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54th ALBUM "WONDER" セルフライナーノーツ

~アルバム制作までの流れ~

45th ALBUM "DESCENT" 以降のアルバムというのは、基本的に新しい要素やそれまでにやっていなかった実験的な側面を模索する形で制作された作品でした。44thまでのベタ塗り的な手法は極力避けて、例え地味になろうとも、かつて居た場所から離れて何かを探しに行くような作り方です。これは、1~44thまでの作品で感じた反省点 (使い慣れた音で壁を作って作曲下手を隠すような作り方) ゆえの行動であり、創作をする上での2大天敵ともいえる、"飽き"と"枯渇"への対応策でもありました。

実際、飽きることもなく、特段大きな枯渇を感じることも無くここまで来ることが出来ました。が、新しさと実験性を求めるあまりに、そもそもの根本/根源であるはずの"loopらしい曲"からあまりにかけ離れて行っている気がしました。特にアレンジ面は、ここは手癖で良かったのでは?という楽曲でも新たな要素を試そうとするあまりに、何処か半端な印象になってしまっているものがチラホラあります。53rdを作り終えた時点で、今度は置きっぱなしにしている大切なかつての要素を取りに行く作業をしよう、そして、そのかつての要素を今の技術で磨きなおしたようなアルバムを次は作ろうと決めていて、それを形にしたのが今回の54thです。

~作品としてのテーマ~

アルバムを作る際には、毎回ストーリー性のようなものを意識して制作に取り掛かっています。今回は、かつて発表した20thアルバムの世界観と呼応するもの かつ ダークファンタジー的な世界観、怖い童話/絵本みたいな作風を意識しました。また "入口と出口" で印象ががらりと変わる構成にすることも制作初期段階から考えていて、陰の面で始まり、陽の面を見せて終わらせようと決めておりました。これに基づいて最終的な曲順も決定しています。意識して聴いて頂けると嬉しいです。

前置きはここまで。
ここからはいつものように1曲ずつ解説していきます!

01. INTRO-Amaoto-

アルバム制作終盤、その時点で出来上がっていた9曲分を並べて、あれこれと曲順を考えていたのですが、どうにも最初と最後に違和感と唐突感があって、どう並べてもそれが拭えずに困っていました。そこで急遽制作したのが、このイントロダクションと10曲目のインタールードです。

ピアノ、オルガン、オーボエ、トロンボーン、リズムパートの一部と雨の音を次曲から抜き出して再利用しました。ピアノパートとリズムパートに関しては一度BPM120で出力したものを半テンポ(ピッチも同時に変わっています)に落として使っていて、そこに新たなリズムを乗せた形です。

ちなみにこれは小ネタ的な要素ですが、新たに乗せられたリズムはQUEENのWe Will Rock Youっぽさを狙っています。ドンドンダン!のリズムね。

02. 鉄屑と雨の街

母から「最近さぁ、雨の音とか環境音とか全然使わなくなったよね。ああゆうのが雰囲気あって良いのに~」と言われたのがきっかけで誕生した楽曲です。言われた当時はまだそうゆうの求めてんのねと思っていたのですが、考えてみると20thアルバムも雨の音からスタートしていたので、今回のコンセプト的にも合っていると判断しました。

とは言え、20thアルバムの1曲目 "灰空と赤い雨" は今聴くと若干青いと言いますか、若者が精いっぱい背伸びしている感が漂っています。実際若かったのでまぁそりゃそうだよねという話なのですけれど、ちょっと聴いていて恥ずかしい。なので、あれからきちんと年月が経ちましたという事が感じられるようなアレンジを目指して制作しました。

全体で捉える、大枠としてあまり細部を聴き取ろうとしなければ、メロディーを奏でているように聴こえるし、楽曲も展開しているように聴こえるけれど、よくよく各音に注目してみるとどれ一つとして主旋律と呼べるものを担当していないしこれといった展開もしていない、というのが今楽曲のテーマです。

上記の要素を特に強く感じて頂けるのはピアノの重なりでしょうか。一つ一つに分解して聴くと、音楽として成立しているかいないかのギリギリのものが幾つもありますが、全体で捉えるとメロディーに聴こえる。一番分かり易いのは動画版で言うと2分48秒を過ぎたあたりからの展開。さも盛り上がっている風のパートですが、実は特段盛り上がっていません。特別高い音を鳴らしているわけでもない。ギターフレーズもそれまで鳴っているものと同じですしね。ピアノとドラムの手数が増えただけで、それまでと同じフレーズの箇所までそれまで以上に高揚して聴こえたりするのが音楽の面白さですよね。

随所随所で鳴っている気怠い調子のギターリフは一度BPM120で弾いたものを半テンポに落としたものです。その手法何回使うねんとライナーノーツをいつも読んでくださっているかたに言われそうだけど…独特なもたりやヌメっと感が生まれることで、ベースっぽい音になるのがとても気に入っている手法なんです。

楽曲中で時々鳴っている"ヴェッペー"みたいなロボットボイスみたいな音はシールドをプラグに差し込むときの音のピッチを下げて歪めたものを使用しています。

03. Tantrum

今アルバムの収録作は、例えノイジーであっても、その中にポップさやドリーミーさを宿しているものがほとんどですが、この楽曲に関してはド直球にノイズとハードをやってみたよな1作です。変な話ですけれど、loopのコピーバンドをloopがやって、初めてオリジナル曲を作ったらこんな感じになるんじゃないでしょうか?知らんけど。

自分のコピバンを自分でやるというイメージがゆえにこの曲はセルフパロディー的な側面が強いです。なので、過去曲のフレーズを至る所に散りばめてみました。ベースライン代わりに裏で小さく鳴っているグランドピアノはJunk Brainだし、主たるメインメロディーは鷹舞い降りるですし、間に登場するフレーズは解体ショウとそっくり、という具合に、余程loopの曲を雑にしか追っていないかたでなければすぐ気づくような過去作要素が入っております。…気づきました?

終始メロディーを奏でているノイズ交じりのギターは、シンセと重ねあわせてディストーションをめっちゃ効かせたものです。こうゆう鳴らし方も何となくかつての私っぽさがあります。あと、一番盛り上がるところに来るとドラムがキック、スネア、ライドシンバルを同時にバンバン叩き出すんですけれど、この安直さもよくやりますよね。一番近いとこで言うと、こないだ"脳内ヒドラ"って曲を出しましたけど、あれでもこの同時バンバン奏法が登場します。

タイトルは"癇癪"という意味。"癇癪"はloopを表すキーワードの一つです。そんなもんキーワードの一つにすんなやと思うかもだけれど、ねぇ?

04. サイケなMAGIC

60年代から70年代にかけてのキューティ・ポップに対してシューゲイザーをぶつけたいなぁみたいな。何言ってるか分かんなかったらごめんなさいだけれどそうゆうとこからスタートした曲がこれです。

97年生まれの私からするとキューティ・ポップってどう足掻いてもタイムリーに触れることは出来なかったものですが、そこから派生したであろうジャンルには何処かで触れているはずです。シューゲイザーはそこまで時代がどうのこうのというジャンルじゃないですしね。とは言え、よくよく思い返してみるとこの二つのジャンルをちゃんと意識/意図して作曲したことは無いなぁと思ったので、同時にやっておこうかなって言って今回作りました。

結果的に、アレンジ過多によって60年代感は綺麗さっぱり無くなり、ポップなメロディーに引きずられる形でシューゲイザーにも寄り切らないという不思議な楽曲が完成いたしました。一応ドリームポップとシューゲイザーは仲良しこよしだと思っているので、無理やりジャンルを決めるとするならばこれはドリームポップです。異論は認める。

一応気持ち程度ですが、本当に気持ち程度にトラップミュージックの要素も取り入れています。とは言え、ハイハットでやらずにウッドスティックとフィンガークラップの音でそれ系のリズムパターンを鳴らしているのでそう感じられないかもしれません。もう精神性の問題ですこれは。これを作った時の精神の一部がトラップミュージックだったってことで。

05. Lost Child _WONDER Ver_

ロスチャイ (略称) は元々、47th ALBUM "MUSIC" 制作期の楽曲で、その時は悲しいことにデッドストックに回されたのですが、迷子を意味するタイトルが今回のアルバムのコンセプトと相性が良いのではないかと感じてリアレンジしての初アルバム収録となりました。

ギターとベースが目立っていて、音数が少なく、ジャジーでブルージー、全体的にはドライな音像だったオリジナル版に対して、今回のアレンジではギターを全てピアノとシンセに置き換えた上でリズムも四つ打ちに直したので、もう少し湿度が宿っている、ウェットな楽曲に変化していると思います。あと素直さも出たと思う。

あまりにも元の要素が無いのはどうかということで大枠の構成だけはそのまま残しておきました。特に特徴的なアウトロのバッサリ具合はお気に入りのポイントだったのでちゃんと再現してあります。

06. 玄武 _WONDER Ver_

動画版だと特段表記していませんが、ちゃんとアルバムバージョンとして作り直したテイクです。この楽曲と9曲目の "紫水晶の電影" は53rd制作期にはデモテイクが存在していたこともあって、アレンジの方向性としては53rdのものを引きずっているところがあるかな。漂う宇宙っぽさや、細かい部分で言うとオルガンの数とその定位ですよね。空間音楽アプローチが残っていると思う。

そもそも、この楽曲は48th収録作の "紅と桃" をVTuberの紅凛風さんの雑談配信用に改題リアレンジしたものでした。今回それを更にリアレンジしてこうしてアルバムに再収録したので何ともよく分からないことになっている感は否めませんが…どうしても入れておきたかった。タイトルが変わっている以上、私の中では別曲に近い扱いなので、未収録で放置されているのが何となく悲しかったんですよね。

同じく提供作だった"朱雀"と比べて、よく言えば大人びている、悪く言えば地味な作風なのですが、秘めたるポテンシャルがある楽曲だと私は思っています。助演男優/女優賞取るタイプとでも言いますか…解りずらい???

07. カウボと花サボ

異国情緒や多国籍な空気を意識したアレンジというのはかなり前から私の中での大きな作曲テーマの一つになっています。今回それが一番色濃く表れたのがこの "カウボと花サボ" です。

音使いやリズムパターンは凄くエレクトロなんだけれど、実際に耳に入ってくる音は凄くメキシカンな感じ、を目指しました。コンガの音とメロディーが何処となく荒野み、野性み溢れる感じしませんか?あと、フルートを追ってコーラスみたいに同じとこ吹く追いフルートも、カウボーイ度をマシマシにしてくれてる要素かと思います。

アルバム制作においてはかなり終盤に作られました。イントロダクションとインタールードを除けば一番最後だったと記憶しています。全体のバランスを考えた時にもう少し緩さが欲しいと思い制作に至りました。この曲があることで、玄武までがアナログ盤のA面、ここからがB面みたいな構成になっていたりもします。

08. Mollusk Dance _WONDER Ver_

47thアルバム"MUSIC"収録作のリアレンジ版です。旧作を再録して再度アルバムに入れるのは結構お久しぶり。通常だったら避けて、無理やりにでも新作をねじ込むところですが、WONDERというタイトルが決まった時点で再度入れるべきなのではと考えていました。

WONDERというタイトルから不思議の国のアリスをイメージして、不思議な国に存在しそうな過去作は何か自分に問うた時に、絶対にこの曲しかないと思いました。また、オリジナル版の "Mollusk Dance" は私の中で不遇な1作という印象があります。発表したタイミング、アレンジの簡素さが原因で、曲の秘めたる複雑さや細かな拘りが上手く伝わらなかったと思っていたからです。この楽曲は実はとても凝っています。

オリジナル版のワルツ的な要素、間を縫うようなピアノ、四つ打ちのふりをして地味に途中で謎の動きを見せているリズムパターンといった部分を更に強調して、メインフレーズにチュービーなギターを加えました。何処か上がり切らない印象のあった今楽曲に新たな高揚感を生み出しているのでぜひ注目して聴いてみてほしいです。

あと、地味に途中で謎の動きを見せているリズムパターンをよりここでうごいてるからねと主張するために該当箇所でハイハットを連打してたりもするので、オリジナル版でスルーしてしまっていた方は要チェック!

09. 紫水晶の電影

6曲目の玄武と同様に53rdアルバム制作期にはデモテイクが存在していた楽曲です。もう少し完成が早かったら多分別のタイトルで53rdのほうに収録されていたのではないでしょうか。

前のアルバムのマスタリング作業を進めている際、これだけたくさん曲を作っているのにタイトルに"水晶"と付くものが1つしかないことに気付きました。(15thアルバム"SURREAL"収録の"水晶にて突き刺す") 非常にどうでも良い事に思えますがその時の私はどうしても気になってしまって、久方ぶりに水晶と付く楽曲を作ってみることにしました。

紫水晶というと?となりますがアメジストといえば鉱石、宝石好きのかたならばピンとくるのではないかと思います。私の中で、アメジストという石には美しさと妖艶さ、輝きと影をそれぞれ感じることのできる神秘的なイメージがあります。この楽曲で鳴らされるメロディーにはそうした要素を詰め込んでみました。ドラムでも静と動を表現しています。

静と動を表現したドラムゆえ、展開として成立するか非常に危うい性質がこの曲にはありますが、そうした部分を裏打ちハイハットがしっかり縫い結わえてくれています。いつもお世話になっています。

10. Interlude~ENTREE~

1曲目でも書きましたが、その時点で出来上がっていた9曲分を並べた際、どうにも最初と最後に唐突さがあって、そこを上手く繋ぎとめるために製作されたのが1曲目とこのインタールードでした。

"紫水晶の電影" という雰囲気モノと、次曲 "AIZen*Terror" を直接並べてしまうとふり幅がえげつないと言いますか、情緒不安定かな?となるのですが、間にこうした小品チックなモノが挟まることで一気にドラマチックになるような気がしますね。アウトロのバスドラ&コンガの連打→次曲のイントロ、という流れ、感動的だと思いませんか?

ちなみにENTREEとはフランス料理における"前菜"を表す単語で、同国における"入口"を意味する言葉でもあります。え?ここまでは11曲目への前振りだったの!?てかまだ前菜来てなかったの!?みたいに思って頂ければと思ってこう名付けました。

11. AIZen*Terror

椎名華楠氏とのコラボ楽曲第5弾です。華楠氏にはアートワークとタイトル、世界観や大まかな曲調を決めて頂き、そこに対して私が曲を付けるという形で完成させました。いつもありがとうございます。

今だから言いますが、華楠氏からお話を頂く前段階から、スマホに記していた曲名候補と曲順候補において、ラストは "華楠氏とのコラボ曲(仮)" と勝手に考えておりました。54作目を作るのならば、同氏の刺激が必要不可欠だと思っていたからです。勝手ですみません。

兎にも角にも、このアルバムはこの "AIZen*Terror" のために存在すると言って過言ではない。この楽曲がラストに固定化されているからこそ生まれた間の楽曲があるわけだから。そもそも、陰の "鉄屑と雨の街" からどうここに持ってくるのかが54thの最重要ポイントでしたしね。

華楠氏が用意してくださったテーマとは別に、私個人としては切なポップ路線の集大成を作りだす、今までの先行曲の良いとこ取りにするために、過去作の要素を散りばめる、というものがありました。下に過去作の要素、オマージュポイントを並べときます。

・大枠の構成/リズムパターンは "Re:Inverse"
・階段状に上り下りするメロディーは "苺シリーズ" や "摩天楼"
・刻むようなシンセリフパートは "Cockpit"、 "Cactus"、 "Comet"
・最後の最後に別メロが登場してそのまま終わるのは "歓楽街"
・fade-out中にシンセが戻ってくるのは "Frozen Dream" 、 "Galactic Buds"

実はアウトロがフェードアウトせずに完奏して終わるもう少し尺の短いテイクが存在しますが、そちらは何となく表に出さずに私の中にしまっておこうかなと思っています。

てことで各曲の解説終わり!

~最後に~

最後まで聴き終えたかたで、割とloopの曲好きよってかたはぜひそのまますぐに冒頭に戻ってみて欲しいです。そうすると、この記事の最初のほうで書いた "入口と出口で印象が変わる" をより実感して頂けると思います。

ここまで読んでくださり本当にありがとうございます!
それではまた別の記事で!👼

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