短歌誌「うたそら」第1号を読む①

上のURLから読みに行けます、千原こはぎさん編集・発行の短歌誌「うたそら」第1号を読んでいきます。8首連作を投稿できるシステム、インターネット上に新たな投稿プラットフォームができて嬉しいです。

読んでて面白かった歌になんか書いていきます。

何十も数えた羊を放り出しジッパー上げる寒空の下/相河東

普通に考えたら寒空の下で寝ようとはしないだろう。それ以外の目的で羊を数えていたのかもしれないけど、この人は「寒空の下」まで「羊」持って行ったんだな、と読むとおもしろかった。「放り出す」やりかたとつながりそうな動きの「ジッパー上げる」も楽しい。上に飛ぶ羊。

心に生えたマンドラゴラを抜いたとき心は叫び声をあげて死に、体はそれを聞いて死ぬ/尼崎武

しぶとい。死んでるけどしぶとい。短歌的な部分は終わってるけどまだしゃべってる。でも丁寧に死んでる。大破調ってなんでするんだろうってところあるけど、もう終わってるけど平然と続ける、みたいな顔、できるんだなーと思った。死ぬし。

ときどきは窓辺に猫がいる家を左に曲がって行くスギ薬局/天野うずめ

「スギ薬局」行くのは、「ときどき」じゃないんだろうな、が、「スギ薬局」だからなんかわかっていて、この人がこの道を通ってスギ薬局に行くまでのその何回もを同時再生してくれたような気がする。あと、スギ薬局から帰ってくるときのこともなんかわかる。

湯が流れシチューの汚れが落ちて行く銀色の鍋の持ち手は黒くて/石川順一

なんだろう、こういう鍋ってまず鍋の中にお湯をためてからザーッと流すイメージがあって、そういう丁寧さで読めた。そうじゃないかもしれないけど。でもこの「湯→シチュー」の順番ってけっこういい感じの気づきだなー、持ち手が黒いのは変色なのか材質が違うのか、でも言いたくなる。

きみが見るバイ・セクシャルは人類をみな平等に愛しうる者/魚住蓮奈

あ、僕もこの「きみ」側じゃないか、みたいにハッとさせられた。バイセクシャルって対象が「広い」と勝手に思っちゃうんだけど、まあ生物学上はそうなんだろうけど、「愛」って「好み」だよね? っていうのを忘れてたなこういうとき、みたいな。

金までを書いて戸惑うひとへ鳴る小さな鈴と角ばった鈴/江口美由紀

わからんがわかる!となった。漢字の残りの部分どうだったっけ?ってなるのはよくあって、そのとき頭にあるのはその漢字の概念。じゃあ「鈴」の字でそうなったらこうなるんじゃ?という感じ。そのときの漢字のカクカクした感じが概念の鈴に出るのがおもしろい。

信号を渡ったとこのコンビニは帰りは渡る前のコンビニ/岡本雄矢

なーにを当たり前のことを、って思うんだけど、「帰り」は「渡った後のコンビニ」とも把握することはできて、それはしなかった、その「コンビニ」に一番近いときを選んでちゃんと言いましたよ、の感じがよかった。ちゃんとコンビニを触ってる気がした。

荷ほどきをしてない箱が3つあり 殴り書かれている承・転・結/尾崎ゆうこ

この歌の「おもしろ」は、この人の手柄じゃないのかもしれないけど、めちゃくちゃ面白かった。そんなことある? 「殴り書かれている」が、荷詰め後にバーっと書いた感じ。でもそんな人が開ける順番意識して詰めるかな。そういうギャップが面白い。


やばいこの短歌誌長すぎる。もうちょっといけそうだけど最後まで読み切るのは無理そうだからいったん切ります。うん、何回かに分けよう。


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