55th ALBUM "DNAⅢ" セルフライナーノーツ
01. INTRO-Ephemera-
当初は2曲目の "蜉蝣の翅" を1曲目に置いていたのですが、何となくしっくり来なかったために短い導入を作ることになりました。アルバム2作続けて短めの導入曲から始まる構成、というのはこれが初かなと思います。
この楽曲のメロディーパートは次曲で使われているものを0.5倍速にしたやつと逆再生にしたやつを合わせたやつです。この手法も前作54th導入部で使用したやつを再利用したやつですね(めっちゃ頭悪そうな文章)。
バックで鳴っているシュルシュルした音はシンバルとハイハットのリズムパターンを逆再生したもの。かつて発表したDNAⅠに収録されていた "蜘蛛" という楽曲を意識して入れました。
02. 蜉蝣の翅 (Album Mix)
メンバーシップ内にて配布していた楽曲のリアレンジ版。いつもだったら限定配布作はアルバムに収録しませんが、今回はちょっと思うところがあって収録することにしました。
配布版とはミックスとマスタリングが異なるほか、グランドピアノのバッキングがよりエフェクティブになった、メロディーパートに元々は無かったシンセサイザーが追加されているという違いがあります。配布版がかなりラフな仕上がりだったのに対して、幾分力強い印象。
DNAⅠに虫曲 "蜘蛛" が入っていたので今回も虫をテーマにしたものを入れておこうかな?みたいなところから製作がスタートした楽曲で、色々な虫を検索してその生態を見て回った結果、蜉蝣に行きつきました。蜉蝣の生態を調べて頂いてからこの楽曲を聴くとより意図が分かり易いと思います。
03. Laser Mantis (Album Mix)
こちらも元々はメンバーシップ配布曲。非常にお気に入りの楽曲ということでアルバムに収録することにしました。気に入っている曲は全体公開にしたくなっちゃうよねやっぱり。
配布版はディストーションギターが全面に出たハードロックっぽい感じでしたが、アルバムに収録するにあたってシンセサイザーをメインにしたサイバーパンク風のアレンジに変更しました。一応元々入ってたギターのパートも残していますがかなり音を引っ込めているので空気のようになっています。
最近のアルバムには必ず1曲は昔のloopっぽい作品を入れるようにしているのですが、今回のその昔っぽい枠がこの曲です。4つ打ちエレクトロを軸にノイズがかったシンセが乗っていて、刻むようなシンセから伸びやかなフレーズに向かうみたいな。ざっくり言うとそういった作りが私っぽいのかなと私自身は考えているのですが、皆様からするとどうでしょうか。
過去作で言うと、鷹舞い降りる、Anti∞lovE、Cockpit、Cometあたりと近いかな~みたいに思っています。一番近いのはAnti∞lovEかな?
04. Colorful Insults (Album Mix)
これそもそもアルバム用に制作した楽曲では無かったのですが、他に4曲目に相応しい曲が無かったので、お色直しをして収録することにしました。
オリジナル版は80~90年代特有のリズムがやたら前に出ているパチパチした音のハードロックを意識していましたが、今回のバージョンではそこはあまり意識せずになるべくシンプルなパターンで全体を組んでいくような作り方をしました。パンクほどスカスカでは無いですけれど、精神性としては割とパンキッシュなイメージです。
メロディーに関しては3つのギターリフにどうシンセを絡めるか、みたいなところを突き詰めて作りました。リズムがシンプルになった一方でシンセの種類が増えて、なおかつ全体的にリバーブを効かせているので、メロディーを担っているパートは飽和的な音になっているのが面白いかなぁと。
05. ID:帰巣 (Album Mix)
先行版とアレンジ自体は変わっていませんが、スネアのボリュームが下がっているので地味にアルバムミックスです。マスタリングもやり直しました。
タイトルと大まかなコンセプトを桜橋渡さんに考えて頂き、DMでキーワードやアイディアを出し合いながら曲のイメージを固めました。こうした手順は一人でやっていると踏めないのでとても刺激になります。
テーマは帰巣本能。私はよく地球ドラマチックという番組を見るのですが、ちょくちょく動物の帰巣行動にフォーカスを当てた回が放送されます。そこでは自然の風景をバックに、時に美しく時に残酷に、無事目的地に到着する者もいれば命を落としたり我が子を置いて行かなければならなくなった者もいて、そうゆう光と影みたいな二面性を楽曲に落とし込めないか試みたのがこの楽曲だったりします。
二面性を表現すべく、1曲の中で明るいパートと暗いパートがばっつり分かれていて、なおかつ交互に来る構成にしました。こういった事をしてしまうとどうしても継ぎ接ぎ感が出てしまうものですが、この楽曲に関しては上手く転調出来たかなと思います。
桜橋さんとDMでやり取りをする中で、地底、和風、ディストピアというキーワードを頂き、そこに私が民族音楽的な要素を感じたために全編に渡ってタム回し的なリズムパターンが入っています。タム回しって何だか民族音楽っぽい気がするんですよね。
06. 縫合体R (Album Mix)
アルバム制作のかなり初期の段階からデモが存在していた楽曲。27thアルバムに収録されていた "解剖体L" のセルフパロ作で、メロディーの展開がめちゃめちゃソックリなので聴き比べてみると面白いと思います。
オリジナル版は初期作を意識してあえてチープな音使いにしたり、やたらオーケストラルヒットを鳴らしていましたが、こちらのアルバム版はシリアスさや不気味さが強調されたアレンジになっています。一部リズムを残してほぼほぼ音を差し変えたので印象がかなり違いますね。
ちなみに、バックで終始鳴っているグワングワンした謎の音は、メンバーシップ配布作である "月光螺旋_Bubble Mix" で使用した泡と金属音を込み合わせたパターンを0.5倍速にしたものです。めっちゃインダストリアル。
07. 蒼の劇画 (Album Mix)
メンバーシップ配布作のリアレンジ版。かつてのDNA2作にそれぞれ収録されていた "赤の蝋画" "黒の絵画" に続く色+〇画曲。壁画にしようか劇画にしようか一瞬迷いましたが、口に出して読んだ時に劇画のほうがかっこ良かったので劇画にしました。(最初期に発表した劇画レXプとはあまり関係ないし、あの曲はタイトルがひどすぎると今では後悔しています…。)
配布版は敢えてアレンジ過多な派手なテイクにしていましたが、こちらは逆になるべくシンプルで分かり易いもの、先行ではなくあくまでもアルバム曲として機能するもの、重すぎない音を意図しました。
アナログ的な空気が欲しかったので、ほぼ全てのパートにリバーブとラジオボイス風のエフェクトを効かせています。よく聴くとポコポコしたパーカッション一音一音にも残響が残っているのでよく聴いてみてください。
08. 苺鰭 (Album Mix)
"縫合体R" と共にアルバム制作初期段階から存在していた楽曲で、19thアルバム収録作の "苺姫" のセルフパロ作。れんいちごさんのラジオ動画への提供曲でもあります。
メロディーが9割がた苺姫な上に、ひらがなにするといちごひれということでたいとるもほぼいちごひめ。正直これを新曲とカウントしてアルバムに収録するのはどうなんだろうと思わないこともないのですけれど、せっかく作ったので未収録にしたくなくて入れちゃいました。
次の曲が "Blooming Illusion" ということで繋がりを考えてメロディーを担うパートにフワフワしたドリーミーなアレンジを施しています(7曲目同様にリバーブとラジオボイス系のエフェクトをかけてるよ)。その一方でリズムトラックは結構メカニックでカチャカチャした音使いなので、メロとリズムの対比/ギャップが面白い感じになっているかなって。
09. Blooming Illusion (Album Mix)
今回の55thアルバム制作のきっかけになった始まりの作品であり、それでいてミックスとマスタリングまで完了したのが一番最後になった楽曲。あまりにも作業が終わらないので一時期嫌いになったレベルです。
コンセプトはお花畑版Frozen Dream。ポップさや華やかさ、清涼感の中に切なさや儚さ、大げさかもしれませんが無常観を感じて頂けるようなものを目指して制作しました。タイトルは咲いた幻という意味で付けていて、実際には咲いていない、しょせん幻でしかないみたいな結構突き放したニュアンスが込められています。
先にタイトルを決めていたこともあり、メロディーはかなりすんなりと決まりましたが、前述の通りミックスとマスタリングの作業にかつてないほどの苦労を強いられました。これは多様なシンセ、ピアノ、オーボエ、オルガンの重なりありきでメロディーを構成してしまったために起きたもの。一定の音帯を少しでも弄ると、弄るつもりではない他の音も持ち上がってしまったり、重なりがピークとなる箇所だけボフっと歪むといった事が多発し、かと言ってどこかのパートを削ると独特の良さや風味があっさり消えるという非常に扱いにくい楽曲がこれなのです。
最終的には各パートの音選びからやり直し、一部パートを泣く泣くカットすることで完成にこぎつけました。多分、40テイクぐらいやり直しているのではないかと思います。一時期は嫌いになりかけたけれど、苦労した分今は愛着がわいています。
ちなみに先行版と違う箇所はゆったりしたパートのシンセが少なくなった点とアウトロ付近にテクノっぽいリズムが足された点です。
10. Hatching
アルバム制作の一番最後に生まれた曲(完成したのは最後から二番目)。ラスト手前になにか雰囲気重視の短めのものがあったら良いかもしれないと思って作りました。タイトルの意味は孵化。
金属質/無機質な四つ打ちのトラック上に、ところどころだけ三連符のアプローチになるピアノを乗っけた不思議な1作。バックで薄っすらと逆再生したピアノの同フレーズを流しているのでより不思議ちゃんみが増しています。
次の11曲目のタイトルが孵化した卵の中身の答え合わせになっているので、連作あるいは組曲として聴くとよりしっくりくるはず。今回のアルバムジャケットが卵の殻モチーフなのもこの曲から来ています。
11. Fragile And Empty
タイトルは脆い空虚という意味で「孵化したと思われた卵の中身は実は空っぽでした」というのがこのアルバムのオチになります。この楽曲制作時、私が心身ともに絶不調だったこともあってこのようなあまり救いのないタイトルになりました。
全体の作りとしては10曲目とほぼ同じで、リズムトラックに関しては共通の箇所が幾つもあります。こちらのほうが三連ノリがより強いのと、10曲目であえて排除したシンセサイザーがこっちにはしっかり入っていてメロディアスなのが大きな違いでしょうか。
ここ最近のアルバムの締めとしては珍しく2分半を切る作品であり、なおかつフェードアウトせず完奏する楽曲です。55作分アルバムを製作してきて、そのラストが余韻を残さずに打ち止め的に終わるこの呆気なさこそが、今回のアルバムで一番伝えたかったことかもしれません。
最後に
今回のアルバムはメンバーシップ会員様からすると、実質的な初出曲が2曲のみ、かつ最後に纏まって配置されているという非常に極端な作品です。こういったアルバムはかつての私はあまり好きではありませんでしたし、今でもどうなんだろうと思っている派の人間です。実際、導入と10と11の3曲が出来るまでは本当にこれ1つに纏まるんだろうかと思っていました。
今回、このような内容にしたのは54th以降の音楽活動を可能な限り拾い上げて未収録作を生みたくなかったというのと、一度アルバムという事を意識せずに、気づいたら出来てたでぇ!!みたいなものを作りたかったから。まぁ続編と位置付けている時点で完璧にはそうなっていないんだけれど、あの日以降の日々というか生活ですっていうか、私こうでしたって、上手く言えないけれどね。
DNAⅢと名付けられているけれどこれは器でしかなくて、要するにあのDNAシリーズって明確なテーマ等は無く集められた色々なジャンルの楽曲が一定の順番で揃った時に、離れて全体を見ると一定の光を放っていました系のアルバムだったはずなんですよね。それが今回の私の気持ちに合ってるなぁって思ったのでⅢと付けました。
54th以降、何でこうも不調になるんだろうという日々続きで、何なら全ての活動が出来なくなるんじゃないかみたいな瞬間もあり、このアルバムの収録曲の一部だってちょっと打ち込んだらソフト閉じて伏せてみたり、うなだれてみたり、ユンケルの力を借りて頑張ったり(笑) そうやって1つ1つ産み落としていった集合体なので、もし嫌いじゃなかったら数回でも愛してもらえたらと思います。最後の最後にうだうだ書いてごめんね。
ここまで読んでくれてありがとう。じゃまた別の記事で~。