ヤマトナデシコパンツ
「はははっ!遂に完成したぞ! 穿くだけで男性ホルモンを支配し、どんな厳つい男でも奥床しい大和撫子に変化させるspecialパンティ! その名も『ヤマトナデシコパンツ』!」
「アホかあああぁああっ! ちょ、せんせー、珍しく真面目に研究しとると思ったら何やっとんねん!何やらかしてくれとんねん! あのさぁ。オレな、この研究所に来て1年やけどな。ここ数日の間、初めて安心しててん。ついにせんせーがその無駄に素晴らしい脳みそを人類のために使ってくれとんやなって、ついに本気出さはったんやなって……。それが何やねん『ヤマトナデシコパンツ』って! そんなんせんせー、オカマバーのナナコちゃんに穿かせて落としたいだけやないか!」
『先生』と呼ばれた男は、バッと顔を伏せた。
「ナナナ、ナナコちゃんだって? そ、そんなことはないよ。助手君は変な事を言うなあ」
「誤魔化しなや! 設計図を見る限り、このサイズ、ナナコちゃんにぴったりやんけ!こんなデカパン、ナナコちゃんしか穿かれへんわ。他に穿けるとしたら中年の外人のでっかいオッサンくらいちゃうんか! ちょっと実物見せてみ、その持っとる袋やろ!」
「馬鹿なことを言うんじゃないよ!ナナコちゃんとオッサンを一緒にするなんて、失礼じゃないか! あっ やめなさい、あっ」
『助手』と呼ばれた男は、先生の手からピンク色の紙袋を奪い取り、中を見た。
「ん? ちょっとせんせー、これパンツ?」
「え?」
先生は怪訝な顔で紙袋を覗き込み、叫んだ。
「ああっ! ナナコちゃんのパンツが!」
紙袋の中にあったのは、ハート柄のパンツ…ではなく、和菓子。漂うカカオ臭に国際化の工夫を感じる、高級感溢れる一品だった。
「せんせー。これ、どっかで間違ったんとちゃいます? 今日はどこ行ってきたんすか?」
「今日は、知人に会いに帝国ホテルに寄ってから、ここに来たんだよ」
「ふむ、帝国ホテル……って、帝国ホテル!?」
助手が驚いたのも無理はない。何故って今日は令和元年6月29日。大阪はG20サミット真っ只中なのだ。
「トランプのとこやん。凄い警備されとったんちゃうん……よぉそんなとこ入れましたね」
「知人の名前を言ったら入れてくれたよ。そういえば、ロビーのトイレにこれと似た紙袋を持った人がいたね。面白かったから二つ並べて置いてみたんだ。そっくりだったよ」
助手ははぁ、とため息をついた。
「完全にそこで入れ違ってますやん。つかせんせー、これヤバいって。この和菓子、トランプへ渡す奴やん。絶対そうやん。渡す人が気ぃ付いたらええけど、下手しぃせんせーの発明がトランプに渡って、トランプが大和撫子になってまうやん! そんなんなったらどーすんの。奥床しいトランプとかどーすんの」
「難しいなぁ。七並べとかかな?」
「トランプ違いやーっ!」
助手は肩で息をしながら先生を睨んだ。
「行くで」
「そうだね! パンツを救いに!」
「パンツはどうでもええねん!トランプや!」
―そして二人は、先生の知人の肩書を乱用し、帝国ホテルに潜り込んだ。すると、目の前をトランプその人が通っていくではないか。
「ヤバい。トランプや。ほんまにトランプのとこに来てしもた。せんせーどないしょ…」
助手は引きつった顔で壁に貼り付いている。対照的に、先生は落ちついたものだった。
「大丈夫だよ。僕に任せてくれ」
そして先生は、SPの警戒の視線をものともせず、トランプの前に進み出た。そして、
「ぎぶみー ゆあ ぱんてぃ」
「…What?」
「Give me your panty」
「Oh…………」
時が止まった。SPすら、驚愕の表情を浮かべて凍り付いた。先生はニコニコ顔で両手を差し出している。いち早く正気に戻ったのは、先生の奇行に慣れた、助手であった。
「す、すいません! 失礼しました!」
そう叫んで、先生を引きずっていった。
「JAPANESE HENTAI ?」
その時トランプは、小さく呟いていた。らしい。
5分後。助手が先生に激怒していると、男性が走ってきた。彼を見た先生が叫んだ。
「あーっ! ナナコちゃんのパンツ!」
男性は、トイレで紙袋を取り違えた張本人だった。間違いには気付いていなかったが…例の戦慄の一瞬、助手が手にしていた紙袋を見、念のために中身を確認したのだ。
高級和菓子がハート柄のパンツに変わっていたときの、彼の受けた衝撃は計り知れない。
だが、気づいたからには話が早い。紙袋はもう一度入れ替えられ、全てがあるべき場所に収まった。だが、以来トランプは、日本人男性を怖がるようになったということだ。
※この物語はフィクションであり、
実在の人物や団体とは全く関係ありません
(念のため)