要注意先と破綻懸念先
債務者区分で要注意先になるか、破綻懸念先になるか。
この差は大きい。債務者にとっても、金融機関にとっても、金融機関の担当者にとっても。敢えて付け加えるなら会計士(会計監査人)にとっても。
要注意先に踏みとどまれば、新規融資も受けられるし、金融機関も「味方」のポジションで支援してくれる。破綻懸念先になれば、原則として新規融資は受けられなくなる。
これは金融機関が冷たいわけではなくて、回収可能性に疑義があると知りながら融資すると背任(立派な犯罪)になりかねないという危ういゾーンに足を突っ込むことになるからだ。
金融機関としても、損失(貸倒引当金繰入額)は増やしたくないし、立ち直る見込みがあれば支援したいのは偽らざる本音。
で、どちらになるかを判断する重要なメルクマールが「実質債務超過か否か」「実質債務超過となった場合に、回復可能性があるか否か」の二つ。
実質債務超過かどうかは、債務者の貸借対照表をもとに不良資産や簿外負債を自己資本から控除していって、自己資本がプラスかマイナスかで判断する。
ちなみに、自己資本は資産から負債を差し引いた差額だ。
ざっくり言えば「手持ちの資産で必要な支払いができなければ実質債務超過」という感じ。
典型的には回収不能な(あるいは最初から架空の)売掛金、売れる見込みのない不良在庫(あるいは最初から影も形もない架空在庫)などが不良資産として控除される。
この不良資産の認定手法に、金融機関のレベル感の違いが如実に出てくる。
よく、大手銀行は逃げ足が速いとか、地元の信金/信組は苦しい時でも親身になって力(カネ)を貸してくれた、みたいなことを言う。それは基本的に事実で、そうなるにはちゃんと訳がある。
同じ財務諸表を見ても、大手金融機関の方が見方が厳しいので、すぐに実質債務超過と認定されてしまうのだ。
例えば、全く通常通りの取引を行っている取引先に対する売掛金でも、帝国データバンクの評点が悪いところは一律掛け目を入れる(例えば100万円の売掛金なら10%の10万円は不良とみなして90万円と評価する)ようなことをする。
信金などが同じことをすれば貸す先がなくなってしまうので、そんな乱暴なことはしない。大手金融機関が手を出さないような、信用リスクがちょっと高めな中小企業に高い金利で貸す、それが地域金融機関の生きる道、というわけだ。
だから、企業にとって、大手金融機関から融資を受けているということ自体が対外的な信用になる。借入先の推移を時系列でみていて、大手のシェアが低下していたら気を付けたほうがいいかもしれない。