PINKみ
分かんない。分かんないよ。これがロドトルラなのかカラートリートメントによる汚れなのか。このお風呂全体に薄っすら付いたピンクみがロドトルラなのかカラートリートメントによるものなのかが分からないよ。
お風呂につくピンクのヌルヌルしたやつは、カビではなくてロドトルラという酵母菌の一種らしい。石鹸のカス、皮脂が原因で付くものらしい。ロドトルラ、という名前が何とも素敵。私が使っているカラートリートメント、エンシ〇ールズに負けず劣らないし、王子ロドトルラと、王女エンシ〇ールズの恋愛ファンタジーみたいなものが制作できそうな雰囲気が漂っている。
だとするならば、これがロドトルラかカラートリートメントかをハッキリさせる必要なんてないのかもしれない。私の目の前に広がっているピンクの光景は、一種の恋愛ファンタジーなのだから、私はこれを無理にどちらかに決めてしまわずに、優しい眼差しで見守るべきなのかもしれない。
だけれども、壊れたものにも美しさは宿る。いっそ、どちらも洗い流してしまって、この恋愛ファンタジーをバッドエンドで終わらせることがこの私にはできる。本来ならば半分ぐらいはハッピーエンドルートだった選択肢群の行き着く先をまとめてバッドにできる。IFルートだけでもハッピーにしてくれても良いのにだとか言われても私は知るものか。
噂によれば、脱毛クリームでカラートリートメントの汚れはスルっと落ちるらしい。以前、メガド〇キで購入していたものが残っていたので早速該当の箇所に塗り付けて少しの間放置してから水で流してみた。
落ちないっすわ。
落ちない。
如何とも落ちぬ。
強い。強いよこの二人。この脱毛クリーム、私の足をヒリヒリさせたやつなのにこの二人ときたら微動だにしないよ。私の足は薄赤色に変わったというのに、色すら変えずにそこに存在する。かぶれた私が馬鹿みたい。
この強さ、本当にこの二人だけの強さなのか。髪全体をピンクに染めてこれが私のアイデンティティですという強い主張を表現していた過去の私の、その自己主張の強さが宿っている気がする。(大学時代はそのまっピンク髪の状態で教室の一番前の席に座り、教授に真剣な眼差しを送っていたりもしたけれど、あれ向こうからしたらどう映っていたんだろう)
如何にピンクを保ち続けるかに懸けていた日々もあった。ラップやシャンプーハットを駆使して、少しでも色落ちが見られればカラートリートメントを再度塗り重ねて、狭い浴槽の中20分~35分ほど体育座りの状態で、髪に色が浸透するのを待つという作業を毎日のように行っていた。シャンプーも、色が付いたものを使っていたし。確かココナッツの香りのやつ。
私は過去の自分に首を絞められているのか。というか、目の前にもうこれだけピンクに染まったお風呂があるのだから、そこから無理に脱しようとするのではなくてまたあの頃のピンクに回帰すればいいじゃない、と過去の自分から語りかけられているのかもしれない。
よし、もうロドトルラ君とエンシ〇ールズさん帰っていいよ。
ここからは私と私の闘いだ。いや、和解だ。和解しよう。今すぐにとは言わないけれども、君が、私が望むならば私はビビッドピンクに回帰しよう。君が言う通り、一時期の私にとって、間違いなくそれが私らしさだった。生まれた時の姿が必ずしも在るべき姿であるとは限らない。黒髪はキャラじゃない。そう思う。そう思うよ。冠婚葬祭の時には凄く困るけれど。
そんな自分との闘い、和解、対話を浴槽で続けること多分34分ほど。何だか具合が悪い。鼻水も出てきたし心なしか頭も重い。喉もおかしな感じで、体全体が熱を持ち始めているようだ。気持ち悪い。
目の前のピンクが歪んで廻りはじめる。さっきまでは美しかった極彩色が、グルグルと渦を巻いていて、その渦に吐き気を催す。
私は風邪に負けた。