うたの日カルタ 冬の歌編
日々お世話になっているウェブサイト「うたの日」の膨大な投稿短歌データベースでよくあそんでいるのですが、ある日これでカルタをつくったら面白いなと思いました。
思ったのでやりました。今回の縛りとしては、一歌人一首、冬の歌(と、わたしが判断したもの)です。いい歌をたくさん発掘できたので是非ご覧になってください。
短歌/投稿者(敬称略)/投稿年月日(西暦は下二桁)、の形で引いていき、短評をいれます。
あるだけの色つかひきりまつしろになつた季節が冬なのだらう/計以/171121
一首目で冬を定義してもらいました。余事象的な冬のさみしい白、心震えますね。
石段をひ・ぽ・ぽ・た・ま・すと登りゆく君とゆっくり越えてゆく冬/西村湯呑/170205
どんな登り方なんだ。カバとゆっくりのイメージがとてもよく合う。初詣かな。
美しい不眠だったね雪の日の乗らない始発を眺めにいった/多田なの/170910
美しい…乗らない始発って言葉だけでもう歌として。外に出ざるをえなかった。
エロ本があってこの世はあたたかい裸でひかり待つ冬木立/WPP/180125
肌色面積の多いエロ本が捨てられている寒さと、エロ本の許された暖かい世界。
俺が俺に優しくなくてどうするの真冬の米はぬるま湯で研ぐ/西村曜/170508
研いじゃってください。ほんとは米に悪いけども。そんな俺なのですから。
駆けだせば冬の翼か少年の首にまだまだ長いマフラー/牛隆佑/141124
景の浮かびが秀逸すぎてもう。駆け出してふわっとするからこその翼。
切れかけの蛍光灯を変えられずそれすら冬のせいにしている/小宮子々/161219
すでに何か冬のせいにしていて、寒いからか何もしたくない感じがすごい。
クリスマス・イヴにそんなに光るなよ恋の天使が降りてくるだろ/たえなかすず/141224
そんなに光るなよ。恋の言い訳ってよりほんとに予想外な恋の音って感じ。
玄関に飾った花が造花だと気づいてしまう冬の紫陽花/加治小雨/170217
紫陽花は容易に造花と気づき、そしてだからあの花も、と。心の動きの繊細さ!
交番で借りたお金で終電に乗らずに冬の牛丼を食う/たばすこ/180102
終電乗りなよ。この「冬の」はずるすぎる。主体の奔放さに脱帽。
散歩から戻らぬといふ老人の貼り紙冬の雨に濡れをり/ヒヨワくん/150113
せつなさ。探していますといったってこんな冬のなかじゃあと残酷な現実。
就職もまともにできない俺ですがサンタの服はすっげえ似合う/金子りさ/161210
根拠のない明るさがいいなあ。アルバイトでサンタの服を着てる読みをしました。
透き通るスープに味のあるゆゑに臓腑のうちにほどけゆく冬/門脇篤史/151115
下の句が最高ですね。ほどかせるものが熱でなくて味というのもいいなあ。
生活は必ずおれを追いつめて死なせるだろう 薄く降る雪/かにたべーた/141214
切迫感と結句の未来予測的な重ね方にぞっとしてしまう。確固たる絶望。
そらんじる七草じゅんにおる指がひらかれてゆくすずなのところ/外川菊恵/170107
なんてところに目をつけたのだと降参してしまいました。ひらきの詩情たるや。
大根に隠し包丁入れながら傷つけながら春までは冬/ハナゾウ/161107
大根と耐えるような生活、結句がとてもうまく効いていると思います。冬長し。
昼食は各自で用意してくださいバナナと雪はおやつとします/ナタカ/160218
たのしい。自由を示す上の句にバナナルールがあって、自由な雪。うまい。
冷たさをたぐれば灯る電球と人差し指のどちらかが過去/水没/170919
暗がりから明かりになったときの、なにかを置いてきてしまったような感覚。
テレビでは金閣に雪が降りしきる銀閣もきっといま雪の中/遠木音/170128
雪映えはどうしても金閣にゆずってしまう。むしろ非地元感すらあっていい。
どうしても今年最初の木枯らしがあなたと僕の隙間に入る/久哲/171101
入っちゃうなら仕方ない。人間関係ってそんなものなのでは、いやでも。
南国で生まれた僕の目の前に難読漢字のような雪原/亀山真実/161008
比喩すばらしい。あんなにシンプルな雪原を難読といったときの脳内の混乱。
22時 こたつに食われている妻を引っ張りだして布団に食わす/大瀧万悠/180110
食わせる表現が面白いですよね。それ一発なんだけど支えが笑えます。
ぬくもりは彼にとっては敵だからたったひとりで立つ雪だるま/菊池優花/160120
溶けちゃうし。どこか現実の人を詠んでいるような広げ方ができていい。
熱湯を魔法瓶より出す時の心地よき音 真冬は近し/松木秀/141202
音がしますね。湯気も見える。真冬、これからもっと寒くなる感じ。
のつそりとわたしの窓にあらはれて日時計となる冬の黒猫/桔梗/161116
おだやかな景ですね。主体ものんびりしている様子。かげりのない影。
灰色のくじらの群れに占められた真冬の空がゆっくりうごく/松岡拓司/170219
雲をそう言われてしまうとそう見るしかありません。途端の圧倒です。
ひび割れてゐる冬空か蜘蛛の巣かどちらにしてもその下をゆく/紆夜曲雪/160515
そう、どちらにしてもゆかざるを得ません。ポジティブな暗さ。
冬銀座だれかのものになる前のすべての靴はわたくしを向く/中牧正太/170128
ただごと的で、買った人の向く方を向く前の靴の先取り、たのしいです。
閉鎖したテーマパークに冬が来て回転木馬に降り積もる雪/ひかがみひかる/171201
容易なイメージと冬特有のさみしさがびしっと決まっている歌ですね。
補聴器を外せばしづもる露天湯のまうへに冬の銀河の怒涛/太田宣子/171112
これはちょっと、パワー高すぎな歌じゃないですかね。すごすぎ。
真夜中に雪ふりはじめひきこもる兄がしずかに外へ出てゆく/ミルトン/160925
コンビニなのでしょうか。静かな中の音、観察する主体のやさしさ。
水ぬくむ日はまだ遠くぬか床の乳酸菌と冬を分け合う/静ジャック/170221
分け合う結句の作業してる感じがとても伝わります。ぬく、ぬかの音も。
睦月から仲違いするパパママのパジャマのボタンどっちもずれてる/わらび/180107
たがえているものの多さに笑ってしまいます。濁音半濁音がたのしい。
メリーメリーメリーあふれる街に眠るつぼみのようなお正月たち/nu_ko/171224
メリークリスマスじゃないのです。あちこち出すぎるから、メリー。いい!
森の香が鼻の奥へと刺さりゆく真冬に開ける素麺の箱/天野うずめ/150304
冬と素麺の取り合わせと嗅覚が刺すような冬の寒さを伝えてきます。
焼きついた閉店感謝の文字を背に紙飛行機は師走の空を/亜梨/151214
商売の冬、主体の立場も気になりつつ。やりきれなさと未来があります。
雪つもる街は無実の色をしてわたしをのせた列車を拒む/かざなぎりん/170124
電車が止まってしまったのを自罰的にとらえるほど、雪はきれいなのかも。
淀川で見かけた河童は皿の上たこ焼きのせて冷めるの待ってた/小川けいと/170425
冬、とみました。河童がたこ焼きを食べたがるんだもの。冬空に冷ませ。
来年に連れていけない過去たちの首輪をしぶしぶ外しておりぬ/鳥尾鮭介/171225
時期的に年末っぽさ。連れていけないのを決めさせられている感じがいい。
隣室の犬の寝息を聴きながら温いメールをする寒の夜/泉/170127
冬のよさとしての静けさが伝わりますし、温いメールというのも好き。
留守番のこたつあたたかひんやりとただぬぐわれるのを待つよだれ/御殿山みなみ/180211
ごめん「る」なかった!なので暫定でわたしが今日出しました。誰か詠んで差し替えて!
連日の残業帰りに天仰ぎやっとこの冬オリオン見たり/ふくろう/170225
なんだろ、「やっと」の恐ろしさです。なぜ今まで見られなかったんだろう。
六歳の冬に主になりました ああ夢の城、学習机/真香/160705
わかる!と共感の嵐。あれが来た時の王様感、かけがえがないですね。
わがままなくらいで丁度いいんだよ鍋をはみ出す蟹の足たち/しま・しましま/170201
蟹鍋ですね。うきうきしちゃう。はみ出るほどの蟹。そして人生。
いかがでしょう。一首あんまりよくないのがあるのはごめんなさいですがやってみてカルタのハードルを思い知った気がします。
けど楽しかったのでまたやります。次はなんのテーマにしようかな。
お手数ですが引用誤りありましたらお教え下さい。ありがとうございました。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?