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私の心の中のその場所
私の心の一部は、詩や、小説や、舞台や、絵画などで溢れるあの場所に落としてきてしまった。
私はその心を拾い上げることなく、そのままにおいておく。
時々、その心が震えて私を呼び、私はその世界に還っていく。
現実で私は地に足をつけて確かな道を歩んでいる。それもまた私の心が選んだもの。私の進むべき道。
それでも、ある雨の夜、またある木漏れ日の下で、私の心は震え私はあの場所に還っていく。
その場所はもう絶対に切り離せない私の一部。
暗く底の見えない澄んだ氷水で満たされた池があり、その岸辺はゆるゆると蠕動する生暖かい何かでできている。
手をかざしても指先のディテールすら見えない。視界は常に闇色のベールに包まれている。
聞こえるのは池にそそぐ川のせせらぎ、滝つぼに注ぎ砕ける水音、姿のない花々を散らす風の音。
そこには私一人しかいない。私の思考から生まれる虹色の泡がただ一つ、その場所で発光して色を散らすもの。