うたの日にもぐる #2
この記事は御殿山みなみがうたの日に投稿された作品でそんなに評価されなかったけど個人的に好きな歌を引用していくものです。
よければ前の記事からご参照くださるとうれしいです。
さっそくですが、15首引かせていただきますね。敬称略はご了承ください。
ばあちゃんの開脚前転そうそこがドクロマークの使いどころだ(久哲/2017年4月21日「ドクロ」)
ブラックなようでいて、ドクロマークのなんと平和な使い方でしょう。不思議な気分になります。ばあちゃんの股間にドクロ、シュールなんですけどテレビ番組でもありそうで、いい展開の歌だと思います。
逆光の中にゆつくりとけてつてあああああ夢のやうな夢での別れ(しま・しましま/2016年1月3日「光」)
ニューウェーブぽいレトリックなんですが間延びした四句がとける様と夢をつなげてくれて、読むだけで感覚を追体験できるようです。幻想的な雰囲気にある別れがフィクションなのか記憶なのか、いずれにせよさみしい。
共感のうなずきを持ち上げるとき天井の隅に顔のような染み(長月優/2016年1月19日「感」)
おそらく心からの共感ではないのでしょう。そぞろなのでぼんやり天井を見てしまえる。そして見下ろされてるような顔の染みは話を合わせている自分を客観的に冷たく見ているようです。とても好きな歌だ。
書き順がめちゃくちゃだった先生を母は適当だと言ったけど(冬桜/2016年11月17日「順」)
とてもわかる。親には親の先生への評価があるんですけど、子にも子の評価がありますよね。先生とか友達とか、親が悪くいうと嫌になるあの気持ちを書き順から導くのすっごくいい歌だと思いました。
ひたすらにプラスチックの皿投げ合い割れないふたり確かめてみる(ひぞのゆうこ/2016年4月29日「割」)
割れない、という表現がプラスチック皿からふたりにかかっていくのに意外性があるなあと感じました。探り探りの関係性のようですが、近しい印象もあり、新婚あたりを想像した歌でした。
42.195キロ走る 君に1ミリも届かないけど(民生/2017年10月4日「キロ」)
これすごく好きだー。マラソンは孤独なスポーツでもちろん届かないんだけど距離の類想があって、フルマラソンなんだからかける想いも尋常じゃないはずで君に届くのを期待してしまう心があります。
「レジ袋ご利用ですか」に「はい」という後ろめたさは何なのだろう(岡桃代/2017年7月29日「袋」)
ほんとなんなんでしょうね。共感です。いつからか環境がだいじになりつつ、ちょっと窮屈な感じもある。これ、川柳として完成してるかもしれませんね。レジ袋ご利用ですかにはいという。
スーパーに流れるヒットチューンで踊る楽しいくらい泣きたいからさ(白川黴太/2017年10月19日「スーパー」)
これ、店舗用のメロディだけのやつを想像します。あの明るくもどこか物足りないやつ。下の句もだいぶ歪んでると思います。それがとてもしっくりきていて、ちょっとすごくないですかこの歌。
紐とほしそろへ置きたる枕もと運動靴も朝待ちけり(久保直輝/2016年11月29日「スニーカー」)
朝はあしたと読みます。枕元に置くスニーカーよくないですか!新品おろしたて、前日から紐通して、玄関じゃなくて枕元。夢を共有したいんですかね、視線は靴だけど主体の楽しみさがよく伝わります。
歪んでる性格にみな押しつけてとがった言葉を発砲するな(石勇斎/2017年3月22日「性格」)
これいい歌ですね。性格をキャラクタと見て、そういう人じゃないでしょと言いたそうな主体の声がします。相手を気遣ってるような歌だと思うんですよね。ストレートですっと覚えられるなあ。
もがけばしずむのでじっと浮いている泳げぬひとのありかたとして(ルナク/2016年8月26日「泳」)
最初の句またがりが不自然でそれがしずんでしまう感じにつながったのかなあ、いいなと思いました。下の句でこの姿勢がただの水泳のことを詠んでるんじゃなくて、色んなことに類推されてゆく思想だなと感じます。
夕立を少しも恨むこともなく激チャするキミ下着は透けて(木タロー/2017年7月20日「激」)
激チャという言い方に馴染みがなく調べたのですが自転車の爆走とのこと、この情景が個人的に好きというのは置いといていい歌だと思います。恨まずに激チャというのがまっすぐで、いい生き方だと感じるからです。
俺たちのヘモグロビンにストライキしろと促す般若心経(聖徳太子/2017年4月13日「麻痺」)
お題からするに座禅の苦しさを詠んでいるようですがすごい喩えですね。ヘモグロビンは酸素を運ぶ役割で、般若心経の空性につらなるところがある気がします。化学用語と宗教用語の並立が楽しい歌です。
廻し蹴りかましたつもりラッシュアワー改札を出て押忍と呟く(けら/2016年11月22日「キック」)
ラッシュアワーにもまれたけど切り抜けたぞって思いと廻し蹴りのフィットが好きです。動きとしては絶対やらないけどなんかわかる。そして対痴漢への歌としても読めると思います。ぎゅうぎゅう感がいいですね。
氷河期のような心のクレバスに「アイシテイル」は棲みついている(木蓮/2016年9月26日「カタカナ」)
言葉遊びが絶妙ですね。「アイス/愛す」だとダジャレ感満載なところをうまーい具合に詩的に表現できているなあと思います。棲みついているという言い回しは凍っている感じしなくて歌を前向きにしています。
ということで、今回も15首です。まだまだ続きます。では。
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