悲しい樹
「綺麗ね…でも、かわいそう…」
彼女はそう言って淋しそうに目を落とした。
朝もやに佇んでいたその樹は、枝葉の至る所で、小枝がボール状にまとまっていて、まるでボンボンのようになっていた。それは何かの巣のようにもみえた。
宿り木だった。私はこんな木を見たことがなかったから、何となくそういう植生の樹なのだろうと思っていた。
だけどそれは違っていた。
「この樹はね、病気なのよ。」彼女の思いがけない言葉に私は驚いた。
「こんな風にね、宿った丸い枝葉が大きくなって、そして元の木はやがて枯れて死んでしまうの。」
そう言うと、彼女はそれからしばらく何も喋らなかった。
雲に遮られた薄い朝日が、大地をほのかに照らし始めた。