脳内宇宙空間
深夜に布団の中、事前に用意していた寝るときに聴くプレイリストみたいなものをウォークマンで聴きながら目を瞑っていると、目の前は真っ暗になるが、その真っ暗の奥に向けて、バコンと空間が抜けているような感覚になることがある。天井が無いというか、横に対しては狭いけれど、縦に対してやけに余裕をもった部屋が私の脳内に生成される。この感覚が私はとてもとても好きだ。
極度の疲れを感じているときには、寝落ちする瞬間に床が抜けたみたいな感覚になって、びっくりして飛び起きることがある。肘がガクッと落ちて、そこから無限の落下が始まるようなあの感覚が、私はとてもとても苦手だ。
好きと苦手が同時に発生しうるこの寝室に、私は何か私だけの特別な宇宙空間的なイメージを持っていて、そこで聴く音楽は格別絶品。ライブよりも遥かにテンションがブチ上がってしまい眠れなくなることも多々あるが、ウォークマンで再生するのは寝るときに聴く用のプレイリストであって、寝る"ために"聴く用のプレイリストでは無いのでこれは決して本末転倒ではない。
そもそも、寝る時用の安眠プレイリストみたいなものがあまり好きではなくて、「寝ている場合か!どんなジャンルだとしても真剣に耳を傾けたまえよ君たちぃ!!」というような、そうゆう凄くめんどくさい人間なので、イージーリスニングを全然イージーな感じで聴かないし、ニューエイジやアンビエントの揺らぎに対しても常に意味を模索している節がある。この行為って途中で耳も脳も疲れてしまって、高確率でグロッキーに陥るのだけれど、そのグロッキー状態まで込み。これがワンパッケージ。
ドローンミュージックに歌謡の要素を見た!的な、ダンサブルさはドローンミュージックにこそ宿る!的な、衝撃!シマウマ人間は実在した!的なそんな滑稽さがそこには在る。在るはずのないものを必死に見出そうと呼吸を荒くしている感じ。在るのか無いのかハッキリしなよな文章になってしまいました。まぁそれは別にいいけれども。
私は、バコンと上と下が抜けた空間で、様々な音楽ジャンルに馬鹿みたいに向き合う謎の行為をしている自分に酔っているんだと思う。思うというか間違いなく酔っている。"そのミュージシャンを聴いている私ってメチャやばくない!?"の類いのファンって嫌だなぁってタイプの人間だと自分の認識していたんだけれど、それよりも遥かに不可思議で厄介な存在に気付いたらなっていた。
ライブやフェスだと割と冷静にしている。というか、私は別にお祭り気分で騒ぐためにここに来たのではなくて、音楽を聴きに来ただけですから、みたいなスンとした感じでそこに居るんだけれど(なので、リアクション重視の演者のかたや他のお客様のことを考えて、お祭りノリ的なイベントには極力参加しないようにしている)、寝室に生成された脳内宇宙の中では、思う存分飛び跳ねたりクネクネしたりする。何なら、自分を分裂させてサークルを組んでるかもしれない。(サークル自体はあんまり好きではない)
脳内宇宙空間においての音楽体験は、対ヒトになっていないのが凄く心地いい。私と音楽データと存在しているようで実際にはしていない私だけの仮想空間で構成されていて、そこには決まりのフリも無いし、セットリスト被りを自分で避けることもできる。不満が無い。不満を好きなコンテンツについぶつけてしまう愛が憎しみに変わっていないかこれみたいな行為をする必要もない。とにかく楽だし没入できる。
脳内宇宙空間、あなたにはありますか。