男性産科医と男性助産師
男性産科医が受け入れられているならば、男性助産師も受容されてしかるべきではないか?との意見がある。
しかし、両者にはかかわり方に大きな違いがあるのだ。
分娩時、医師は異常時の応急処置等の医療行為を行う。
こんなシーンを想像できるだろうか。場面は病室、妊婦さんの腰をさすっていた看護師が何かを見てはっと顔色を変え、急いで医者を呼びに走る…
このとき腰をさすっているのが助産師だ。助産師はお産の間に何度も様子を見に部屋を訪れる。時間が許す限り傍に付き添う。医師は呼ばれるまで来ない。異常が起こらなければ、生まれるぎりぎりにしか顔を出さないのが普通なのだ。このように、医師と助産師では産婦さんの傍にいる時間が全然違う。
分娩時、助産師は産婦に寄り添い、長時間にわたる介助・観察を行う。
必要なら腰をさすり、肛門部を抑えるマッサージをする。お産を進めるためのケアには、乳首をつまんで刺激をするというものもある。(きちんとした医学的根拠がある)産婦さんがトイレに行けない場合には、浣腸をしたり、管を使って尿をとることもある(導尿という)。生まれる直前には、会陰という肛門部と膣の間にある粘膜が切れないよう、ガーゼを当てて保護をする。このようなケアを行うのが助産師だ。
また、産後のお母さんに対し、おっぱいケアや悪露交換(巨大な生理ナプキンを助産師が交換すること)を行うのも助産師の仕事だ。
ここに、医師と助産師の仕事内容を並べてみる。
医師:診察、検査、帝王切開、会陰縫合、抜糸、今後の経過や治療について説明すること…
助産師:診察、検査、マッサージ、浣腸、導尿、会陰保護、おっぱいケア、ナプキン交換、相談にのること、育児や出産について教えること…
では、双方の仕事内容を男性が行った場合どう思うか、想像してもらいたい。女性なら自分がされたらどう思うか?男性なら、自分の妻や娘がされたらどう思うか?
医師の仕事内容を男性が行うのと、助産師の仕事内容を男性が行うのの違いが感じられるだろうか。
また、男性産婦人科医の内診(膣内に指を入れて行う検査のこと)時には必ず女性が付き添うことが原則となっている。が、現状病院勤務の助産師は夜勤を一人で行うことも多い。そうなると夜間のお産に対し内診も一人で行うこととなる。異常時、緊急時に対応する医師ですら一人での内診は行わないのに、正常分娩のみを取り扱う男性助産師に、一人で内診をさせてもよいだろうか? だが、助産師として働くなら一人で内診をすることになるだろう。なぜなら、女性は一人で行っている仕事だからだ。男性であるからできません、もう一人スタッフを増やしてください。なんて今の人手不足の医療現場では通らない話だ。
そして、そもそも男性産科医は受け入れられているのか? まだ女性の社会進出がなかったころ、医師と言えば男性で、当然産科医も男性であったため、女性に選択権がなかった。だから諦めるしかなかった。ということではないか。
現に今、女医がいるということを売りにする産婦人科が多い。アピールポイントとなるということは、世間が女医を求めているということだ。
そして、近年の産婦人科女医の急増がある。男女共同参画白書H25年度版によると、25~34歳の年齢階級において、女性産婦人科医の割合は60%を超える。今後の世代交代が進むにつれ、産婦人科医の男女比は逆転するだろう。この事実は、産婦人科領域でのケアは女性のほうが適しているということを示している。
これらの事実が示すものは、男性産科医は受け入れられていなかったということだ。つまり、男性産科医が受け入れられているならば、男性助産師も受容されてしかるべきではないか?との意見は通らないことになる。