対思い出補正

ふと昔のことを思い出すと、そのキラキラ度合い、ギラギラ加減にびっくりすることがある。確実に今よりも光沢してるというか。

渦中にいた時にはそれなりに嫌な思いをしたはずの時期であっても、ある程度の時間が過ぎて、ちゃんと思い返す必要性が出るくらいに記憶が遠ざかると、いわゆる思い出補正的なものが掛かって、不思議な光沢を帯びるのは何故なのだろう。

あれは幸せの前借りだったのではないか、先にあらかた使い切ってしまったがために、現在から未来にかけて、もうあんな風なキラキラギラギラした瞬間は二度と訪れないのではないか、と考えてしまう程に、今と比較した時の輝きの度合いが違っていて、しかも、今よりも遥かに勝（まさ）っているように感じるものだから、割と定期的に悔しい気持ちになる。

恐らくは、今この瞬間も、時間が経って過去になってしまえば、来たるまだ見ぬ未来と比較されて不思議な輝きを未来の私によって与えられるのだろうけれども、基本的には、渦中の積み重ね々でず〜っと生きていって、気づいたら今があの頃になっていましたの繰り返しなので、この渦中と比較の日々って死ぬまで終わらないんだろうなと思う。

過去の自分に負ける感覚（実際には思い込みに近いもので勝ち負けとかではないはず）が嫌すぎるので、少しでもあの頃よりも良い感じであることを自分の記憶に主張すべく、「輝きはちょっとアレですけれども今は深みが、いぶし加工がかなり効いていますから」みたいな気持ちを意図的に持つようにしている。これがとても不毛。特段プラスの感情を生み出さない。

若さゆえの尖りみたいなものに対して、今ならではの自然な尖りかたで対抗出来ればそれが1番理想的なのだけれど、ある程度の大人になってからの対抗としての尖りって、意図しないとなかなか表層に出てこないし、それはもう尖りというかシンプルに人間的なイタさになりかねないので、対抗手段が"深み"になる。

ん〜、"深み"とは何ぞや。

そういえば、そもそも若かりし頃（今も若い部類ではあるけれどもさらにヤングな頃）は、こんなふうに逐一昔の記憶をわざわざ引っ張り出して、自ら落ち込みにいくような事はしなかったし、引っ張り出すに足る記憶のストックがそもそも無かったような。今は、だいぶ喜怒哀楽を積んで、いくらでも引っ張り出せる記憶のストックがあるから、こんな不毛な自問自答を繰り返しているのかもしれない。

この積み重ねは、私が不慮の事故だとか助かりようがない大病をしない限りはまだまだ増える。今と比較する用の記憶のストックがどんどんと蓄積されていく。恐怖でしかない。ずっと、少し前の輝きに追われているような、それでいて、完全には捕らえてもらえないような感覚が続くのだろうか。

でも、文字にして気づいたけれど、少し前の輝きにずっと追われている人ってなんか素敵やん。これからは、少し前の輝きにずっと追われている人キャラで売り出して行こうかな。