短歌連作サークル誌「あみもの 第三十二号」を読む
例によって、毎月参加している「あみもの」から、個人的に気になった歌を引いていこうと思う。
ねえ僕は他人と他人が仲悪くなっていくのがとっても怖い/窪田悠希
単純にこのことに心から共感したというのもあるんだけど、「ねえ」の呼びかけは「他人」にしかできないかな、と思うと、特定はできない誰かに呼びかける、すごく弱い釘刺しのような印象があって、これはこれで一つのアクションなのかもしれないな、って思った。
丁寧にラ行を口にするひとのソフトクリーム見てる夏木立/茉城そう
連想したのは、ら抜き言葉を言わないひと。「られ」ってちゃんと言いそうな感じの人。舐める擬音って「れろ」のことが多くて、そういうひとのラ行が目立ってると、なんだろうな、音が文字になって舐める感じが分かってきちゃう。相聞感情があるなら、官能っぽさも覚える。
和楽器でアレンジされた「宙船」が流れる長い商店街、かよ……/小俵鱚太
「かよ……」に全力で乗れてしまう。商店街って原曲でかかることより、スーパー的なところでかかるインストゥルメンタルアレンジなことが多くて、それなら「わかる」デチューンなんだけども、和楽器でやる? の、もうそれは「かよ……」としか言えないな、みたいな感じ。
窓のないエレベーターで垂直に落ちたなら死ぬ高さまですぐ/くろだたけし
読み方は色々かもだけど、エレベーターで上昇していったらそういう高さまですぐだよ、という方向で読んだ。そのエレベーターが落ちるかもな、ってことを考えさせられるし、そのエレベーターにわざわざ「窓のない」って書いてあるところが怖くなってくる。乗ったら考えそう。
結局は別れを選ぶ君がゐてハンバーガーのパンの乾きぬ/蒼音
なんだろうな。こういう別れと残された食べ物の取り合わせって短歌としてはよくあるのかもしれないけど、「ハンバーガーのパン」っていう、この要素感が絶妙なんじゃないかって思う。こういう心理状態じゃなかったらこのパンを独立してパンだと意識することはないんじゃない、っていう。
別れ際くれた昆布の佃煮はたしかにうまい昆布の佃煮/戸似田一郎
「たしかにうまい」が、別れ際もらったときに「うまいよ」って言ってもらったんだろうな、って思える。それは書いてないからこちらで補うしかなくて、そういうのが歌の奥行きなんだろうなって思う。で、結論、うまかったんだなあ、っていうのがしっかり読者に伝わっている。
おそらくはこちらを向いてほほえんだ女性のポスターだろうけど闇/工藤吉生
「おそらく」なのにディテールが結構こまかい。しかも結局「闇」だから、ほんとにわかんないはずなのだ。だから、よく通る場所なのか、視覚面以外でそういう推測の立つ前提を思わせる。その辺が面白いし、この人はこの闇に見られている感覚なんだろうな、というのが怖くなってくる。
アパートを昇ってるのに深海の底にいる夏、そのふくらはぎ/青海ふゆ
「昇ってる」がやたらと実景で、そこに「のに」が逆接でついて、「深海の底にいる」が怖すぎかよと思う。そして注目するふくらはぎ。連想するのは海にいる多数の手、引きずりこもうとするような。階段という身近なところにも感じてしまうこういう感じ。連作でも目立っていた。
合成じゃなきゃありえないからタクシーの運転が合成だってわかった/平出奔
そうなんだけど、みたいな。この順番だっけ。この順番なのだ。おかしい→合成じゃなきゃありえない→合成だ、なんだけど、普通この二番目はノータイムで過ぎて、おかしい→合成だ、になっている。そこを強調してすくいあげられたから、変な感じになっちゃう。
評価にはきっと反映されなくてアメトーーク!が始まっている/藤村内向
なんか、この人の中で「あめとおおく」なんだな、っていうのにうれしくなっちゃった。仕事で無駄に遅くなってるのに評価されるわけでもない、見られたはずのバラエティ、歌としてしっかり成り立ってるとは思うんだけども、どんなに暗くても、「あめとおおく!」って言わなきゃいけない歌。
ひと月で10キロ痩せるサプリにも効果は個人差があると知る/モカブレンド
そうだよねー。10キロもやせるんなら、個人差とか言わず普通にみんなやせるよね、と思ってしまった。ダイエットサプリ系は眉唾物が多いので、あるあるなんだけど、ひとくくりに「怪しい」と思ってた「効果には個人差があります」に、グレードがあるよな、ということに気づかされた。
こんな感じかなー。容赦なく好みで引いてるので、読み返したら自分の嗜好がしっかり出てそう。
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