旧友と会った的な話

そいつとは中学では同じ部活だったが、高校以降は会うこともなく、成人式で数年振りに再開した。
成人式以降はまた会うこともなく数年が経過したが、そいつから突然連絡が飛んできた。
今から4年くらい前の話で、時期もちょうどこの頃だった。
そいつの名前は青山とでもしておこう。


「今さ、地元に帰って来てるんだけどドライブ行かねえか?」

当時の俺はSallyに入りたてくらいの時で、人生で1番フラフラしてる時期だったので時間をもて余していた。
まあ暇潰しにはなるかと誘いに乗ると、数十分後に青山が自宅のインターホンを鳴らした。


「ドライブつっても何処行くんだよ」
「海◯(海浜◯◯)あたりでも流すか?」
海◯という響きを数年振りに聴いた気がする。多分中学卒業以来だったかもしれない。
海浜◯◯を海◯と略した青山に、俺は一種のノスタルジーを感じ、俺達は海◯こと海浜◯◯をドライブすることにした。

県道xxx号線からxx号線に入る。
途端に潮風が容赦なく車体を揺らす。
ああ、そうだ。この道路は確かそうだったんだよな。
「…中坊の頃は、ここまでチャリで来たら結構来たなあと思ってた」
青山は叩き付ける潮風にハンドルを握り直すと呟いた。
「この潮風の中、どうやってチャリ漕いでたんだろうな?」
違えねえや。と青山は笑うと、ちょっと外の空気でも吸おうやと車を停めた。

俺はタバコを取り出し火をつける。
お前も吸うか?と青山に尋ねる。
俺は吸わないんだ、と青山。吸わねえならそれに越した事はねえなと俺は返すと煙を呑み込む。
塩っ辛え。と蒸せると、せっかくの潮風にタバコを吸うのが勿体無い気がして、火を揉み消すと手持ちの空き缶に投げ入れた。
潮風がベタついて体に纏わりつく。
字面だけみれば不快だろうが、俺にとっては懐かしさだけでなく愛おしさまである。

「この潮風にベタつきながら、冒険だとか言ってチャリ漕いでたよな」
「今度やるか?」
満更でもない表情の青山に俺は笑って首を振る。
体力的に厳しいという訳ではない。なんというか、俺達は大人になりすぎてしまった。
全く知らない土地ではなく地元近辺の土地で、ペダルを一踏みする毎に、自分を中心に放射状に世界が拡がっていったあの感覚はもう二度と味わえないんじゃないだろうか。
大人になり行動範囲が増えることで、この道が何処に繋がっているのかということを知ってしまった。
だから、あの感覚は地元しか知らねえガキに神様がくれたプレゼントのような物なんじゃねえかな、と俺は思っている。


車に再び戻ると、工業地帯が見てえな。と青山は車を転がし始めた。
ギラギラと煌めく工業地帯を横目に、俺達は他愛のない会話をしていた。
中学の答え合わせというか、要約すると思い出話だ。
だから、ここら辺は俺達の心にだけしまっておくべきだろうから割愛する。


「俺さあ、地方に転勤なんだよね」
唐突に青山が切り出した。
中学時代の答え合わせで忘れかけていたが、俺らは20代半ばの年齢だったんだと引き戻された。
「ずっとそっちで働く事になんのか?」
「どうなんだろうな。わかんねえや」
まあそりゃそうか。と俺が返すと束の間、沈黙が流れた。

お前は今なにやってるんだ?と青山が沈黙を破る。
「俺は最近バンドやってるわ」
「まじで?でもいいと思う」
「だろ?俺もそう思ってる」
「売れるまで続けるの?」
「死ぬまでかな」

別に俺は、俺には音楽しかない!と考えた事は無いし、どうせ人は死ぬんだからやりたいことをやればいいなんてシケた理由でバンドをやっている訳じゃない。
バンドマンという生き方が1番難易度が高そうだったから選んだだけだ。

その後は小腹が減ったんでどこかのファミレスに行った。
そこでもまた他愛のない会話をした。
思えば、中学時代はそこまで仲が良くなかったような気がする。
あの頃はお互いにガキだったから、お互いの距離感が解ってなかったんだろうなあ。
本当は俺達、中学の頃からもっとうまくやれてたんじゃねえかな。
でも、あの頃はあれで良かったんだよな、きっと。
そんなことを考えながら、深夜の喫煙所で今度は塩辛くないタバコをふかしていた。


結局、青山とはそれっきり会ってない。

その後も連絡を何度かして、会おうや。という話にはなったが、予定が噛み合わずに数年が経ってしまった。
あの時、あのタイミングで会えたのは神様のイタズラのような物だったのかもしれない。
だとすると、それはお互いの人生において意義のある物だったのかもしれない。だけど、それは誰にも解らない。
確実に言える事は、俺は未だにバンドを続けてる。
次に会う時があるなら、多分その時も続けているだろう。

深夜の喫煙所でタバコに火をつけると、時折そんなことを思い出す。

肺を湿らせ生温い夜を往く。



いいなと思ったら応援しよう!