"アイデアを応援する"立場から見る、発想のための心構え-「発想道場」第2回レポート-
「発想道場」は、クリエイティブの手前にある「発想」を探し、拾い、磨いていくことを目的とした、Loohcs高等学院(以下ルークス)で月に一度実施される連続授業のことです。主宰の佐藤さん・金山さんに加え、毎回ゲスト講師をお呼びし、ゲストの方の話から発想へのヒントとなるものを学びながら、ワークを通して実際にアウトプットをしていきます。
参加者は学校外からも募集しています。募集対象は、「アイデア」や「クリエイティブ」に興味があったり、普段の学校では受けられないような授業に興味のある高校生・大学生です。
「発想道場」第2回の今回は、ゲストにKDDI∞Labo長の中馬和彦さんをお呼びいたしました。
■講師紹介
KDDI株式会社 事業創造本部 ビジネスインキュベーション推進部長/KDDI∞Labo長KDDI(株)事業創造本部ビジネスインキュベーション推進部長として、ベンチャー支援プログラムやベンチャー投資ファンドKDDI Open Innovation Fundを統括。
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・KDDI∞Labo長
・経済産業省 J-Startup 推薦委員
・始動Next Innovator メンター
・ILS アドバイザリーボード
・クラスター株式会社 社外取締役
・スポーツ産業振興委員会 委員
今回の授業では、まず中馬さんから「発想のための心構え」となるべきもののお話をいただきました。
その後、前回の宿題であった「渋谷の街から見つけてきた『気になる』」を、学生全員がプレゼンし、フィードバックをいただきました。
ベンチャー投資家である中馬さんが、発想の見極めのために大事にしている心構えとは?
まず初めに、主宰の佐藤さんから、なぜ中馬さんをお呼びしたのかという思いが語られました。
「単なるアイデアだけでは社会は動かない。アイデアが形になって、世に出てきて、それでやっと社会が動く。アイデアを形にして世に出すって、お金も労力もかかる。そこに投資をするのが、ベンチャー投資家という中馬さんの仕事。つまり、『アイデアを応援する人』としての、中馬さんの考え方に触れてほしい」
“発想する人”を仮にアイデアマンと呼ぶなら、中馬さんは「アイデアマンと出会い、アイデアの良し悪しを吟味する人」です。そんな中馬さんの考えは、発想する側が自身でアイデアを吟味する際にも必要なエッセンスとなります。
さて、世にはたくさんの新しい事業がありますが、実際に投資できる会社の数は限られています。では中馬さんは、たくさんの会社からどのように投資先を決めるのでしょうか?
「能動的に受動的になる、ということを僕は意識しています」
中馬さんは言います。
「先入観というフィルターをOFFにして全ての打席に立つんです。来たものを拒まず、連絡をいただいたら100%会ってみます。先入観で選り好みしてしまっては、良い発想の芽は見つけられない」
「能動的に受動的になる」とは、つまり意識的・意図的にすべてをいったん受け入れてみる、ということです。それにより、経験値が積み重なっていきます。この経験こそが、特に今の時代においては、よりよい発想に開かれていく心構えになると中馬さんは語りました。
「『朝令暮改』って四字熟語がありますよね。朝に命令を出して夕方それを変える、つまり方針がころころ変わる、良くない意味で使われてきた言葉です。でも、今の時代は逆なんです。そうあるべきなんですよ。だって、夕方の方が情報はアップデートされるんですから。そんな先の読めない時代だからこそ、先入観なき経験値の積み重ねによって、まだ見ぬ新しい発想に自由に開かれていくことが重要なんです」
発想の土壌となる、「豊かな人生」を送るためには?
変化のスピードがあまりにも早く、あらゆるスキルがAIにとって代わられていく中で、これからの時代に必要なのはIQや偏差値ではなく、当人にとっての豊かな人生だと中馬さんは述べます。当人にとって豊かな人生を送れているということが、よりよい発想に開かれるための前提条件なのです。
さて、「豊かな人生」とはどのような生き方のことを指しているのでしょうか。これには、佐藤さん・金山さん・中馬さんそれぞれから回答が出されました。
佐藤さんは、「クレイジーであること」。かつて、「クレイジーな人」は阻害されていましたが、いまはむしろ評価されやすい時代だと述べました。やりたいことやってる人が魅力的に見える時代であるわけです。
金山さんは、「自分が信じられるものを持っていること」。みんなが信じているものに流されてるときは、なんとなく自分の中に「これじゃない」感じがする、何かを自分だけが信じられるものを持っているときが豊かな感じがする、と述べました。
2人の発言を受けて、中馬さんは「人の尺度ではなく、自分の尺度で生きていること」とまとめました。
「自分の尺度で生きるということは、何かに固執するということです。けれど、時代が変化したときに、もしかしたらそれは手放すべきものかもしれない。だから、『固執はしよう、でも軽やかに手放そう』と言いたい」
“アウフヘーベン”的でいよう、そこにイノベーションのヒントがある
「能動的に受動的になる」「固執はしよう、でも軽やかに手放そう」というワードを拾いながら、佐藤さんと金山さんは“アウフヘーベン”的あり方の重要性を説きました。
アウフヘーベンとは、ドイツ語の「aufheben」(「上へ持ち上げる、拾い上げる」の意味)を語源とした言葉で、2つのまったく違う正反対のものを合わせ、より高度な次元へ引き上げることです。佐藤さんはこの言葉を非常に気に入っているらしく、楽しげに語ってくれました。
「たとえば、真面目に遊べ、とかそういうこと。矛盾する価値観の中にこそ可能性がある。イノベーションのヒントがそこにある。『正反対のこと言われたって困るよ!』と思うかもしれないけれど、それらを統合できたら何かが見えてくる。そんな発想をぜひ大事にしてください」
矛盾する価値観の中にこそ、イノベーションのヒントがある。この言葉を受けて、学生たちは「能動的に受動的になる」「固執はしよう、でも軽やかに手放そう」ということが改めて腑に落ち、難しそうだとは感じつつも納得していた様子でした。
学生たちが渋谷の街の中から見つけた「おもしろい、気になる」
授業の後半は、前回宿題として出されていた渋谷の「おもしろい、気になる」をプレゼンする時間です。学生それぞれが街で気になったものを写真におさめ、その写真を投影しながらどこがどのようにおもしろいと感じたのか・気になったのかを発表しました。
一例は、たとえばこんなもの。
渋谷駅の窓口に設置されているアルコールの近くに出されたポップ。駅ならではの発想が垣間見えます。
講師陣は「これは発想がおもしろいね」と感心しつつも、「こういうタイプのものは『狙ってます!』って感じが見えるので、実は好き嫌いが分かれたりもする」という意見も聞かれました。
また、こちらは学生が「下を向いていたら見つけた」というもの。
不意に現れた鳥居らしきものに学生は驚いたようです。
これは、「犬が電柱におしっこをしないように」ということが起源だそう。
佐藤さんからは、「普通は何かを探そうと思うと目線を上げがちだけれど、下の方に着目したのがいいね」とコメントをいただきました。
最後にこちら。
多くの人が見たことのあるであろう建物ですが、学生は「廊下を見せて”映えさせる”建築はなかなかないので惹かれた」と独自の観点で発表してくれました。
中馬さん曰く、「渋谷って、実は多くの場所を切り取ってみると首都圏の他の街とさして変わらないんですよ。なのでこういう風に、これは渋谷でしか見られない!ってものが増えると、それによってその街らしさができていくんです」とコメントをいただきました。
講師のお三方は、学生たちの時折言葉がたどたどしくなるプレゼンの1つ1つに熱心に耳を傾け、フィードバックをしてくださりました。
「大事なのは、自分の『気になる!』に前のめりであることです。だから発表の中で、『上手く言葉にできないんですけど、私にしかおもしろくないかもしれないんですけど』と言っていた子がいたけれど、それでいい。むしろ自分にとってだけおもしろいものを熱を持って語ってもらえる方が、印象には強く残りました。そういう姿勢をこれからも大事にしてください」
そう佐藤さんは締めくくりました。
初のゲスト講師の登壇や、学生個々人の宿題の発表などもあって、第1回とはまた違った、刺激的でありつつもアットホームな、充実した学びの時間となりました。
(執筆:Loohcs高等学院教員 内野)
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次回の発想道場は、7/12(月) 14:40-16:20です。
高校生・大学生の一般参加者を募集していますので、Loohcs高等学院ウェブサイトからお申し込みください。
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