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「確かな分析に、感情を織り交ぜる。」出張バリスタ「what's!? coffee」柴田恭兵さん

このマガジンではクラウドファンディングを成功させた方々に、プロジェクトへの情熱や人の心を動かせた理由をインタビューし、ご紹介しています。

今回ご紹介するのは、出張バリスタ「what's!? coffee」のオーナーバリスタの柴田恭兵(@coffee_what)さん。

「コーヒーを通して聴覚障がい者の夢を応援する」というビジョンを掲げ、聴覚障がいを持つバリスタとして活躍しています。カバン一つで全国に出張し、コーヒーを淹れる活動をしていました。

この活動を更に広げるため、コーヒーの移動販売車を始めることにした柴田さんはクラウドファウンディングに挑戦。「自分の活動が世間からどれくらい必要とされているのか」を確かめるという目的もありました。

数ヵ月前から綿密に練られた作戦で、初日に目標金額の30%を達成、終了まで残り3日のところで100%を突破。終了時には、目標金額の113%となる796,000円の支援を集めました。

毎日更新されるその活動の報告で、スタッフ推薦のプロジェクトに選ばれるようになったとか。

マーケティング目線を持ち、とことんこだわった結果の行動量。柴田さんの目には何が映っていたのか、お話をうかがってきました。

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柴田恭兵さん / 出張コーヒースタンド、出張バリスタ「what's!? coffee」のオーナーバリスタ。生まれつきの感音性難聴、「誰もが夢を追いかけることができる社会を」をビジョンに障がい者支援や講演会などを開催。SCAE(ヨーロッパスペシャルティーコーヒー協会)のバリスタ資格所有。愛知県岡崎市在住。

コーヒーとの出会い

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――柴田さんの軸となっているコーヒーですが、出合いはいつ頃だったんでしょうか。

柴田さん:大学2年生ごろに、スペシャリティコーヒーと出会ったのがきっかけです。両親の影響で高校生のころからコーヒーを飲んでいたんですが、スペシャリティコーヒーがあまりに美味しくて。

――これまでのコーヒーと違いましたか?

柴田さん:はい。「こんなに美味しいコーヒーがあるんだ、今までのコーヒーとは全然違う。」と思いました。コーヒーの豆や淹れ方、提供にまでこだわったスペシャリティコーヒーと出会って、コーヒーに一歩踏み込みましたね。

――大学生のころだったんですね。

柴田さん:大学では保育士や幼稚園教諭の資格を取ったんですが、コーヒーが忘れられず、卒業後はレストランに就職しました。

――コーヒーなのに、レストランですか。

柴田さん:漠然と「将来カフェをやりたい」と思っていて、カフェで美味しいものを提供できたらいいな、と思ってレストランに就職しました。まあ、1年経たずに辞めてしまったんですけどね。

――やっぱりコーヒーがやりたかったんですね。

柴田さん:はい。それで、ヨーロッパ認定バリスタの資格を取得するためにイタリアへ行きました。「やっぱりコーヒーといえばイタリアだ」と思いまして。そこで勉強をしながら資格を取ったんですが、3カ月のビザだったので期間がギリギリでしたね。

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――「コーヒーといえばイタリア」というイメージはどこで形成されたんでしょうか?

柴田さん:「バリスタ」という漫画に憧れていました。日本人がイタリアのバールでバリスタをやるという内容なんですよ。イタリアはよかったです。フィレンツェの街並み、まるで映画やアニメに出てくるような街でしたから。

――日本に帰国してからは、どうやってキャリアを積んだんですか?

柴田さん:日本に帰国してからは、カフェやコーヒーショップで働きました。接客担当だったんですが、聴覚に障がいがあるので苦労しましたね。

――お客さんは聴覚障がいがあるなんて分かりませんもんね。

柴田さん:「耳が聞こえません」と書いたバッジを付けていたこともありましたよ。見てくれる人は少なかったですけど。そうやって、カフェでの接客をしたり、イタリアでコーヒーを学んだ経験のおかげで、新規オープンするカフェの立ち上げにも携わることができたんですよね。

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――そこからはもうコーヒー一直線ですか?

柴田さん:いえ、その後で介護系の仕事に就きました。リハビリやフィットネス系の施設を運営する会社です。最後は所長にまでなりましたよ。

――えっ。かなりコーヒーへの道が開けたところだと思ったんですが……。

柴田さん:ちょっとコーヒー業界を離れてみようと思って。一見、遠回りかと思われるかもしれませんが、このときの経験がすごく役に立っているんですよ。

――介護現場での経験が役に立っているんですか?

柴田さん:介護現場というよりビジネスの経験ですね。飲食店の場合、一般的にはBtoCじゃないですか。一般のお客さんに商品を提供したり、宣伝をしたり。

――介護現場もBtoCじゃないんですか?

柴田さん:いや、所長になると違ったんですよね。BtoBのスキルが必要だった。ビジネスのお付き合いばかりでした。

――なるほど。所長になってBtoBの世界を知ったわけですね。

柴田さん:会社を辞めて独立したあとで、本当に必要なのはBtoBの経験だったんです。企業相手に提案や交渉、宣伝など、BtoBの場面ばかりですよね。コーヒー業界を離れたことでBtoBの世界を知った経験はプラスだな、と思っています。

――BtoBの世界を知ることで、ビジネスセンスを磨けたというわけですね。

クラウドファンディングには「市場調査」の役割もある

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――資金集めにクラウドファンディングを選んだ理由は何だったのでしょうか?

柴田さん:僕の場合はただ資金を集めるだけというわけではなく「プレマーケティング」という目的も強かったですね。

――クラウドファンディングがプレマーケティングになるんですか?

柴田さん:クラウドファンディングは「僕のやりたい活動が世間からどれくらい必要とされているのか」を確かめる、市場調査のようなものにもなると思ったんです。どれだけ強い思いがあっても、ニーズがないと広がっていかないじゃないですか。自己満足で終わらせたくなかったので。

――クラウドファンディングの状況を見て、世間の反応を確かめていたんですね。

柴田さん:クラウドファンディングが成功したとしても、ニーズがないことをしていたら、集めたお金が無くなっていくだけですからね。

――今回のクラウドファンディングに向けた準備期間はどれぐらいのものだったんでしょうか。

柴田さん:プロジェクトを始める3か月前から入念に準備をしていました。

――なんと、3か月前から!! どんな準備をされていたんですか?

柴田さん:たとえば、クラウドファンディングの成功例や失敗例をひたすら研究する。具体的には、そのプロジェクトが用意しているリターンの数や価格帯はどんなものがあるか。その組み合わせ方は何通りあるだろうか。自分が求めている金額に支援してもらうには、どういう見せかたをしたらいいか。他の事例をひたすら研究し、自分の中で答えを導き出しました。

――なぜそこまで入念に準備ができたんですか?原動力は何だったんでしょうか。

柴田さん:成功させたいという想いが強かったからですね。

「開始5日以内に支援してください」と個別メッセージ

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――クラウドファンディングの告知はどのように行っていましたか?

柴田さん:プロジェクトをスタートさせる1か月前には告知を開始していました。スタート直前には、TwitterのDMなどで個別にメッセージを送り、支援のお願いをしました。しかも、可能であれば「開始5日以内に支援してください」とお願いしましたね。

――個別のメッセージや、開始5日以内の支援にこだわった理由は何でしょうか?

柴田さん:プロジェクト開始時には盛り上がりが大事なんです。だから、どんどん宣伝してアピールして、僕の活動を知ってもらう。知ってもらうだけじゃなく、「ぜひ支援してください」と本当の想いを伝えてきました。

――そこまでしっかりプッシュすることが大切なんですね。

柴田さん:黙っていたって、誰も助けてくれないので。おかげさまで開始初日で目標金額の30%まで到達することができました。

――周囲に想いを伝えるためには、自らたくさん行動することが大切なんですね。

柴田さん:そうなんですよ。当時は会社員だったので、平日の夜か土曜日、日曜日しか空いていません。とくにクラウドファンディング開催中の1か月は、イベントの予定がぎっしり。

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――休みなく走り回っていたわけですね。

柴田さん:自分でもイベントを主催し、数人でも集まってくださるところに自分から行く。そうやってとにかく宣伝、アピールをしていたんです。

――SNSの発信なども並行してやっていたんですか?

柴田さん:クラウドファンディング関連のツイートをしていました。コーヒーへの思い、支援の状況などを、回数を重ねて認知してもらえるように取り組みましたね。

――Twitter以外でも発信はされていましたか?

柴田さん:CAMPFIREの活動報告は毎日更新し、思いを書き綴っていました。その甲斐あってか、CAMPFIREスタッフさんのオススメプロジェクトに掲載されたんですよ。

――限られた時間の中で、SNSなどでの発信も、実際に人と会う直接的な行動もどちらも全力でされていたんですね……。

柴田さん:たくさんできることがあるので、とにかくやる、徹底的にやる、にこだわっていました。

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――発信するうえで気をつけていることはありますか。

柴田さん:「まずは吸収しなきゃ」とインプット量を増やしたんですよ。インプットを増やしたら、当然のようにアウトプットしたくなる。アウトプットしなきゃ、って思うようになって。

――なるほど。インプットをすると、アウトプット欲も出てくるんですね。

柴田さん:僕のアウトプット場所として、オンラインサロンを始めました。アウトプットしながら、またインプットしているんです。お店でのボトルキープのアイディアなんかもオンラインサロンから出てきて。

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――そういうアイディアが生まれやすい空間にもなっているわけですか。

柴田さん:「コーヒースタンドのスナック化って面白いよね」みたいな話の流れで自然に「だったらボトルキープでしょ」って。

――アウトプットするのって、パワーが必要な気がするんですけど、そのあたりはどうですか?

柴田さん:慣れないうちは大変ですが、誰かに聞いてもらうっていいことですよ。ただ、それがツイッターやインスタグラムだと興味のない人にまで届いてしまう。僕は純粋な気持ちでアウトプットをしたいので、僕へのファン度が高いオンラインサロンの場を使ったんです。

――なるほど。興味のある人へ確実に届ける。発信って、不特定多数のものだけじゃないんですね。

柴田さん:オンラインサロンで強制的にアウトプットしていたら、逆にインプットもしたくなる。自分の中が空っぽになっちゃいますから。それが良い習慣になってしまいました。

――情報発信するのが得意なんですね。

柴田さん:小さな頃から本を読んでいたので、文章を書くのは得意でしたよ。どうやったら相手の心に響く文章を書けるのか。そんなことばかり考えながら、告知文やクラウドファンディングの紹介文を書いていました。書くことは得意でも、昔はしゃべることが苦手で。

――えっ、本当ですか?

柴田さん:小学生のころは人と話せませんでした。場面緘黙症といって、僕の場合は家族以外と声を出して話すことができなかったんです。耳が聞こえないことと関係があるのか分からないんですが……。

――声は出したいけど、出てこないという感じになるんですか?

柴田さん:声を出そうとすると、喉のところで詰まってしまうんですよ。声が止まってしまって、言いたいことが言えなかったんです。

――今では普通にしゃべることができていますね。

柴田さん:中高生になると、ひとまず友人らとは会話ができるようになり、大学生、社会人と、色んな世界を見ることで人前でしゃべるのにも慣れてきて、今では講演会ができるほどになりましたね。

情熱を持った人が信用される

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――クラウドファンディングを通じ、柴田さんへの「信用」は変化しましたか?

柴田さん:信用は増えたと思っています。クラウドファンディングのおかげで、多くの方に僕が頑張っていることを後押ししてもらえている気がするんです。それは単純な資金援助では体験できないものですね。

――応援してもらえるというのはいいですね。

柴田さん:中には「次はいつクラウドファンディングするんですか? 支援したいので楽しみにしています」なんておっしゃって下さるお客様もいらっしゃるんですよ。

――そういう言葉をもらえるのは嬉しいでしょうね! どうすれば、そのような支援者に恵まれるのでしょうか。

柴田さん:クラウドファンディングは手軽にスタートできますけど、それが成功するかどうかは別なんですよ。クラウドファンディングがやりたいから、無理やりテーマを探す人も見受けられますね。器用に演じられるならそれでも成功するかもしれませんが、厳しいと思います。

――クラウドファンディングは、やりたいことを手助けする手段ですもんね。

柴田さん:僕はこれで成功しなければコーヒー活動を練り直そう、そう思って取り組んでいましたよ。自分の未来を賭けていました。

――なるほど、やりたいことへの情熱を持った人に信用が集まるということですね。

柴田さん:クラウドファンディングは、ゴールじゃなくてスタートなんです。僕が本気でやったらどれだけの人に響き、どれだけの人が僕を後押ししてくれるのか。僕は、それを知るツールとしてクラウドファンディングを使ったんです。

エネルギッシュな活動の根底にあるもの

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――柴田さんと話していて思ったんですが、とてもポジティブですよね。

柴田さん:ポジティブなように見られるんですけど、ネガティブな面もたっぷりありますよ。「今やっている移動販売だけじゃ生活できない、どうしよう」って。

――飲食店だとそういう不安はつきものですよね。

柴田さん:飲食店で働いていた経験から考えると、普通にやっても稼げないんです。家族経営のような小さな規模にするか、チェーン展開できるような大きな規模にするか。

――移動販売車だけでは厳しいということですか。

柴田さん:まあ、だからこそ自分を追い込めるんですけどね。

――しっかり儲けることも考えないといけませんもんね。

柴田さん:儲けは必要ですが、お客様とのやり取りは大切にしたい。回転率重視でお客様をさばくような売り方はしたくないですね。いろいろ考えた結果、別のところで稼ごうと決めました。副業というより、事業の柱をいくつも持っておくイメージです。

――なるほど。コーヒーだけで稼がなきゃいけないわけじゃないですもんね。

柴田さん:複数の柱を持って貪欲に。不安は尽きませんから。セミナーや講演会で県外に行ったときも、必ず3つは次の仕事をもらってこようと思って行動しています。

――ほんとにエネルギッシュですよね。

柴田さん:僕の活動の根底にあるのは「誰もが夢を追いかけられる社会を。」ということなんです。

――柴田さんの活動に勇気をもらえる方は多いんじゃないかと思います。

柴田さん:僕は補聴器を付けていれば会話ができるんですけど、そうじゃない人も多い。聾唖者の方と話をしていると、「聞こえない」という理由だけで、夢をあきらめてしまうこともあるんですね。僕は「誰でもやればできるんだよ」というメッセージを社会に発信していきたいと思っています。

――その想いがエネルギッシュな行動につながっているんですね。

柴田さん:行動力はクラウドファンディングでも大切ですよ。行動から伝わってくる「なんとかしてこのプロジェクトを成功させたい」「この夢を叶えたい」という気持ちが支援者を動かします。

――感情的なものも大切になってくるんですね。

柴田さん:ただ、それだけじゃダメというのも事実です。データ分析をして「このラインまでは頑張らないといけない」という具体的な目標をきちんと見つける。それでようやく、グサグサ刺さるプロジェクトになるんですよね。

――データ分析と熱い想い、両方大切なんですね。

柴田さん:確かな分析に、感情を織り交ぜる。それがポイントなのかもしれませんね。これからクラウドファンディングに挑戦してみようと思う方は、過去の事例を分析しながら、強い想いを発信するといいと思います。

――納得です。本日は貴重なお話をありがとうございました。

データ分析と感情を織り交ぜる重要性

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柴田さんは、回数を増やしながら、いろんな人、いろんな場所にアプローチしていました。データ分析だけでなく、感情を織り交ぜることがポイントなのかもしれません。

納得いくまで徹底的に突き詰める。行動の裏には分析で得た知見がある。

お客様には温かくハートフルに接客する姿を見せて下さった柴田さんは、人と話をすることが大好きで、気付いたら仲良くなっているとか。

自然と相手の感情を揺さぶる魅力があるのかもしれません。

今後は固定店舗のオープンや、コーヒー豆の販売などもされる予定だそうです。

取材させて頂いた次の週は、コーヒー農園の視察にドミニカ共和国へ行くとおっしゃっていました。

自身の経験や世間のニーズを見つめながら、自らをステップアップさせていく姿はカッコいいものですね。

とにかく調べて想いを込めてやりきる。これがカギだったように思います。クラウドファンディングに限らず、肝に銘じておきたい言葉でした。

執筆/スズキヒデノリ

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