うたの日にもぐる #1
ウェブサイト「うたの日」。毎日100人以上の参加者が集うネット歌会。
わたしも末席ながら頑張らせていただいていますが、やはり好評は得たいもの。日々詠みに全力を尽くすんですが、自信があるときでも評価が芳しくないこともしばしば。
しかしこういうことは、他の方の作品を見てても思います。あれこの歌好きなのにぜんぜんだめな結果じゃないか、みたいな。
けれど、それは仕方のないことです。どうしても一首あたりに割ける時間は限られております。
だからこそ、もぐるのが楽しい。ということで、いろんな歌人さまの投稿作を読みまして、あんまり評価されてなかったけどこれはわたしが自信をもっていいぞと言える歌をご紹介していこうと思います。敬称略、お許しを。
母さんのママチャリだろう立ち漕ぎですれ違ってく小さいママが(街田青々/2017年5月7日「ママチャリ」)
母さんのママチャリってすごくよい言い回しですよね。自転車を買ってもらってないっぽい娘さんが立ち漕ぎでママチャリを漕いで行くさま、とても微笑ましいと思います。倒置がわかりにくかったのかしら。
この恋が天罰下るものならばすべて受けよう君の分まで(ことり/2017年8月2日「罰」)
執念を感じます。上の句でほのめかされる不倫的な横恋慕に、君の分まで罰を受けるという決意、想いの強さがあらわれていますし、ここまでいいといってるんだからいいよね?みたいなこわさも覚えてしまいます。
ニラかキャベツを切るためのフルーツオ・レの紙パック鋏でひらく(水沼朔太郎/2016年9月4日「切」)
三句の切れ目に中点が入る心地よさがよくないですか???と声を大にして言いたい。初句も似たような跨り方をしてるせいか爽快です。まな板じゃなくて紙パック使うのかとか、鋏でニラは切らないんだなとか、生活のこだわりが見えます。
伝説になるべき延長15回麦茶飲んでる場合じゃないね(いっくんママ/2017年3月22日「甲子園」)
あおきぼたんさんの前の筆名です。いいですよね。夏の甲子園っぽい。麦茶飲んでて問題ないんですけどわかります。なんか球児に感情移入しちゃうんですよね。こんなにのんびりしてていいのかみたいな。
若者よ処女童貞は捨てたあとちゃんと拾って帰ってほしい(なつお/2017年9月4日「捨」)
笑ってしまった。物理的には拾えないんだけど、心構えとして言われてる感じがすごくわかります。しかし捨てるという表現を使った時点で拾う気はたぶんなくて、この願いは聞き入れられないんだろうなあ。
「お互いに」未遂で済んだ関係を自殺のように「無事でよかった」(小池佑/2017年4月25日「未遂」)
一読してスッと入ってくるタイプの歌ではないかもしれません。無事でよかったという言葉はなにかを失わなくて済んだときの言い回しで、しかしこの歌において主体はなにかを得られなかったとも感じているのがとてもいいです。
憐れんで下さいますか いつの日も実らぬ恋をしてる私を(小澤ほのか/2017年8月22日「憐」)
主よ憐れみたまえの祈りを俗っぽい落とし方にしてるのがきれいだなあと思います。小澤さんがクリスチャンという背景を含めて鑑賞する歌かもしれません。実りとはキリスト教における大事な言葉ですし、なお思いが強まります。
朝早く「死ね死ね死ね死ねうわあああ」と叫んでいるのは蝉か、それとも(なぎさらさ/2017年8月3日「蝉」)
蝉の鳴き声、とくにシャシャシャシャというアレをこう落とし込んでくるかという驚きと、蝉がそう鳴いてるように聞こえるだけでは終わらない不穏さをもたらす歌だと思います。外に出たくなくなりますね。
積もらない雪はしらねえ ついてくるやつだけこいよby雪だるま(さはらや/2017年2月7日「積」)
自らを構成してくれる雪に向かっての偉そうさが面白いですよね。主体が雪だるまを見てそう言ってるように感じている歌と思いますが、きっと積もるか積もらないか微妙なときなんだろうなあと情景が広がります。
ツナマヨのツナはマグロでシーチキンと限らないって得意げなきみ(薊/2017年1月29日「ツナマヨ」)
こういう屁理屈が好きだー。主張がどうとかじゃなくてこんな会話がある関係がよいんですよね。相聞というよりは男子学生の冗談に見えます。マグロ、チキンを象徴的に読んでも面白いですね。
「ねぇ。しよう。」背中に向かって言ってみた セックスレスなのかもしれなくて(幸香/2017年10月17日「しよう」)
背徳感がつよめなんですがなんだろう、下の句がうまいんですよね。そうじゃなかったらどうすんだ、そこはそれ。という割り切りがあって、見切り発車感と確信めいた思いが混在している歌だと思いました。
メロンパン外側だけを食べたいと弟のため残して食べる(龍也/2017年5月13日「好きなパン」)
外側だけを残してあげるメロンパンってもう勝ちですよね。うわー家族思いだーってなっちゃいます。なんだろう、先に食べさせるんじゃなくて残すっていう行為がよくて、もうそれだけで短歌だなーって思います。
虹を作るために裸になったんだひかりをまとって飛びこむプール(シュンイチ/2016年7月30日「プール」)
情景がきらきらしてますねぇ。下の句は一般的な表現かもしれませんが虹を作るというのがいい。飛び込みのフォームがアーチ型のきれいなものを想起します。からだの感覚、うつくしさ、そういうのがしっかり伝わります。
こぼさないなみだのせいで滲んでる 大きな花火、サヨナラの声(かっちゃん/2016年8月10日「花火」)
上の句完璧ですね。三句切れで半角スペースが入ってるようなので、滲むのは花火だけでなく声にもかかっていると読みました。泣かないように我慢しているからこそ崩れすぎていないサヨナラだったのでしょう。
引っ越して家具と一緒に捨ててみる最寄り駅から5分の自分(といじま/2016年12月14日「最寄り駅」)
遠くなってしまった生活に慣れなきゃなあという思いをうまく表現できてると思うんですけどね。家具は古くなっただけかもしれませんが、なんとなく捨てざるを得ない感じもあって、どことなく不本意なのがいいです。
ということで15首引きました。まだまだ引く歌があるのですが、15首単位で区切っていこうと思います。つづく。
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