誕生日の妹に現金を渡してよかったと思った
友人宅から帰宅して即シャワーを浴びる。お湯で戻されて復活する即身仏の気分。
我々は朝までこんなバカ(世の人はこれをバカと呼び、我々はこれを“企画”と呼ぶ)をする。
晩に焼肉をたらふく食べた。ここまではよし。
その後『ねるねるねるね』をモンスターのエナジードリンクで作って練って食べた。甘味料の怪物が気絶して吹いた泡のような味がした。しかも色と質感はシェービングクリーム。
過去には闇鍋もしたし、ランダムな材料を組み合わせてパンケーキも焼いた。どれもゲロみたいにマズかった。多分、調理過程で不完全なゲロを作ってしまったんだと思う。
その日は妹の誕生日だった。(ということを思い出し、)さすがに誕生日にはちゃんとお祝いしないと気がとがめるので、土井善晴の料理番組を観ながら半分寝てた友人の上田君に「ほなまた」と別れを告げ、ほぼ始発で帰った。
ねるねるねるねのモンスターを相手して、満身創痍な私は電車を降りて、駅から家まで歩いた。
家に着くなりシャワーを浴びた。
しばらくうつらうつらしてると、妹が起きてきてバイトへ行った。誕生日の日もバイトは欠かさず入れる。お金を数えるのが趣味。妹はそういうやつである。
13時に妹が帰ってきた。
私は現金1万円を妹に渡した。「財布がほしい、靴がほしい」となんやかんやぶつくさ言ってた(のを聞いてた)が、結局は現ナマをプレゼントするに至った。
高校生の欲しいものなど検討もつかないし、もし欲しいものを具体的に提示されても「えぇーなにそれぇー」とケチをつけちゃう可能性があるから。
前日に合意を得た約束の現ナマ。
リビングにお菓子が詰まったでっけー袋があったので「これどうしたん?」と聞くと、どうやら0時(誕生日ちょうど)に友達何人かがわざわざ原付で家まで来て、服やら財布やら化粧品やら盛りだくさんのお菓子やらを渡しにきてたらしい。
その友達は妹がどこかで助けた鶴か亀なのだろうか。恩を返しにきたのだろうか。原付で。
その日の妹はもらった服を着て写真を撮って、化粧品やお菓子の写真も念入りに撮って、インスタグラムに投稿する写真と文言をずーっと考えて過ごしていた。
その翌週。友達の誕生日が近いらしく、プレゼントを何人かで割り勘して用意することになったらしい。
よくわからんけど高価そうな化粧品やカバン、なんかキラキラした小物。
自分がもらった分の額を換算して、それ以下にならないように、大幅に上回って相手に気を使わせないように気をつけ、神経質になりながらプレゼントを選ぶ。
メッセージの内容をしばらく考える。写真データを集めてアルバムや誕生日用の動画を作る。
一期一会の精神、此処に在り。
親友、BFF、ズッ友、いつメン。素晴らしい絆を「素晴らしい絆だ」と言ってしまったり、仲間意識をそれこそ「意識」しすぎると維持に努めなければいけない責任感のようなものが生まれてしまう気がして、私なら疲弊してしまうな。
なんだかまったくわからないけれど、そういうコミュニケーションや礼儀(儀礼?)を「しなければならない」文化を持つ付き合い方や人間関係もあるのだなと思った。
遊びに誘われてあまり断ると仲間内での心証が悪くなってしまうとか、お金と手間と時間をかなり費やして誕生日は祝わないとダメだとか、祝われた側はしっかりと感謝と喜びを“投稿”しないとダメだとか。
家の中での妹は小学校低学年の男子児童がバカウケするような下ネタでバカウケするし、FPSゲームをよくするし、その時は映画の『チャーリーとチョコレート工場』に出てくるゲーマーの少年ばりに荒ぶる。
家の中での陽気さを外には微塵も出さない。あるいは出せないのか。それは本人の領域なので知る由もない。
ハイリターンなのは結構だがハイリスクにもなりうる友達付き合いは疲れるだろうなと思う。
もらった財布が正直好みのデザインでなくても使わないといけない、少しでも無愛想な対応をすれば悪く言われる、喧嘩や衝突は絶対に避けなければいけない。
妹はアホほどしゃべる。家で黙ってる時間の方が確実に短い。はっきりと寝言も言う。外でストレスなことがあると帰宅してからしばらく怒ってる。寝言でもたまに怒ってる。
なかなか不自由な環境に身を置いたものだと少し気の毒に感じる。
私からすればそんな環境は修羅の道だ。地獄坂だ。
こちとら誕生日プレゼントに大学のコンビニのジュースと駄菓子(スコールと50円くらいのチョコケーキ)で「わーやったー!」とかやってたんだぞ。誕生日の昼飯に定食をおごってあげただけで割と感謝されてたんだぞ。
人間関係で悩んだこともたしかにあったけど、私はある程度自由な環境で気ままにやってたんだと気づかされる。
とりあえず下手に靴や財布をプレゼントしなくてよかったと思ってる。
自分からの1万円が好みのデザインの財布や靴にあてられるのか、はたまた人間関係維持費にあてられるのかはわからんが、そう思った。
まぁそこそこ自由に使えばいいでしょう。
という理屈で来年もまた現金が手渡されることになるでしょう。
そして私もう社会人になっちゃったからお年玉も難癖つけて結構取られるな。最悪だ。
「まったく、やれやれだよ」