Newjeans活動報告書「デビュー編」
韓国ガールグループNewjeansは2024年11月29日00時に所属事務所Adorとの専属契約を解除した。
これを一つの節目として2022年7月22日のデビューから2年と130日の歴史を振り返る。今回はデビューから韓国ファンミーティングまで。
概要
HYBEが設立したレーベルADOR(All Doors One Room)から2022年7月22日にデビューした5人組ガールグループである。Newjeansの名前の由来はジーンズのようにいつの時代でも愛される存在になる。「New genes」として新時代のアイコンになるという意味が含まれている。
プロデューサーは元々SMエンターテインメントで働いていたミンヒジン。
How Much Do You Know about Min Hee-jin?ミンヒジンのSM時代の作品について語っているインタビュー記事
Newjeansを理解するために非常に重要な記事なのでぜひ読んでいただきたい。https://magazine.beattitude.kr/ja/special-interview/artistproject-minheejin-part1-eng/
メンバー
キム・ミンジ
2004年生まれ
ハニ・パム 2004年生まれ
ダニエル・マーシュ(モ・ジヘ) 2005年生まれ
カン・ヘリン 2006年生まれ
イ・ヘイン 2008年生まれ
1st EP期
7月1日にAdorから新しいガールグループのコンテンツが7月22日に出されることが予告される。
Attention
Newjeansは2022年7月22日に1st EPタイトル曲「Attention」を公開した。
<MV>
iPhoneを活用したZ世代的な感性と90年代のガールグループの雰囲気を上手く融合しているMV。
ハニがヘリンに起こされていたり、ヘインがケーキを食べていたり、メンバーたちが暮らしている様子を3人称目線で一方的に観察するショットが多いが、急にミンジやハニが第四の壁を超えて画面を見つめるショットに驚かされる。これらのショットはかなり意識的かつ効果的に使われている。
ここで言えるのは”客体”(見せ物)として消費されるアイドルというのとこちらを見つめる”主体”としてのアイドルが共存していることだ。この視線の交差というのはアイドルと私たち消費者のコミュニケーションに他ならない。一方的なテレビ的コミュニケーションから相互的なSNS的コミュニケーションの移り変わりの時代においてNewjeansのようなグループが出てきたのは必然かもしれない。
〈人形から人間へ〉
フランスのヌーヴェルヴァーグ作品の一つ「5時から7時までのクレオ」はアニエス・ヴァルダ監督によって作られた映画である。
前半では主人公クレオを見る視点を中心に後半ではクレオが人々を見るPOVショットに視点が反転する。それまでの映画において見られる対象だった女性が見る"眼"(主体性)を獲得した映画だった。
Newjeansとクレオは見られる対象が主体性の獲得を獲得するという点で共通している。
また様々な面で90年代のアイドルグループたちとの類似が指摘されるが、Newjeansと共通している本質的な要素は彼らの若さ、飾り気のなさ、無邪気さである。
Hype Boy
翌日23日には2つ目のタイトル曲「Hype Boy」のMVが公開された。
<MV>
MVは複数公開されメンバーごとに違った視点のストーリーが存在している。2020年代の時代観が見事に視覚化されている。少女たちが恋愛をするドラマ風のMVは視聴者(特に若者)に親しみやすさを感じさせる。
作詞にはハニが参加。TiktokではHype Boyミームも誕生した。
ローリングストーン誌の2022年のベストソング100に選定された。
<曲>
弾けるスネアが夏らしさを感じさせる曲である。ハニはKBS pop<リムジンサービス>にてデビュー EPの収録曲と似た雰囲気の曲としてK-pop第一世代であるS.E.Sの「Just A Feeling」を参考にして練習を行なっていたと語っている。
KBS pop リムジンサービス1月17日
Hurt
7月25日に収録曲hurtのmvを公開。
<曲>
韓国語のR&B。全体的に中音域の柔らかい音が鳴っていて心地よい。
<MV>
メンバーの顔を超クローズアップで撮ったフェティッシュな映像が印象的である。
ミンヒジンが2013年に実弟と制作したf(x)のコンセプトフィルム。Hurtの表現と通ずるものを感じる。予算と作品の品質には相関がないことがわかる。
7月26日
weverseを使ってファンと交流するアーティストが多い中、Newjeansは独自のファンアプリPhoningをローンチした。このアプリでNewjeansはファンとのコミュニケーションを積極的に行っていた。”友達のような”親しみやすさ(対話性)はNewjeansにとって重要な要素である。
ミンヒジンBe attitudeインタビューにて
Cookie
8月1日に3曲目のタイトル曲「Cookie」のmvを公開。
<曲>
ユニークなシンセが特徴的なトラップ調の曲。英語圏ではクッキーの歌詞が性的な意味に解釈され一部非難された。その後、Adorはそのような意図はなかったと釈明している。
ニューヨークタイムズは「2022今年のベストソング」にCookieを選出した。
<MV>
スタジオと椅子を使ったダンスだけを見せるシンプルな映像。 EPの他の3曲で見せた自然体の姿ではなく、制服をゴープコア風に再解釈したような白と黒の衣装は機械的な印象を与える。
またこの日デビューEP<Newjeans>がデジタルリリースされた。
ステージ
8月4日にはMnetでNewjeansの初ステージパフォーマンスが放送された。
メンバーが談笑しているパートからダンスに入るのが印象的。彼女たちが何らかのコンセプトに自分を押し込めてパフォーマンスをしているのではなく、あくまで一人の人格として現実の延長線上でパフォーマンスしていることがわかる。この「本物らしさ」がNewjeansのアイデンティティである。
8月5日のKBS <music bank>
コーラス部分で長い髪を振り上げるアイコニックな振り付けが最高。スポーティーなスタイリングと若さを象徴する手足を大きく使うダンスが健康的。純粋で原初的な「楽しさ」を感じられる。
8月8日 1stEPの音盤が発売され初動30万枚を達成しK-popガールグループとして新記録を樹立。
8月11日から31日までThe Hyundai Seoulの地下2階でデビュー記念ポップアップストアをオープン
10月から12月
10月12日KCON 2022JAPANで日本初のステージを行う。
10月28日ハニがGUCCIのブランドアンバサダーに就任。
ファンダム
10月29日 デビュー100日を記念してファンダム名が「Bunnies」🐰に決定。
同日、ペンライト「ビンキー棒」のデザインが公開される
アワード
11月26日MMA(メロンミュージック・アワード)が開催されNewjeansは新人賞を受賞する。
11月30日にはMAMA(Mnet Asian Music Awards)でパフォーマンス賞と女性新人賞を受賞。ステージではリミックスされた楽曲でのソロパフォーマンスが印象的
パフォーマンスディレクション・振り付けはキム・ウンジュとBlack.Qが中心となって行われている。
Ditto・OMG期
12月12日ファーストシングル「OMG」の発売が1月7日と発表され予約が開始する。
12月13日日本で行われたAAA awardに出演。ニュージャックスウィング風のアレンジが印象的。
12月14日「Ditto」のmv Teaserが公開、監督はイルカ誘拐団のシン・ウソクである。
12月16日KBS歌謡祭に出演
Ditto
12月19日DittoのMVが公開される。
<MV>
SideA SideBの二篇構成になっている。色々な解釈の余地があるがNewjeansとファンの関係についてのストーリーだと言われている。MVビハインドからはこれが演技している姿ではなく彼女達の素のままの姿であることが分かるはずだ。MVと一緒に見ることで曲のイメージがより伝わってくる。
Hype Boyのようなティーンドラマの学生ではなく90年代韓国の高校を舞台にしている。振り付けは2022年verと1998年verの2つ存在している。
ファンダムを擬人化したバン・ヒスのPOVショットを用いることによってファンとNewjeansとの近い距離感を感じさせる。またビデオカメラを使った映像はノスタルジックな印象を与える効果を持っている。
<曲>
ジャージークラブのビートと洗練されたメロディーが調和している。高揚と郷愁を同時に感じられるような曲。
「after sun」シャーロット・ウェルズ監督 2022
主題と形式においてDittoとの同時代性を感じる作品。思春期の少女とメンタルヘルスを抱えた父の物語である。
この映画にもDitto同様ビデオカメラが使われる。監督はビデオカメラの役割についてインタビューでこのように語っている。
12月22日 Ban Heesoo(バンヒス)チャンネルに動画が投稿される。
バンヒスとはDittoのmvに出てくるnewjeansの友人であり撮影者の名前だ。発音的に近いことからバニーズ≒バンヒスとも解釈できる。ファンと純粋な「楽しさ」を共有するというコンセプトにおいてmvにおけるヒスの役割はバニーズそのものではないだろうか。ここでもまた”友達のような”親しさが表されている。
このチャンネルにはカムコーダーで撮られたホームビデオのような短い動画がいくつかアップされた。これらの動画を見ると彼女たちが本当に存在したのかと思ってしまうような「本物らしさ」がある。2023年12月19日で動画の更新が止まっている。
12月24日SBS歌謡大典に出演
Wonder Girls - Tell me FRNK Remix
12月30日へインがルイ・ヴィトンのブランドアンバサダーに就任。
2023年 卯年
OMG
1月2日にはOMGがリリースされる。MV監督はシン・ウソク
<曲>
Cookieの続編のような愉快なトラップR&B。808のベースと軽快なカウベルの音が特徴的な曲。途中でBPMが変わるのが面白い。キャッチーなサビがあるのでコマーシャル出演の際に使われることが多い。
<MV>
楽曲の可愛さとは裏腹に精神病をコンセプトにしたMV。可愛さと不気味さ、暗さと明るさが共存する世界観。
ハニが精神科で自分がiPhoneであることを告白する場面から始まる(衣装はスティーブ・ジョブズのオマージュ)iPhoneは利用者に奉仕するもの象徴として語られ、アイドルであるハニが自分を投影しているのだと考えられる。他のメンバーも自分が何者であるか忘れ、それぞれ違う人格になりきっている。
隠喩的な表現やメタ的な表現が多く韓国語圏のコメントでは新興宗教ダンワールドとハイブについての陰謀論的な解釈がされている。
エンターテイメントの「虚構性」が限界に達したこの時代においてアイドルという虚像は一部の人々にとっての娯楽でしかなくなった。マスメディアの中で蔓延するフェイクに敏感になった大衆にアプローチするにはその「虚構性」を感じさせないことが重要になる。「OMG」の批評的なメタ表現はアイドルの「虚構性」を逆手に取ることで嘘を本当にする力を持っている。(「推しの子」の主題もこのアイドルとメタの融合だと考えられ、その主題歌を担当するYOASOBIとの交流も不思議ではない)
<ダンス>
パーカッションがよく聞こえるバートとベースがよく聞こえるパートでダンスが対応するように変化するのが面白い。サビのテンポの下がる部分では安定感があり重心が低いダンスだが、"No I can never let him go"からのテンポが速くなる部分はステップ多く重心が高いダンスに変化する。
また衣装でも小さめのトップス、ボリュームのあるバギーパンツを着ることでサビの部分の重心低めのダンスが映えている。ハーフパンツの場合でも靴のボリュームでバランスを取っている。曲、コレオグラフィ、衣装などさまざまな要素の全体的なまとまりが考えられている。
1月から6月
OMGの大ヒットでNewjeansは不動の地位を獲得するとともに広告を通してメンバー1人1人がファッションアイコンとして影響力を強めていく。
広告
1月6日にダニエルがバーバリーのグローバルアンバサダーに就任。
1月8日Golden Disc Awardに出演
2月8日
ハニがアルマーニビューティーのグローバルフェイスに就任
2月14日ミンジがシャネルのアンバサダーに就任
2月27日マクドナルドのキャンペーンモデルに起用される。
3月3日ナイキAir maxの広告に起用される。
3月4日東京ガールズコレクションに出演
3月7日リーバイスのグローバルアンバサダー就任
3月30日オフィシャルファンクラブ「Bunnies Membership」がオープンする。
Zero
4月3日にZEROをリリース。コカコーラとのタイアップ曲。
5月17日ダニエルが吹き替えをした「リトルマーメイド」のOSTが配信される。
映画は韓国で24日公開
5月31日コークスタジオのグローバルタイトル曲Be Who You Areがリリース
JIDやジョン・バティステが参加
大手企業の広告ラッシュにより大衆の認知度が高まる
Bunnies Camp
7月1日と2日に初のファンミーティング「Bunnies Camp」が行われた。
最後に
デビューから約1年間、怒涛の勢いで成長した新人ガールグループNewjeans。成功の秘訣はその新しいアイドル像の確立にあるだろう。
第3世代ガールグループの筆頭であるtwiceとblackpink。この2組は80年代アイドル2大巨頭である松田聖子・中森明菜に似ている。一方は男性支持が厚く王道なアイドル像を守る。もう一方は女性の憧れの対象でステレオタイプなアイドル像を破る。しかし、アイドルである限り、そのどちらもステージでは虚像を演じている部分があるだろう(「虚構性」こそがアイドルの本質とも言える)。
一方、Newjeansはメンバーが10代であるという特権を生かして何かを演じなくとも等身大の彼女達のままでスターになることができた。時代が求める「本物らしさ」の追求と消費者との相互的コミュニケーション性による距離感の近さ(「親しみやすさ」)、またk-popの慣習を無視した作品の「新鮮さ」がNewjeansの成功の要因だと言える。
メンバーのミンジは「NewJeansについて自信を持って言えることは何ですか?」という質問にこのように答えている。
テレビというメディアと「虚構性」「偶像性」というのは密接な関係にある。
そのためテレビと共に成長をしてきたアイドルという大衆文化の変革がメディアの変化によって余儀なくされた。その変化にNewjeansは対応することができたのだ。
ミンヒジンはNewjeansがデビューする前のインタビューでヘーゲルの弁証法の例えを用いてこんなことを語っている。
ミンヒジンの考えは少女時代をプロデュースした時と変わっていないようだ。AttentionのMVを見ればわかるように、これまでのアイドル像(正)と普通の少女たち(反)の中間にいるのがNewjeans(合)なのである。その名の通り正と反を今までになかったバランスで融合したオルタナティブなグループと言えるだろう。そのためK-popファンダムだけではなくK-popに関心がなかった大衆の人気を獲得することができたのである。
次は2nd EP「Get Up」編