理系オタクが大活躍?…AIに不動産業界が支配される日

新型コロナウイルスの感染拡大によって景気後退が叫ばれ、先行き不透明感が増すなか、日本経済はどうなるか、不動産はどう動くのかに注目が集まっている。本連載は、多くの現場に立ち会ってきた「不動産のプロ」である牧野知弘氏の著書『業界だけが知っている「家・土地」バブル崩壊』(祥伝社新書)より一部を抜粋し、不動産の現状と近未来を明らかにする。

AI、IoTが不動産を支配する時代に突入
もともと不動産業界は超ドメスティック産業ともいわれ、いつの時代でも「経験とヤマ勘」の世界でした。そのせいか、どちらかといえば、体育会系の度胸と根性で勝負できる人材や、英語はまったくダメでした、理数系は苦手、などというタイプの人材の宝庫でした。

不動産の証券化が進むことによって、それまでブラックボックスといわれた不動産の運用状況、つまりどんなテナントにいくらで貸しているか、管理費はどのくらいかけているのか、投資家向けに情報開示が進みました。理数系は苦手とはいってはいられなくなったのです。ついでにいえば外国人投資家も登場してきたので、英語苦手も通用しなくなりました

さらにこれからの時代、この業界にもご多分にもれずAI(人工頭脳)、IoT(モノのインターネット)の世界がやってきます。

ある日、私のオフィスに聞きなれない会社の方からの訪問がありました。彼らの相談事というのは、中古マンションの住戸すべてについて、AIを駆使して毎日株価ボードのようにその日の値段をつけるビジネスをしたいという素っ頓狂なものでした。

マンション住戸を上場しているわけでもないのにどうやって株価、否、不動産価格が付くのか仕組みは最後までよくわかりませんでしたが、こうしたシステムが世の中的にはどのような役に立つのか、あるいはどのように構築すれば役に立つのかといった難しい質問でした。

マンション相場が下がっている時には、自分の住んでいる住戸の暴落ぶりを嫌でも見せられる、そんなことでよい気分になる人は皆無じゃないかと初めは思いました。しかしよくよく考えてみると、多くの人は自分が住んでいる住宅の現在のマーケット相場をあまりよくご存じない、自分の持っている株式は毎日株価ボードとにらめっこしているくせに……。では時価を知れば、その所有者は狼狽して慌てて売りに出すかもしれない。それはひょっとして「人助け」になるかも。

ソニーとヤフーが不動産業界に殴り込み
また別の人は自分の家が「こんなに高くなっているんだ」と感激して売りに出すかもしれない。中古不動産を物色している人にとっては、同じマンションでも価格の違いがよくわかる。また売りに出ていない物件だけどその住戸を指定してアプローチする人が出てくるかもしれない。

牧野知弘著『業界だけが知っている「家・土地」バブル崩壊』(祥伝社新書)
牧野知弘著『業界だけが知っている「家・土地」バブル崩壊』(祥伝社新書)
うわっ、こう考えると、けっこう大変なことが起こりそうですし、業界的には面白いツールになりそうです。こんなことを考える人はまさに不動産業界の人ではなく、理科系の「オタク」青年を彷彿とさせる人たちです。

すでに不動産仲介の世界ではソニー不動産(現SREホールディングス)やヤフー不動産のようにマンションの「売り」と「買い」をネット上でマッチングさせる試みがスタートしています。またVR(バーチャルリアリティ)のツールを使って、直接現地に行って物件を見なくとも部屋の中や周辺の環境を居ながらにして体感できるようになりました。

マレーシアのジョホールバルという都市はシンガポールの北側に位置し、シンガポールの住宅難を逃れてきた人たちやシンガポールに通うマレーシア人などが住宅を求めることから、数多くのコンドミニアムが建設され、その土地の値上がりを見込んで世界中から投資マネーが集まったことで有名になりました。

このコンドミニアムに対する投資はパソコンだけで決済されます。価格は物件にもよりますが、初期の頃は日本円で800万円から1000万円程度と手ごろな価格だったことも手伝って、日本人からの投資も多くありました。

またこうしたIoTの発達は、不動産賃貸借契約仲介業務などの簡素化にもつながり始めました。これまで「対面」が基本であった不動産賃貸の際の「重要事項説明」については2017年10月からITを介したテレビ会議など、システム上での説明が解禁となりました。


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