旧東海道ひとり旅_8【大磯宿】
東海道五十三次 8番目の宿場町は、大磯です。
大磯は、平安時代末期に相模国の国府が置かれたり、東海道に伝馬制* が布かれる前から宿場の様相を呈していたりと歴史がありますが、前後の平塚宿と小田原宿に泊まる旅人が多かったため、規模の小さい宿場町だったそうです。
(*伝馬制: 公式の書類や荷物を、出発地から目的地まで同一の人や馬が運ぶのではなく、宿場ごとに人や馬を交代して運ぶ制度)
これはまるで、イタリアでいうところの Mestre です。宿泊地として人気があるのは Venezia と Padova で、その間のメストレはあまり目立たちませんが、ホテルや駐車場代が安くて、実は穴場っていう...
お車でヴェネツィアへ行かれる際は、Piazzale Romaではなく、メストレ鉄道駅そばに駐車し、電車でヴェネツィアへ入られるとよいでしょう。
雑談が長くなりましたが、今回はガイドブックを参考に、
・鴫立庵
・延台寺
・大磯海水浴場
...を訪れることにしました。
■鴫立庵
さて、僕は建築物や美術品のキャプションを写真に撮り、それをそのままブログに載せるような人間です。しかし、今回ばかりは、きちんとタイプすることにしました。
なぜならば、鴫立庵の説明書きには、漂泊の歌人・西行法師* の歌が添えられているからです。手打ちの歌を載せることにより、この記事を流し読みした人には、あたかもそれが僕の作品であるかのように見えるでしょう。法に触れず、正々堂々と盗作するチャンスです。
(*西行法師: 『嘆けとて 月やは物を 思はする かこち顔なる 我が涙かな』[百人一首] を詠んだ人)
この歌(↑ "引用" 上段のやつ)は、西行法師が大磯の海岸で詠んだとされる歌です。これにちなみ、崇雪という人物がこの地に五智如来像を運び、西行寺を作る目的で草庵を結んだのが鴫立庵の始まり、とのこと。
現在では、京都の『落柿舎』、滋賀の『無名庵』と共に、日本三大俳諧道場と言われているそうです。
『東海道中膝栗毛』では、弥次さんと北さんは鴫立澤を訪れ、西行像に向かい次の歌を詠みました。
われわれも 天窓を破りて 歌よまん
刀づくりなる 御影おがみて
この連載では、"1記事につき、1首または1編の短歌か詩を詠む" というルールを設けていますし、せっかく自分も西行像の前にいますので、ここで一首...
おがむより 先にごまめの 歯ぎしりが
天窓破っても 詠めねぇんだけど
この写真(↑)を見ながら、アンドレアが言う。
「この魔法使いたちの名前はなんていうの?」
...彼は仏陀を魔法使いだと思っているようだ。
■延台寺
『東海道中膝栗毛』で、弥次さんと北さんは『虎が石』を見て、
K「此のさとの 虎は藪にも 剛のもの おもしの石と なりし貞節」
Y「去ながら 石になるとは 無分別 ひとつ蓮の うへにや乗られぬ」
...という歌を詠みました。
そんなわけで、虎が石の奉られている延台寺を見学します。
『虎が石』についての説明は割愛しますが、『東海道中膝栗毛』では、この石を見ながら弥次さんと北さんが二人で歌を詠みましたので、僕もアンドレアと一緒に、上の写真を見ながら短歌を詠みたいと思います。
僕は北八が詠んだ歌(此のさとの…) と同じような内容のイタリア語短歌を作りましたので、それに対して返ってくる歌が、弥次さんとイタリア人でどう異なるかも併せてお楽しみいただけましたら幸いです。
L:
Tigra di Öiso
divenne una roccia
per star fedele
a suo marito anche se
fu una prostituta.
A:
Resta coperta
Per nasconder vergogna
Si sente pura
Per lei è un illusione
Per lui sol compassione
■大磯海水浴場
鴫立庵で大々的に取り上げられていた、
『心なき 身にもあはれは 知られけり 鴫立つ沢の 秋の夕暮れ』ですが、この歌が詠まれたのは、大磯の海岸だとされています。
そこで、大磯海水浴場を訪れ、西行像に劣るとも勝らない歌を詠むことにしました。
海岸に着くや否や、僕は戦慄した。砂浜が広がっている。
"海水浴場" なのだから当然といえば当然なのだが、そんなことは全く考えていなかった。
アウトレットで買った、もとい買ってもらったとはいえ、元値は300ユーロくらいするのに... 砂浜なんか歩いたら、中も外も砂だらけになる。
どうしよう... もう諦めて帰ろうかな...
でもなぁ... ここで一首詠むのが、ある意味一番の目的なのに...
僕も男だ。腹を決めるしかない。
...結局、波打ち際まで辿り着くことは叶わず、やや遠目に大磯の海を眺めながら歌を詠むことに。
あ゛ぁぁああ!
めちゃくちゃ入る
靴に砂
サーファーだらけ
秋の昼前
東海道五十三次 8番目の宿場町、大磯はここまで。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
【次回予告】
まだまだ先のことになりますが、9番目の宿場町・小田原を訪れます。
参考図書
・ビジュアル版 鑑賞ガイド 地形がわかる 東海道五十三次 (大石学[監修]、朝日新聞出版)
・東海道中膝栗毛(上) (十返舎一九[作]・麻生磯次[校注]、岩波文庫)
・『鴫立庵』発行 リーフレット