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10年ほど前に、小津安二郎が野田高梧と小津映画の脚本を書いたという茅ヶ崎市にある茅ヶ崎館に泊まった。

”東京物語”のビデオをたまたま借りてきて以来、どうも”東京物語”に現れてくる、戦後、家族のつながりが細くなった様子の描写に心が動いた。
尾道から長男・長女を東京に送り出し、子供・孫の成長を楽しみに夫婦が上京。
今の映画やドラマのように、時々見る人を刺激するような、トピックスがあるわけではないのだが、淡々と、静かに進行する画面の中の会話、表情に、人間の情趣の壊れていく姿を見ることになり、人間の奥底の心情もゆすられた。
噓っぽい美しい表現もないから、余計にリアルだ。・・・もちろん、尾道も3回ほど行った。

この茅ヶ崎館の庭から、昔は相模湾が見えたんだろう。
小さなロビーに小津についての本が置いてあった。小津安二郎のアイコンのような、被っていた白いピケ帽も置いてある。
2番という、庭全体が見渡せる部屋で、こもって脚本を書いていたようだ。
1番の部屋に家族で泊まったが、床柱が黒柿だった。こういう銘木は扱ったことがないけれど、黒柿は非常に珍重されているという。柿の木は、普通、材は薄桃色で黒い色彩はないのだけれど。滅多に出てこないという。
田舎の旧家の解体時、欄間に」使われた黒柿の板を2枚ほど頂いたものだ。



ドイツ人の映画監督、ヴィム・ベンダース(パリ、テキサス/(ベルリン天使の詩、などで有名。)が”東京画”で小津の作品の製作スタッフについても取材、1980年代前半の東京の風景も描写されている。

小津を尊敬しているであろう、彼の作品も、小津も、映画が静謐に思えてくる。(効果音やらセリフがあっても)

日常に潜む感情の起伏、そのパルスが低いがゆえに却って、心が動かされる。




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