【野心的な脳機能ハック、そのあさぼらけ】前頭前野のθ波同期によるワーキングメモリーの上昇と、それに伴う学習、意思決定、問題解決能力の上昇
Humm(2019年約3億円を調達)という企業がコーヒー一杯程度の価格で使用できる
https://thinkhumm.com/
「使用中と使用後90分ワーキングメモリーのパフォーマンスが最大20%上昇するウェアラブル」
の開発に勤しんでいる。
その方法とは
「短期記憶回路の一部である前頭前野の上の頭蓋(おでこのあたり)に緩やかな電気刺激を加えることで、記憶に最適な脳波状態にする」
ということだ。
ワーキングメモリーは手に入れた情報を手放すか、長期記憶に放り込む前に数秒〜数分の間、情報を保持or使用する脳機能のことだ。
コンピューターで説明すると長期記憶がハードドライブ、ワーキングメモリーがRAM。
短期記憶の能力が上昇するとどんなことが起きるだろう?
いいサイトのまとめがあったからコピペする。
抽象的には学習能力、注意能力、認知能力、推論、意思決定能力、マルチタスク能力の向上(一部意味が重なっているが)などが挙げられている。
最近、柔術の先生や仲間が増えたので、そこで例を挙げると、先生の見せた技の例の視覚情報の記憶の保持をしながら、自分の技に意識を当てることが出来やすくなるのではないか?同じ説明でデッサンも上手くなるかもしれない。
ワーキングメモリーが向上すると何か本を読んで学習するときも、知識の保持がしやすいので、保持した知識達を1段階抽象化して、1つの抽象化した知識に紐付けることが容易くなるだろう。
このワーキングメモリーを司る脳の部位だが簡略して言うと前頭前野-海馬回路(1)がメインで活動している。海馬と前頭前野がθ波で同期することは認知機能に特に重要と考えられている。
(脳波の補足。医師国家試験の際に暗記させられる。
α波 8~13Hz:安静、覚醒、閉眼状態で正常成人の頭頂部、後頭部で最も著明に見られ、心身ともにリラックスすれば脳波がアルファ波になり、集中力が増すとも言われる。
β波 13Hz 〜:ベータ波は通常の覚醒時の意識と関連づけられ、低振幅 で複数の変化する周波数のベータ波は能動的で活発な思考や心身の緊張状態と関連付けられる。
θ波 4 〜 8Hz:REM睡眠時、禅や 深い瞑想時にも現れるとされている。
δ波 1〜 3Hz:non REM睡眠時
実際脳波計が捉えられる脳細胞の活動範囲は極めて限定的であり、脳波調整からの脳機能ハックは砂上の楼閣感がまだ否めない(3)。しかし、脳波中にアルファ波、ベータ波、シータ波、デルタ波など、特定のリズムで力強く繰り返される信号が存在するということは、脳内の膨大な数の脳細胞が「協調」しながら同じリズムで活動していることを示唆しており、今後の研究で更なる脳の協調機能の解明が期待される。)
Hummのサービスはこの前頭前野の神経細胞達に目標周波数(θ波)での振動パワーを増加させ、ネットワーク活動を増強させると言う。
Hummのデバイスを利用すると、40人の健康な人間が平均して最大作業記憶容量が20%増加したとのことだ。本当ならば、すごい。
Hummが紹介している論文ではない、2022年2月の最新の論文(2)を参照すると、健常者へのワーキングメモリー増強効果は個人によって差がある、つまりまちまちのようだ。しょっぱい話である。しかし、高齢者など認知機能に障害がある人にはワーキングメモリーの向上が多数報告されており、それは素晴らしい。自分が老人になった時、老いて物忘れをする、ということは少なくなるかもしれない。
ワーキングメモリーを上昇されることが見込まれる生活習慣は、何にでもよく聞く話だが、運動習慣とよい食生活と瞑想だ。それは続けたい。
現時点ではデバイスを利用することに大きな期待はできないが、個人差で効果があるので機会があれば試してみるのは良いだろう。
しかしこのような取り組みは本当に野心的でロマンがある。
カンフーを一瞬で体得できる時代は近付きつつあるのではないか。
(1)https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20446454/
(2)https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8882605/
(3)脳波の謎:リズムとその存在理由 https://core.ac.uk/download/pdf/267851402.pdf
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