほしいと思います。

 全体で言うと、千夏先輩の心情ってほとんど描写されないですよね。大喜くんの心情とかはテキストで書かれているのに対して、先輩の内面って文字になっていないんですよ。少女漫画だったらこれは多分ありえないな、と。ラブコメ漫画って、結構ヒロインと主人公のどちらの心情も描きがちなのに、大喜くんの視点だけ立って描くというのはちょっと小説っぽい気もします。

 確かに雛ちゃんと匡くんも心情描写はあるのに、千夏先輩だけは頑なに描かないですね。

 ある種、それが千夏先輩を大喜くんと我々から、「遠い存在」に位置付けているような気がします。

つ それが物語のカギになるのかもしれませんね。

『アオのハコ』2巻シーン考察①

 では各シーンを見ていきましょう。冒頭のトピックとしては、針生先輩が千夏先輩のお相手レースから早々に離脱して、別のが入ってきたことでしょうか。お前、彼女いたのかよ……っていう。

 ですね。普通にいい奴じゃん(笑)。僕としては針生先輩がもうちょっと悪役として出てきてもよかったんじゃないかなと思います。
それと、13ページにある「教室しか心休まる場所がない……」と嘆く大喜に、「家は?」と雛ちゃんが聞くシーンで、それをさらっと匡くんが遮るのは「出来る親友」感があって良いですね

 確かに、匡くんは気を使いがちですね。試合のシーンでも、千夏先輩にうまく大喜くんをデートに誘うようにさせる場面なんかにも顕著です。

 でも、うまく気を使えるからこそ、それが後々仇になることがあるような気もするんです。

 物語の中盤から後半にかけて、何かひと悶着あってもおかしくないですよね。

 匡くんが千夏先輩に行くことはないと思うんですけど、雛ちゃん関連では何かあるのかもしれません。

 それこそ『あの夏で待ってる』の哲朗と柑菜みたいな関係性にすらなり得ますよね。

 やっぱり何にでも参照されますね(笑)。そう言われるとなんか哲朗に見えてきました。

 辛いな……。

 次に、「千夏先輩の表情」についてですね。千夏先輩って口数が少ないし、表情もほぼ変わらないじゃないですか。だから千夏先輩の内面って、空気感とか1巻にあった体温の描写とか、間接的にしか描写されないんですけど、それが逆に「先輩」っていう距離がある程度ある、内面のわかりにくいヒロインを描けていて良いと思うんですよね。
でもそれ故に、『アオのハコ』登場キャラで人気投票があったら千夏先輩って雛ちゃんに負ける気がするんですよね。オタクは感情豊かで素直な娘が好きだと思うので。

つ 表情についてだと、ちょっと飛んでしまいますが56ページの大喜くんの上半身を見てしまったときとかは、珍しく表情が変わるので可愛いですね。ちょうどその少し前に、千夏先輩が大喜くんの近くで着替えるシーンがあるので、その対比が良いです。

 わかる。ピュアだ……と思いました。とはいえ、このびっくりしている表情も数多のヒロインがびっくりしている表情を集めてきたらダントツで淡白なほうだと思うんですよ。

 確かに、「びっくり」って隣に書いてないと驚いている風には見えませんね。

 千夏先輩の表情って、これ以外には真顔と笑顔くらいしかなさそうなんですけど、それでも心情描写が描けるのはこの作品がすごく「空気感」を重視しているからだと思いますし、三浦先生はこういう表現が上手いな……という風に感じますね。どちらかと言えば映画やドラマにありがちな表現かなと思います。

つ 台詞以外の情報が多いイメージはありますね。

 けれど、だからこそ『アオのハコ』が今はやっていることが凄く不思議に感じられるんですよね。こういう漫画って近年すごく淘汰されていたイメージがあるんですよ。

 言わないとわからない、的な言説ですね。少し前に話題になっていた、映画を倍速で見たり、台詞のない情景描写シーンを飛ばしたり、というやつですよね。

 そうですそうです。でもその情景描写シーンって絶対意味があるし、倍速で見ても何もわからないじゃないですか。そういう方式で観て、その作品を「面白くない」と思う人がいる昨今で、こういう表現を用いている漫画を流行らせるっていうのは、凄いと思いました。

 逆に漫画だから流行るのかもしれませんね。映画の情景描写シーンとかも、結局は1コマに閉じ込めることができるのが、逆に表現形態として適しているのかもしれません。

 そういう意味では、『アオのハコ』は「漫画らしい表現」をしていて良いな、と思います。こういう空気感は小説では描けない気がします。
僕は『北北西に曇と往け』っていう作品がすごく好きなんですけど、あれは台詞が少なくて、漫画でしかできない表現をたくさんしているんですよ。
空気感で言いたいことを伝えるっていうのが好きなので、こういう「漫画らしい表現」をしてくれる作品が今後増えていってくれたら個人的には嬉しいですね。

『アオのハコ』2巻シーン考察②

 それで次は、針生先輩がいい奴だったなっていうくだりですね。

 先ほど言った通りもう少し悪役でもいいと思ったんですが。最近の作品は、やっぱりマイナス方面のイベントが起こった時、そのリカバリーが早すぎる気もするんですよね。

つ 今回もその例の一つですね。かなり早めに修正してきました。

 これがトレンドなのか、少年誌に載っているがゆえなのかはわからないですけど、僕としてはもう少しマイナスのほうに振れても良かったかな、と思います。

つ その後はもう、ジャージを千夏先輩が忘れた話ですよね。

ペ 千夏先輩のLINEアイコンが鹿なのはちょっと意外でした。無自覚かもしれないですけど、可愛い系狙ってんのかな、みたいな。

つ そうですか?なんでかわからないんですけど、こういう天然系キャラの嗜好ってちょっとダサくて可愛いイメージがあるんですよね。
とはいえ、このアイコンは性格とのギャップがあって良いですね。

ペ で、着替えのシーンですね。僕これ、『アオのハコ』読んできて一番好きなシーンかもしれないです(笑)
前にとあるVtuberが着替えるときにミュートし忘れていた時の動画を見たことがあって。ちょっと変態っぽいんですけど、制限された情報の中で、想像で補完するっていうのがめちゃくちゃいいな……って思ったんですよね。

とあるVtuberさん(26分あたり)

 最近多いですよね。ASMRもそうですけど。

ペ そうなんですよ!ASMRでも「私、服脱ぐね」って言って衣擦れの音がする奴がたまにあるんですけど、僕本当にそれが好きで。
ミロのヴィーナスの美しさってこういうことなんだなって思いました。これが不在の美しさか、素晴らしいな、と(笑)

 教科書に載ってるやつだ(何言ってんだコイツ……)。
まぁ、それを考えると、人間の想像力はついに来るところまで来たな、という気がしますね。聴覚だけで情景まで想像できる時代になった。

 前回の対談でも言ったかもしれないんですけど、感傷マゾって想像とか妄想が大事というかほぼ全てなので、妄想はしがちですね。
あと、着替えのシーンでいうとお腹は出してるんですけど決して下着とか描かないのが良いですよね。ちょっとでも下着が見えていたらちょっと嫌かもしれないです。

 このチラリズムが、良いですね(早口)。スカートを履いたままジャージに着替えるのも、リアリティがあるような気がしますね。実際はわからないですけれど。

 千夏先輩は見せないですよね。安易にエロで売らないのが非常に信頼できます。最近『黒岩メダカに私の可愛いが通じない』っていうラブコメが結構好きなんですけど、これ一巻から怒涛のエロ推しをしてくるんですよ。最近の漫画ってエロ要素が強い気がしてるんですよね。エロ要素が中心になっているイメージっていうか。

 僕はすこし昔のライトノベルとかで、それこそぶつかってパンツが……みたいな少し弱めのエロ描写がたくさんあった記憶があるので昔のほうが強いイメージがあったのですが、描写は今のほうが過激な気がします。そういう意味では最近のほうが強いのかもしれません。
前のクール(2021年7月~9月)にやっていた『女神寮の寮母くん』とかはそんな感じだった気がします。ショタとお姉さん5人(と、幼馴染)のラブコメで、言ってしまえばひと昔前のラブコメ感があって結構好きなんですが、エロ要素はかなり過激かなぁ、と。それはそれで良いんですけど。

 漫画の新刊棚を見ていると、結構題名の時点でエロを狙いに行ってるなっていう雰囲気の作品は多いんですよね。最近イラストがとても好きだったので『恥じらう君が見たいんだ』という作品を買ったのですが、これはそんな感じでしたね。「エロ要素で売る」っていうのは比較的簡単に感じてしまうからこそ、「エロ要素なしで売れる」作品が本当にすごいのかなっていう気が僕はしてしまいます。もちろん「売れる」ということ自体がとても難しいことであるのは、百も承知ではありますけれど。

つ それって結局、同人活動と商業活動の距離が縮まったからなのかな、という気がしています。もともと成人向けの同人誌や雑誌を作っていた絵の上手い人がSNSなどを通じて人気が出たのを見て、出版社がオファーを出して一般向け漫画に進出してくる、みたいな。根拠はありませんし、悪いことでもないと思いますけれど。

ペ なるほど、その視点は面白いかもしれないですね。pixiv出身でTwitterでバズって出版、みたいな感じの漫画は最近多い気がします。もともとエロ方面で描いてきたし、仕方ないところはあるのかもしれないですね。
たとえば、『To LOVEる‐とらぶる‐』はエロ系の作品では金字塔だと思うんですけど、あれはエロもしっかりしているけれど話の中心は別にありますよね。いい話にいいエロがのっかって、さらにいい作品になったというか。
その辺を『アオのハコ』は弁えてるな、という感じはします。

つ ジャンプでは、同棲ものがもう一本あるんですよね『ウィッチウォッチ』っていう。

ペ そうなんですか。『アオのハコ』との比較をしてみても面白いかもしれませんね。
しかし、『チェンソーマン』も同じ時期に連載していたはずだし、凄い時代だな……。
そういえば、大喜くんの名字にある「猪」も千夏先輩の名字にある「鹿」も、どっちも「しし」って読めますよね。何か関連があるのかなぁ。

つ それなら、雛ちゃんの名字にある「蝶」も併せて花札で有名な「猪鹿蝶」ではありますよね。

 『アオのハコ』は題名の意味すらまだよくわからないですし、こういった「名づけ」については、今後の伏線になりうるかもしれません。まぁ、「猪鹿蝶」に関しては名前が独り歩きしている印象が否めないので何とも言えませんが、三角関係であるのは間違いなさそうです。

 蝶だけ疎外されているのはなぜなのか……。

ペ それで次はもう、試合のところですかね?

つ そうですね、前日に雛ちゃんが大喜くんのことを煽るあたりからでしょうか。

ペ この辺はまだ、余裕そうな感じを見せていますよね。大喜くんを揶揄える余裕があるっていうか。でも、48ページにある針生先輩が「前から思ってたけど」って大喜くんに雛ちゃんとの関係を聞くシーンで、大喜くんに「違います」って即答されるのは、なんだかかわいそうですね。これ、雛ちゃんが聞いてなくて良かったなと思います(笑)。

つ 本当にそうですね……。ここはまだ雛ちゃんが大喜くんと千夏先輩の関係を知らないので、勝者(?)の余裕があります。

ペ 次は千夏先輩が大喜くんの上半身を見た後に、「ひくつう」って詰るシーンですかね。びっくりして情緒がおかしくなったのか、「卑屈」なんていう普段使わないようなかなり強めの言葉でごまかそうとしているのが良いですね。可愛いです。

 その後の「ひゃくえ」って言って頭のツボを押すところもそうですね。ちょっとズレた照れ隠しに感じられて良いですね。

 それとも、ただ天然なのか……。どっちにしろ、単純に撫でたりしないですよね。
そういえば、後半(166ページ)に雛ちゃんが「なんかすごい性癖あって欲しいな」って千夏先輩に対して思うところあるじゃないですか。

 ありますね。めっちゃ笑いました(笑)。

 あそこで千夏先輩がどんな性癖だったら嬉しいかなって考えたんですけど。千夏先輩、大喜くんのツボを押した指をずっと立ててるじゃないですか。

 ……ん?風向きが怪しくなってきた。

ペ 僕、大喜くんがいなくなった後、千夏先輩にその指を舐めてほしいと思ったんですよね。

 ……これ出していいのかなぁ。ぺシミさんの評価が……(笑)。

 (笑)。まぁ、今回は僕が文字起こしじゃないから何言ってもいいかなって思います。掲載するかはつむじさんに任せますね。なんなら負けヒロイン研究会のノートに載るし、まぁなんでもいいかなって(笑)。

 それは本当にそう。任せてください、面白いし全部載せますんで(笑)。


後半に続く……(多分もう暴走しません)

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