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「できることは何でもやろうと腹をくくった。」株式会社Eight Good代表・井下田淳さん
このマガジンではクラウドファンディングを成功させた方々に、プロジェクトへの情熱や人の心を動かせた理由をインタビューし、ご紹介しています。
今回ご紹介するのは、株式会社Eight Good代表取締役社長の井下田淳(@igejun)さん。
飲食店で完食した写真を投稿するとポイントをためられるクーポンがもらえる「Can食」というサービスのクラウドファンディングに挑戦しました。
目標金額100万円を掲げ、募集期間30日で目標金額を達成したのです。現在は、サービスリリースに向けて日夜準備に取り組んでいます。
井下田淳さん / 株式会社Eight Good代表取締役社長。「Can食」のクラウドファンディングに挑戦し、目標金額100万円を達成。現在、サービスリリースに向けて準備中。1996年生まれ。
「Can食」とは?
――クラウドファンディングを実施された「Can食」とは、どんなサービスですか?
井下田さん:飲食店で完食したら、写真を投稿してクーポンなどがもらえるポイントをためられるサービスです。
――どんなきっかけで、このサービスが生まれたのでしょうか?
井下田さん:大学3年生だった時に、当時参加していたゼミで知り合ったメンバー4人と参加した社会起業コンテスト「YYcontest2018」で、学生部門で優勝した「完食ーポン(かんしょくーぽん)」がベースになっています。
――「完食ーポン」って、具体的にはどういうものなんですか?
井下田さん:「完食ーポン(かんしょくーぽん)」は、フードロスを減らすことを目指して、飲食店で食事を残さず綺麗に食べたら、インセンティブとしてクーポンが貰えるサービスです。
――へぇ、面白い! たしかにフードロスが減りそうなアイディアです。社会起業コンテストに参加したのは、その時がはじめてですか?
井下田さん:「YYcontest」に参加したのは初めてでしたが、通学していた大学主催のビジネスコンテストには毎年参加していました。
――どんなテーマで参加していたんですか?
井下田さん:ひとつは、介護系のビジネスで、話し相手が欲しいお年寄りと大学生をマッチングするサービスです。もう一つは、食パンの廃棄を減らすフードロスのビジネスです。クラウドファンディングのような形を、食パンをやりとりすることで実現できないか考えました。ネーミングも「クラウドパンディング」とつけて。
――何だか、面白そうなサービスですね…!ビジネスコンテストに毎年参加されてたということですが、起業に興味があったんですか?
井下田さん:経営者である父の姿を見て育ったので、子どもの頃からサラリーマンとして企業に勤めるよりも、自分の力を発揮してそれに見合う対価を得るという生き方をしたいと思っていました。
――お父さんの影響で、起業することが身近に感じられたんですね。
日本では年間640万トンの食べ物が廃棄されている
――「Can食」の目的であるフードロスに着目するようになったきっかけを教えてください。
井下田さん:大学在学中にアルバイトをしていた飲食店で、食べ残しを目にしたことがきっかけです。たくさんの食べ物が残っている光景がとてもショックでした。
――なぜ食べ残しを目にして、そこまで大きなショックを受けたんでしょうか?
井下田さん:子どもの頃は好き嫌いが多くて、両親からは米粒一つ残さないように言われていました。それでも野菜を残してしまうことがあり、食べ物を残すことの罪悪感があったんですよ。
――「フードロス」は社会問題になっていますもんね。
井下田さん:日本に限らず、世界中で「フードロス」の問題は深刻化していると知りました。「食べ残しても仕方がない」「食べ残しは経済的に合理性がある」という考え方もありますが、僕は疑問に思っていました。
――「フードロス」に対する世間への疑問が起業につながっているわけですね。
井下田さん:「フードロス」の問題を解決するということに「社会的意義」や「面白み」を感じて、この分野で起業しようと決意しました。
事業の可能性を確かめる意味もある
――ビジネスコンテストで優勝した経験は、どのような影響を与えましたか?
井下田さん:大きな自信と事業化への手応えを感じましたね。同時に、優勝することで周りの人たちから応援されているという自負も生まれました。
――自信と手応えをつかんだからこそ、具体的に動き始めたわけですね。
井下田さん:はい。その後、事業化に向けて周囲にヒアリングを重ねました。その結果、単にフードロスを減らすだけではなく、そもそもフードロスが発生しない仕組みが必要という考えに行き着きました。そこで生まれたサービスが「can食」です。
――なるほど。クラウドファンディングをしようと思った理由は何ですか?
井下田さん:新たなメンバーと一緒に会社をつくって「can食」をリリースするための資金を集めるために挑戦しました。また、クラウドファンディングに挑戦することで、事業の可能性を確かめたいと思ったことも理由です。
――事業のテストマーケティングの側面もあったということですね。クラウドファンディングには、何名で参加されたんですか?
井下田さん:僕を入れて4人です。エンジニアやデザイナーなど、4人とも性質もスキルも全然違いましたが、以前から「何か社会貢献できることを一緒にしよう」と話していました。
成功にはしっかりした営業活動が大事
――クラウドファンディングを達成した時の周りの反応はどうでしたか?
井下田さん:「おめでとう」「よくやったね」という声を沢山いただきました。懐かしい小学校時代の友人からも応援やSNSの拡散などに協力してもらえました。うれしかったですね。
――小学校の時のご友人の応援って、何だか照れくさいけど嬉しいですね。
井下田さん:クラウドファンディングは多くの人に支えられることが必要不可欠なので、今まで自分が生きてきた中で培った人脈は重要だと思います。
――なるほど。今ある人脈を最大限活用する必要がありますね。ほかに必要だと思うことは何でしょうか。
井下田さん:しっかり営業活動をすることだと思います。多くの人に会って、プロジェクトの説明をして、想いを伝えていく。地道な努力が、最終的にプロジェクトの成功につながったと思います。
――営業活動することに抵抗がある方もいると思いますが、井下田さんはいかがでしたか?
井下田さん:私も最初は抵抗がありました。相手に選択を迫るのが申し訳ないという気持ちもありましたし、今後の関係性が変わってしまうのではないかという不安もあって、悩みましたね。
――それでも、営業活動を続けられたのはなぜでしょう?
井下田さん:どうしても成功させたい想いがあったからです。そのために、できることは何でもやろうと腹をくくったので。
――そうやって努力している姿勢も、支援につながったのかもしれませんね。プロジェクトを成功させるために、戦略は考えたんでしょうか。
井下田さん:クラウドファンディングに申込む時に依頼した、プロジェクトの立案から達成までフォローしてくれるキュレーター(専属の担当者)の方の情報を頼りに戦略を考えました。
――キュレーターの方からは、どのような情報をもらって戦略を立てたんですか?
井下田さん:キュレーターの方から一般的に、プロジェクト開始時が1番支援が多く、その後推移を伸ばしながら、最後の1~2週間で加速するということを教えてもらいました。そこで、まずはプロジェクト開始前から応援を募りました。
――なるほど。プロジェクト開始後はどのような意識で動いていましたか?
井下田さん:プロジェクトが開始してからは、募集期間中にどれだけ認知を増やしていけるかということを意識して、活動しました。
――実践に基づくアドバイスはありがたいですね。支援はどのように推移していったんでしょうか?
井下田さん:やはりプロジェクト開始時が1番多くの支援が集まりました。ただ、そのあと思うように支援額が伸びなくて。募集期間が半分を過ぎて、まだ目標金額の3割ほどしか集まらなかったので、かなり焦りました。
――スタート時が順調だと余計に、そう感じるかもしれませんね。
井下田さん:支援を募って拡散することで、多くの人に応援されます。一方で「失敗した」というレッテルを貼られてしまう怖さも強く感じていました。
仲間がいたから辛い時期を乗り越えられた
――モチベーションを切らさずに、その時期を乗り越えられた要因は何だったんでしょうか。
井下田さん:チームのみんなと連携を取りながら、目標をしっかり見定めて活動できたのが、大きな要因ですね。みんなの前で、自分の情けない姿を見せられないと思えたのも、よかったのかもしれません。
――同じ志の仲間がいると、心強いですね。その後はいかがでしたか?
井下田さん:その後は、支援が急激に伸びていって、目標金額を達成しました。結果的に、キュレーターの方が言っていた、一般的な成功までのセオリー通りの流れになったのかなと思います。
――支援していただいたことに対して、どのように感じましたか。
井下田さん:これだけの方に支援をしていただいたので、どんな苦労をしても途中で投げ出したりせずしっかり形にしていかなければと思っています。
――クラウドファンディングから1年ほど経過していますが、今の具体的な活動を教えてください。
井下田さん:クラウドファンディング挑戦時に立てた戦略をいざ実践しようとすると、色々と障壁が出てきたこともあったので、改めて戦略を練り直したり、実証実験を繰り返しています。フードロス問題は社会課題なので、農林水産省の方との打合せをするなど、国と連携することなども同時に進めています。
――へえ、すごい。どんどん発展していってるんですね!
井下田さん:支援していただいてからサービス開始まで、想定より時間がかかっています。リターンを届けるのが遅れて申し訳ないのですが、その分、充実したサービスを届けられるようメンバーと一緒に頑張っています。
フードロスを出さない仕組みをつくるために
――これからのビジョンはありますか?
井下田さん:今回は、フードロス削減をテーマにしていましたが、最終的に目指すのはフードロスが発生しない仕組みをつくることです。今回のプロジェクトはそのための入口だと思っています。
――フードロスが発生しない仕組みをつくるために、何か具体的に考えていることはありますか?
井下田さん:食べきれなかった食べ物をお店にフィードバックする仕組みをつくりたいと思っています。お店が食べきれない食べ物を把握すれば、素材の一部を変えたり、最初からお客が食べきれる量で提供したりできるので、フードロスが発生しにくくなるはずです。
――たしかに。そんなことは考えたことがなかった……。
井下田さん:現在はお店が提供する食事の量や素材を決めています。今後情報化が進めば、一人ひとりがおいしく食べられる適正量の把握や、苦手な食材の有無をお店にフィードバックすることは可能だと思うんです。
――本当にフードロスが発生しない社会になるといいですね。
井下田さん:フードロスがなくなれば、おいしく食事を楽しめるし、健康的に寿命を伸ばせます。食は人生に直接関わる分野です。何十年先になるかわかりませんが、少しでも関われたら嬉しいですね。
――最後に、これからクラウドファンディングに挑戦したい人へ、メッセージをお願いします。
井下田さん:迷わず挑戦するといいと思います。挑戦自体には、何もリスクはないので。進めながら何が必要か考え、どんどん行動する。準備を完璧にやろうとして行動が遅れるのなら、まず始めることをおすすめします。
――まず「挑戦」ということですね。
井下田さん:もし失敗しても、挑戦しなければ得られないことがたくさんあるはずです。
――本日は貴重なお話をありがとうございました!
「やる」と決めて、一歩踏み出してみよう
日本には、今や世界共通言語でもある「MOTTAINAI(もったいない)」という言葉があります。
しかし、日常で食事を残すことに後ろめたさを感じる人は果たしてどれくらいいるでしょうか。
……少なくとも私自身は、気に留めたことすら無かったように思います。
身近にある問題に気づき、それを解決するための行動力と信頼できる仲間を持ちあわせた井下田さんにとって、クラウドファンディングの成功は、ある意味、必然だったのかもしれません。
もし今、あなたの目の前に成し遂げたい想いがあるのなら、まずは「やる」と決めることで、新しい景色が見えるのかもしれません。
まずは、一歩。踏み出してみてください。
執筆/佐藤由美子