「やりたいんだったら、やればいいじゃん。」スポみら主催・遠藤涼介さん
このマガジンではクラウドファンディングを成功させた方々に、プロジェクトへの情熱や人の心を動かせた理由をインタビューし、ご紹介しています。
今回ご紹介するのは、スポーツの未来を考えるイベント「スポーツの未来に僕たちができること」(スポみら)を新潟で開催するべく、クラウドファンディングに挑戦し、成功させた遠藤涼介(@ryosuke_endo)さん。
遠藤さんは新潟県在住で奥様と3人の子どもと暮らす、ごく普通の会社員です。
ある日、スポーツビジネス界のある大物とTwitterで繋がったことがきっかけとなり、ともにイベント開催まで走り抜けた、遠藤さんの夢のようなストーリー。
一見、華やかな印象すらあるこの物語の裏には、たくさんの苦労がありました。
遠藤さんが情熱を持って真摯に向き合った、クラウドファンディングのプロジェクトへの想いを見ていきましょう。
遠藤涼介さん / スポーツの未来に僕たちができること(スポみら)を主催。現在は株式会社シーエスレポーターズでコミュニケーションデザイン室 室長として活躍。個人でイベントの開催も手がける。 新潟市在住の3児のパパ。子供の頃からスポーツ、とくにサッカーが大好き。
はじまりはTwitterでの何気ないやり取りから
――そもそも「スポーツの未来に僕たちができること(以下、スポみら)」とは、どのようなものなのでしょうか?
遠藤さん:「スポみら」は日本スポーツビジネス界の先頭を走る方々をゲストに迎え、スポーツの未来を考えるイベントです。2018年9月、新潟県で開催しました。
――当日はどんな方が登壇されたのでしょうか?
遠藤さん:UEFAチャンピオンズリーグを運営する「T.E.A.M.MARKETING」にアジア人として初めて入った岡部恭英(@yasuokabe)さん、AR(拡張現実)を活用したテクノスポーツ「HADO」を世界に展開する「株式会社meleap」の福田浩士(@okomesan)さんをはじめ、計5名の新潟にゆかりのある方々を中心に登壇していただきました。
――「スポみら」の開催に至った経緯を教えてください。
遠藤さん:岡部恭英さんとTwitterで繋がったことがきっかけです。NewsPicksの記事から、Twitterで連動投稿した僕のツイートを岡部さんがいいねしてくれて。
――へー! ひとつの「いいね」から始まったんですね。
遠藤さん:そこから何気ないやりとりをしていたなかで、僕もスポーツの仕事をしていたことがあったので、新潟に来ていただけないかなというお話をしたんですよ。すると、快くオッケーをもらったので、話が進んで開催することになりました。
すぽみら当日の岡部さんと遠藤さん
――すごいスピード感ですね……! 岡部さんとは以前から面識があったんですか?
遠藤さん:ありませんでした。その時が初めてです。
このやりとりから始まった
――Twitterでの何気ない岡部さんとのやり取りがあったからこそ、スポみらは開催できたわけですね。岡部さんにはどんな印象を持たれていましたか?
遠藤さん:岡部さんの書かれているテキストやTwitterを読ませて頂いていたんですけど、気さくないい方なんですよね。実際にお会いした印象もそうなんですけど、素朴な方なんです。それがそのままTwitterの人格にも反映されていて、実際に絡んでみたらやっぱりいい人だったっていう印象なんですよね。
――印象通りの、話しやすい感じの方だったんですね。
遠藤さん:僕のTwitterの問いかけに対する反応も、すごくポジティブでした。「できない」とかっていうことよりも、どうやるのかっていうことを前提に考えてくださる方だなと。「そのためにはどうしたらいいだろうか」っていうところにすぐ発展したので。「仕事が速い人ってこういう人なんだな」って率直に思いましたね。
――遠藤さんご自身は「スポーツに関するイベントを新潟で開催したい」と以前から考えていたんですか?
遠藤さん:とくに思ってなかったというか……2、3年前には考えていたんですけど。所属していた組織のちょっとめんどくさい問題にぶち当たってしまって。頓挫したんですよ。
――組織特有のしがらみですね。
遠藤さん:「それならもう個人でやるしかないよな」って思ったことも関係していると思います。
――遠藤さんは過去に、スポーツトレーナーや学生への指導などさまざまなお仕事を経験されていると聞きました。色々な経験をしていると、個人で何かをする時に役に立ちそうなんですが、実際はどうですか?
遠藤さん:人脈が広がりました。分野を問わず、色々な方と接点を持てていたので、その点に関しては今回のプロジェクトにも生きていると思います。
――ということは、以前携わっていた仕事の方々とも、今回のプロジェクトでも関わりがあったんですか?
遠藤さん:そうですね。僕が専門学校の職員をやっていたときに、非常勤講師として来ていた福田拓哉(@takuya_fukuda)さんという方がいて。彼とは当時から繋がりがあったので、一緒に他数名のプロジェクトメンバーを募って、イベントの実施までこぎつけたんです。
ー過去の経験が生きているということですよね。
あえてクラウドファンディングを使う価値
――数名のプロジェクトメンバーとともにイベントを開催すると決まって、そこから「クラウドファンディングを活用しよう」と思ったのは、どのような経緯だったのですか?
遠藤さん:今回のイベント開催の一連の流れそのものが「面白いな」と思いまして。岡部さんとTwitterで繋がったことから始まった。もともとのきっかけが、なんとなく今っぽい感じじゃないですか。
――たしかにそうですね。
遠藤さん:全然スポーツと関係ないところにいた「遠藤」という人間が、スポーツ界の大物「岡部さん」とSNSで簡単に繋がって。そこからさらにネット上のやり取りだけじゃなくて実際のリアルな場に呼んで、イベントを開催するっていう流れ。
――その勢いを活用した、と。
遠藤さん:今回のストーリーを活かしてクラウドファンディングをやったら、ある程度盛り上がるだろうと思いました。それなりの資金も一定程度集まるんじゃないかなと。それで、クラウドファンディングを募集するにいたりました。
――クラウドファンディングというと「資金調達」に目が行きがちかと思うんですけど、それよりもまずは「話題性」が重要だったということですね。
遠藤さん:この「スポみら」開催のリターンは、イベントに対する参加券やWeb配信の視聴権を提供する形式でした。でも、ただそれだけが目的ならチケットサイトで十分だと思うんですよね。その方が手数料が低いですし。
――手数料は低い方がいいですもんね。
遠藤さん:でも僕は、クラウドファンディングサイトを利用することに、広告的価値を見出していたので、クラウドファンディングを選びました。
3サイト掲載を決意した理由は「利便性」
――今回のプロジェクトでは複数のサイトに掲載したということでしたね。
遠藤さん:はい。3サイトに掲載しました。
――3サイトに掲載すると、支援が分散されて目標金額が達成しにくいのではと感じます。1サイトにまとめた方が、達成しやすいんじゃないですか?
遠藤さん:おっしゃる通りです。サイトを選定するうえで、いろんなサイトにお話をうかがって3つに絞ったんですよ。ただ、決済に使えるクレジットカード会社が3つとも違ったりして。
――決済方法がネックだった?
遠藤さん:はい。現金(コンビニ払い)がだめだっていうサイトもあったりして。
――それは悩みますね。
遠藤さん:それぞれに一長一短があったので、コアメンバーのなかで話し合いを持ちました。そのときに「支援者の利便性を重視しよう」っていう話になったんです。
――支援者が決済しやすいサイトを使えるようにしたんですね。
遠藤さん:はい。3サイトから決済しやすいサイトを支援してくれるひとに選んでもらうかたちにしました。「利便性を提供しよう!」みたいな軽いノリ……いや、重たいノリみたいな感じになってしまって……(苦笑)
――やっぱり大変でしたか?
遠藤さん:「でもまあ、利便性は大切だな」と思ったので、3つに掲載をしましたけど……。管理はすごく大変でした。
――3倍の労力になりますもんね。
遠藤さん:きつかったですね……。
「目標金額140%達成」の3つの要因
――3サイトの掲載はご苦労が多かったということですけど、そんな中140%の達成はすごいですね! 成功の要因はどこにあると考えますか?
遠藤さん:まず「一発目だった」っていうのが一番の要因だと思っています。
――初めての開催は注目を集めますよね。
遠藤さん:「スポみら」は形を変えて「スポーツビジネスサミット」として各地で開催されているんです。これまで福岡、小樽、札幌、函館、東京、ベルギー、沖縄で開催されました。
――日本各地だけじゃなくて海外でも開催されているんですね!
遠藤さん:それぞれの地域の人たちが主催者になって、岡部さんと一緒にゲストを考えて開催するという流れになっているんです。
――なるほど!
遠藤さん:福岡と札幌で開催をしたときに、クラウドファンディングで支援を募ったんですが、少々苦戦してしまって。
――簡単にはいかなかった、と。
遠藤さん:はい。「一発目だった」ということが一つ目の成功の要因だと思っています。
――新しいことに挑戦するということが重要なのかもしれませんね。
遠藤さん:2つ目の要因は、有志に支援してもらったことです。
――有志というのは?
遠藤さん:コアメンバーの一人、福田拓哉さんのつながりからの有志が集まってくださったんです。5日間で100名も。
――え! 100名もですか!
遠藤さん:クラウドファンディングを成功に導くために、何をしたらいいかという部分を共有して。「もっとこうしたらいいんじゃないか」「もっとこういうところにアプローチした方がいいんじゃないか」という意見をたくさんいただけました。
――たくさんの人たちの支援があったんですね!
遠藤:3つ目の要因は、有志のメンバーを集めてくださった福田さんが、「NewsPicks」というサイトで連載を持っていて。そこで僕と岡部さんの出会いからこういうイベントが開催されるようになったという、イベント開催の経緯を記事にしてくれたんです。これが最終的な後押しとなりました。
実際の記事
クラウドファンディングは「信頼や信用を可視化するツール」
――遠藤さんのお話をうかがっていると、これまでの人との繋がりがもたらす影響の大きさを感じます。
遠藤さん:本当にそう思います。福田さんからの繋がりもそうですし。支援してくださった方の中には、過去の職歴で関わった方々もたくさんいらっしゃったので。
――遠藤さん自身が楽しいと思うこと、魅力的だと思うことを必死になって追いかけた結果、信頼や信用を獲得したからだと感じます。
遠藤さん:僕はクラウドファンディングを「信頼や信用を可視化するツール」だと思っているんです。
――信頼や信用を可視化するツール……。
遠藤さん:信頼や信用を得るには、嘘のない真実を発信することが大事だと思います。僕は「自分のやっていること」と「足りないこと」と「お願いしたいこと」を露呈させました。プロジェクト開始当初は苦戦したんですが、この時の数字も全部公開して「困ってます」と正直に発信したんです。
――隠さずに全て公開したんですね。
遠藤さん:その発信に伴って、コアメンバーの人達が支えてくれて、背中を押してくれて、仲間を募ってくれて。今考えれば、正直な発信が信頼や信用に繋がったんじゃないかと思っています。
――よくわからない人は信用しづらいですよね。いいことも悪いことも伝えていくと言いますか。
遠藤さん:そう思って、僕は今回のクラウドファンディングをきっかけにnoteを毎日書くようにしたんです。自分がどんな人間なのかということをわかってもらわないと、支援は集まらないと思うので。
なぜか新潟になかなか伝わらない発信……打開策は?
――クラウドファンディングが成功したことで、心境の変化はありましたか?
遠藤さん:「発信しなきゃ誰も見ないんだな」と感じました。ただ情報を出しただけでもだめだし、人任せにしてもだめだし。応援されるとか支援されるということが、そんなに簡単なことじゃないというのは改めて感じました。
――成功したことで、難しさを再認識したんですね。
遠藤さん:だから、自分の「できること」と「できないこと」は、ちゃんと把握するべきだなと実感しました。
ー今回のプロジェクトではたくさんの人たちに発信できましたよね!
遠藤さん:そうですね。ただ課題として、イベントに参加してくれた方が新潟県外の方が多かったんですよ。地元の方々にはどうやったら情報が届くのかさっぱりわからなかったんです。
――地元の人たちに向けてどのようなアプローチをしていたんですか?
遠藤さん:僕はずっと、自分で何かを発信する際には「新潟で」ということを口うるさいぐらいにわざと入れていたんです。それでも新潟県外の人達にしか届かなかったっていう印象です。
――そのような課題の部分は、現在の活動にどのように生かされているんですか?
遠藤さん:今回のイベント後も、スポーツや経済を軸にしたイベントを開催しているんですが、切り口をどんどん変えてやっています。もちろんゲストが魅力的だということも重要ですけど「遠藤がやるんだったら面白いだろう」というようなブランディングをできていないと難しいだろうなっていうのは思っています。
「スポみら」から繋がった「スポーツビジネスサミット」
――先ほどもお話に出てきた「スポーツビジネスサミット」について詳しく教えていただけますか?スポみらがスポーツビジネスサミットに形を変えて開催されているということなんでしょうか?
遠藤さん:実は僕もそのへんが曖昧で。スポーツビジネスサミットって、僕が付けた名称じゃないんですよ。
――違うんですか?
遠藤さん:スポーツビジネスサミットは、スポみらの翌日に福岡で開催されたのちに、日本各地やベルギーでも開催されています。ただこれは、岡部さんがそれぞれの開催地域の人たちとともに運営をして、岡部さん自身もゲスト出演をしているイベントなんです。
――岡部さんが主体のイベントなのか、遠藤さんが主体のイベントなのかという違いがあるんですね。
遠藤さん:僕が主催したスポみらは、岡部さんとの繋がりがきっかけでスタートしましたし、岡部さんと一緒に作り上げたものです。ただ、岡部さん頼りになってしまうと、僕に再現性がなくなりますし、何よりも次につながる人が出づらくなってしまう...…。
――「岡部さんありきにはしたくない」ということですね。スポーツビジネスサミットに遠藤さんは関わっていないんですか?
遠藤さん:関わっていません。ただ、一発目が僕が主催した「スポみら」だったので、そこから派生したと岡部さんも認識されていますし、それ以外の人達もそんなふうに言ってくださるんです。
イベントを通して参加者に伝えたいこと
――スポみらの影響力はすごいですね!
遠藤さん:スポみらへの参加をきっかけにして、自分でイベントを開催したという方や、それをきっかけに転職できたという方、スポーツ業界に就職することができたという方が何名かいらっしゃいます。
――参加者の人生にまで影響を与えているとは!
遠藤さん:イベントの最後に常々言っている言葉があるんです。
――どんな言葉ですか?
遠藤さん:これは、僕がイベントやクラウドファンディングで目指すことなんですけど「僕がやっているからあなたもやってくださいね」って言うようにしてるんですよ。「やるとかやらないとかって悩むよりも、やりたいんだったら、やればいいじゃん」と思うんです。
――まずは行動を起こさないと始まらないですよね。
遠藤さん:イベントをやる最大の理由は「僕がやりたいから」なんですよ。誰よりも僕自身が「こういうテーマで話を聞いてみたい」と思った人を選んでやってるんですね。自分自身が一番近い参加者だと思っています。
地方とスポーツの可能性とチャレンジすることの重要性
――これからの「地方 × スポーツ」の可能性について、遠藤さんはどのように考えていますか?
遠藤さん:その地域のスポーツという枠の中では「初めてやること」を継続してできるかどうかがすごく重要だと思っていて。「スポーツ」は初めてやることを凄くやりやすいと思ってるんです。
――スポーツはチャレンジしやすい、と。
遠藤さん:スポーツというものは言ってしまえばタダでもできるものなので。それをどうお金に変えていくのか、お金を回すようなビジネスにしていくのかというところでチャレンジするのが大事だと思っています。
――初めてのことにどんどんチャレンジすることが重要なんですね。
遠藤さん:どこの地域の話を聞いても、現状を守りたい人が多くて、初めてのことに忌避感があるのはよく聞く話なんですね。「初めてを乗り越える人」と「それを支えてくれる人」が必要だと思っています。この二人を産むために「スポーツ」という切り口は、すごく入りやすいと思ってます。
クラウドファンディングに挑戦する方へ向けて
――最後に、これからクラウドファンディングに挑戦する方に何かアドバイスをお願いします!
遠藤さん:「お願いとお礼をちゃんと言いましょう」ですね。とくにお礼を言えないのは致命的だと思っています。
――信頼や信用につながる部分ですよね。
遠藤さん:それから「やりたいこととできることのギャップをきちんと把握しましょう」ですね。
――今回のプロジェクトではギャップが大きかったと感じていますか?
遠藤さん:正直、僕の範疇は圧倒的に超えていました。結果的にいろんなところに波及して増幅していった印象があるので、結果的に僕の手には負えないことの方が多かったですね。
――やはり一人の力だけではなく、周りの人たちの力が必要不可欠なんですね。今回のプロジェクトでクラウドファンディングを活用してよかったと思いますか?
遠藤さん:活用してよかったです。ただ、次にまたやるとすれば、一つのサイトに絞りますけどね!(笑)
――本日は貴重なお話をありがとうございました!
「自分のやりたいこと」と真摯に向き合う重要性
Twitterのやりとりという日常のなかから生まれた今回のプロジェクト。
遠藤さん自身がやりたいこと、楽しいと思うことに真摯に向き合い、弱い部分もさらけ出しながら仲間とともに困難な壁に立ち向かっていくという強い意志を感じました。
自身が生まれ育った新潟から、スポーツを通して新たなチャレンジをしていく遠藤さんの言葉を聞くと、地方に住んでいることはデメリットではなく、むしろチャンスなのではないかとも思います。
「やるとかやらないとかって悩むよりも、やりたいんだったら、やればいいじゃん」
ぜひあなたも、チャレンジしてみてください。遠藤さんは、やっています。
執筆/伊勢良介