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SNSにおける詐欺的勧誘手口と闇バイト誘導の実態

1. マルチ商法への勧誘方法

一般的な手口: マッチングアプリやSNSでは、一見普通の投稿や出会いを装いながらマルチ商法(ネットワークビジネス)に勧誘するケースがあります。例えば、プロフィール上では単に友達募集や日常の投稿に見せかけておき、マッチした後に「副業の話がある」「ビジネス仲間を探している」と切り出す手口です。また、実際に会う段階になるとセミナーや集会へ誘導されることが多く、「ちょっと話を聞くだけ」「無料の勉強会がある」などと言って会場(オフィスやカフェの個室など)に連れ出し、営業をかけることがあります 。さらに、SNS上では成功談を装った投稿も典型的です。高級車や札束、海外旅行などの写真を投稿し、「このビジネスで成功して自由な生活を手に入れた」などとアピールすることで興味を引き、DMで勧誘してくるケースがあります 。

ターゲットの心理戦略: 勧誘者はターゲットの金銭欲や向上心を刺激する甘い言葉を巧みに使います。例えば「誰でも簡単に稼げる」「楽して収入を得られる」「時間と場所に縛られない自由な生活」といったフレーズで夢のような稼ぎ話を強調します 。プロフィールや会話で高収入ぶりを匂わせ、「あなたもこうなれる」と期待を持たせるのも手口のひとつです 。実際、海外旅行やブランド品に囲まれた私生活をアピールした女性と会ったら「あなたもこのような暮らしができる」「絶対儲かる」などと言われ、副業や投資・マルチ商法への契約を熱心に勧められたケースも報告されています 。このように「楽して稼げる」「必ず儲かる」といった謳い文句で相手の判断を鈍らせ、冷静な検討をさせない心理戦略が取られます 。

実際の被害事例: マッチングアプリ経由のマルチ商法勧誘による被害も多数報告されています。その一例として、名古屋市の訪問販売会社がマッチングアプリで知り合った相手を自社オフィスに誘い出し、1人あたり50万~150万円の自己啓発セミナー契約を結ばせていた事件があります 。2019年末以降、この手口に関する相談が全国の消費生活センターに89件寄せられ、違法勧誘による契約額は約1億円にも上りました 。被害者の大半は20~30代で、勧誘側は契約金を工面させるために消費者金融での借入れまで紹介し、結果的に借金を負わせていたとのことです 。また最近では、大学生に高額な情報商材入りタブレットやビジネススクール受講を借金させて契約させる悪質な例も発覚し、東京都は2023年に関与した業者3社と勧誘者に業務停止命令を出しています 。こうしたマルチ商法勧誘トラブルはマッチングアプリ上のトラブルの中でも特に件数が多く、ある調査では最も被害者が多いトラブルが「マルチ商法」だったと報告されています 。

2. 闇バイトへの誘導手口

SNSやマッチングアプリでの募集の特徴: 特殊詐欺の「受け子」や強盗など犯罪の実行役を集める闇バイトは、SNS上で巧妙に募集されています。典型的なのは「高収入」「即日即金」「誰でもできる」といった文句で、一見すると誰にでもできる簡単な高収入アルバイトに見せかけた投稿です 。例えば、「短時間で〇万円稼げます」「空いた時間でできる簡単バイト」など具体性に欠ける募集は要注意です。また昨今では手口が進化し、一見普通の求人広告を装う傾向も強まっています 。仕事内容を「コールセンターで台本通り話すだけ」のように具体的に書き、不安を抱かせない工夫が見られます 。報酬面でも、以前は誰もが怪しむような法外な高給を提示する例が多かったのが、最近では日給1万円程度など現実的な額で募集するケースも出てきています 。実際に「日給1万円程度なら怪しくない」と思って応募し、内容が特殊詐欺の受け子だと気づかず犯罪に加担してしまい逮捕された例もあります 。中には「上場企業の仕事です」「行政から許可を得ている作業です」などと権威づけをし、もっともらしく信頼させようとする募集も確認されています 。

初めは簡単なバイトを装い、違法行為へエスカレート: 闇バイトの勧誘は段階的に行われ、応募者を徐々に深みにはめていきます。募集時点では違法性を匂わせず、「荷物を受け取って届けるだけ」といった軽作業に見せかけることもあります。例えば、Twitter上で「お金に困っている」と書き込んだ人に「荷物を受け取るだけの仕事がある」と持ちかけ、実はそれが詐欺でだまし取った現金の受け渡し役(受け子)だったというケースがあります 。最初の指示は口座や荷物の受け取りなど比較的リスクが低く感じられる作業でも、一度関与してしまうと逃げられなくなる仕組みになっています。募集に応募すると犯罪グループから匿名性の高い連絡手段に誘導され、氏名・住所・身分証など個人情報の提供を求められます 。もし途中で「やはりやめたい」と断れば、渡した個人情報を盾に「逃げたら家に押しかける」「家族に危害を加える」などと脅迫される危険があります  。さらに中には「保証金」名目で金銭を預けさせ、逃亡しづらくする手口も報告されています  。このように、最初は普通のアルバイト感覚で始めさせ、徐々に犯罪行為へとエスカレートさせるのが闇バイトの典型的なパターンです。

被害者の証言や報道事例: 闇バイト勧誘に関する具体的な事例も多数明らかになっています。警察庁のまとめによれば、2023年に検挙された特殊詐欺の実行犯の約半数が「SNSからの応募」をきっかけに犯罪に関与したとされています 。実際の証言例としては、「Twitterで生活費に困っていると投稿したら、見知らぬアカウントから“大金を稼げる仕事がある”とDMが来た」 、「SNSで『仕事探し中』と書いたところ地元の先輩に誘われ、その先輩づてに暴力団関係者を紹介されてしまった」 といったケースがあります。また、SNS上で知り合った人から「高収入のアルバイトがある」と持ちかけられ、指定された仕事が明らかに怪しいため途中で不審に思って警察に相談し事なきを得た例もあります。ニュースでは、ごく普通の求人サイトに正規の求人のように偽装した闇バイトも報じられました 。ある若者は一般の求人サイトで見つけた求人に応募し、応募フォームで氏名・住所・電話番号だけでなく母親の氏名や連絡先まで入力させられました。その後のオンライン面接でも詳しい仕事内容は伝えられず「現場に来れば説明する」と言われ、不審に思って途中で警察に相談したところ闇バイト求人だった疑いが強まった例があります 。別の中高年男性のケースでは、人材派遣会社に登録していたところ突然見知らぬ番号から着信があり、折り返すと「袋を受け取って届ける仕事で手取り○万円」と電話で誘われました。不審に感じて元の派遣会社に確認したところ「そのような依頼はしていない」と判明し、闇バイトの勧誘電話だと気づいて警察に相談したという報道もあります 。このように、SNS上だけでなく一見安全そうな経路**(友人知人や通常の求人サイト)でも闇バイトに誘い込まれるケースがあるため注意が必要です。

3. 男性の好奇心をそそる投稿や写真の使用

誘導のために使われる写真やプロフィールの特徴: 詐欺勧誘を行うアカウントは、男性の興味を引くために視覚的な演出にも工夫を凝らしています。典型的なのは魅力的すぎるプロフィール写真です。マッチングアプリ詐欺を仕掛ける業者は、男性ウケする美男美女の写真を用いる傾向があり、特に女性の場合は露出度の高いセクシーな写真で気を惹こうとすることもあります 。Instagramでも、美容に気を遣ったモデルのような写真や、高級レストランでの食事風景など洗練されたイメージを前面に出し、「この人と関われたら楽しそう」と思わせる雰囲気を作ります。また、投稿内容でも男性の関心を誘導します。例えば、札束や高級車と写る写真、リゾート地でくつろぐ写真を載せて「毎日が充実しています」「経済的にも精神的にも自立しています」と匂わせる投稿は、その女性自身への興味だけでなく「どうやってそんな生活を?」という好奇心を男性に抱かせます 。さらに、「趣味:海外旅行」「毎日カフェ巡り」など自由で贅沢なライフスタイルをアピールするプロフィールも、男性に夢を見させる狙いがあります 。

どのようにターゲットを信用させるか: 写真や投稿で興味を引いた後は、ターゲットとのメッセージのやり取りや実際のデートを通じて信用を勝ち取る工作が行われます。詐欺目的の女性アカウントの場合、通常あり得ないほど積極的なアプローチをしてくることが特徴です 。本来、初対面の女性は警戒心があるものですが、詐欺師はそれを逆手に取り、男性を油断させるために自分から個室での会いや夜遅い時間のデートを提案してくることさえあります 。男性側は「自分に好意があるのかもしれない」「こんなに積極的なんて珍しい」と舞い上がり、相手を警戒しにくくなります。さらに、会話の中で恋愛感情があるように装うのも典型的な手口です 。例えばデート中に親しげにボディタッチをしたり、将来の話題を匂わせたりして男性に「特別な関係だ」と思い込ませます。そうすることで、後にビジネスの勧誘や高額商品の購入を迫られても、男性は「この人の頼みなら…」と断りづらくなる心理状態に追い込まれます 。この恋愛感情の擬似的な演出によって相手のガードを下げ、信頼させた上で経済的な要求を飲み込ませるのが狙いです。実際に、「男性が断り切れない状況を作る」ために女性側が巧みに恋人を演じ、ネットワークビジネスへの加入を承諾させた例もあるとされています 。

実際の詐欺事例と分析: 男性の好奇心や下心を利用した詐欺的手口の代表例としてデート商法が挙げられます。これは女性が恋人のように装いながら、高額な商品を買わせたり契約を結ばせたりする手口です 。具体的には、出会った女性と何度かデートを重ねて親密になったタイミングで「実は紹介したい人がいるの」とビジネスセミナーに同席させたり、「将来のためにいいものを持っておいてほしい」と高額な宝石や壺を売りつけたりするケースがあります 。前述のとおり、結婚をほのめかして婚約指輪をローンで買わせるという極端な例も報告されています 。また、「一緒にビジネスをやろう」と誘い出して実態はマルチ商法の会員にさせられるケースや、逆に高級クラブ・バーに連れ込まれて法外な代金を支払わされるケース(いわゆるぼったくりバー)もあります  。これらの事例では共通して、男性側が女性に対して好意や下心を持っていることにつけ込まれています。相手を疑うより先に「この人に嫌われたくない」「いいところを見せたい」という心理が働いてしまい、冷静な判断ができなくなるのです。結果として、普段なら怪しまれるような提案でも受け入れてしまい、大きな金銭的被害を被ったり、マルチ商法のような長期のトラブルに巻き込まれたりしてしまいます。

4. 対策と注意点

怪しい投稿・勧誘の見分け方: SNSやマッチングアプリ上で勧誘に遭わないためには、まず不審な兆候に気付くことが大切です。以下のポイントに注意しましょう。
• プロフィール写真や内容が不自然に魅力的すぎる: 出会い系業者はしばしばモデル並みの容姿の写真を使います。特に女性の場合、露出度の高い写真を使っているアカウントは警戒が必要です 。またプロフィール欄に「やたらとお金持ちアピール」や「副業で成功」などキラキラしすぎた記載がある場合も要注意です 。婚活アプリの専門家も、海外旅行やブランド品ばかり投稿している相手は警戒するよう呼び掛けています 。
• 連絡手段やサイトへの誘導: マッチングアプリ上で知り合った直後に「LINEで話そう」「他のSNSを教えて」と提案してくる相手は、アプリの監視を逃れて勧誘や詐欺を行おうとする業者の可能性があります 。アプリ内のメッセージからすぐに外部に誘導しようとするのは典型的な手口です。また、「秘密の写真を載せている別サイトがある」などと言って不審なURLを送りつけてくるケースもあります 。こうしたURLを開けばフィッシング詐欺サイトや高額課金サイトに飛ばされる恐れが高いので、見知らぬURLは絶対にクリックしないことが鉄則です 。
• やたらと早く会おうとする・個室に誘う: 通常、初対面で警戒心の薄い人はいません。にもかかわらず、知り合って間もない段階で「すぐに会いたい」「家で飲もう」などと提案してくる相手は疑ってください 。特に女性から初回デートで個室や人目の無い空間を指定してくるのは不自然です。これは背後に勧誘役の仲間が控えていたり、こちらの警戒心を解くための演出である可能性があります 。初デートは必ず人目のあるカフェや公共の場を選び、少しでも怪しいと感じたら途中でも切り上げる勇気を持ちましょう 。
• プロフィールでビジネスや投資を匂わせている: プロフ欄に「投資の話ができる人希望」「暗号資産で副収入得てます」などと書いている人は、副業勧誘目的の業者のことがあります 。普通の出会いを探している人であれば、出会い系プロフィールにお金儲けの話を書く必然性は低いはずです。「自由業/コンサルタント」といった肩書きを名乗りつつ具体性がない場合も注意が必要です 。

勧誘を受けた際の適切な対応: 万が一、相手の巧みな話術で途中までついて行ってしまった場合でも、被害を未然に防ぐ行動をとることができます。
• その場で毅然と断る: セミナー会場や飲食店などで商品購入や会員登録を迫られたら、「興味ありません」「帰ります」とはっきり意思表示しましょう。勧誘する側は断りづらい空気を作ろうとしますが、こちらに契約義務は一切ありません。不安に感じたら迷わず席を立って退出することが重要です 。特に「ちょっと会ってほしい人がいる」などと言われた時点で、ビジネス勧誘の可能性が高いので、その誘い自体を断って構いません 。
• 個人情報や金銭を渡さない: 身分証の提示や契約書へのサイン、その場での支払いを求められても、絶対に応じてはいけません。相手がどんなに魅力的なオファーを語っても、見ず知らずの人に個人情報を預けるのは非常に危険です 。闇バイトの誘いで「保証のため」などと金銭を要求されても決して支払ってはいけません 。一度でも渡してしまうと、それをタテに脅迫される可能性があります。
• 記録を残し通報する: 相手とのやり取りのメッセージやプロフィール画面などはスクリーンショットで記録し、早めに信頼できる第三者に相談しましょう。マッチングアプリ内であれば運営に通報すれば、利用規約違反(多くのアプリで宣伝・勧誘行為は禁止 )として相手のアカウントを停止してもらえる場合があります。SNS上であれば、プラットフォームの違反報告機能を使って通報し、同時に速やかにブロックしてください 。特に闇バイトの勧誘の場合は犯罪への加担を防ぐためにも警察への相談が有効です。「もしかして違法な誘いかも?」と思った時点で最寄りの警察署や消費生活センターに相談すれば、適切なアドバイスが得られます 。決して一人で悩んだり現場に行ったりせず、専門機関を頼るようにしましょう。

被害に遭わないためのSNSの使い方: 日頃からSNSやマッチングアプリを安全に利用するための心掛けも大切です。
• 個人の投稿で弱みを見せない: 「お金に困っている」「誰か助けて」などとSNS上で書き込むと、詐欺グループのターゲットにされる危険があります 。実際に金欠アピールをして闇バイトの勧誘メッセージが来た例もあるため、自分の悩みや弱みは不特定多数に公開しないようにしましょう。
• 安易に副業募集に応募しない: SNSで魅力的な副業募集を見かけても、簡単に連絡先を送ったり応募フォームに記入したりしないことです。特に高収入を強調する求人は疑ってかかり、会社名や連絡先をインターネットで検索してみてください。口コミがなかったり、「怪しい」「詐欺」という情報が見つかったりした場合は絶対に近づかないようにします。求人サイトでも応募前にその求人が正規の企業か確認し、不自然な点があれば応募しない判断が必要です 。
• SNS上のプライバシー設定を活用: Instagramなどでは、見知らぬアカウントからのDMを受け取らない設定や、アカウントを非公開(フォロワー承認制)にすることができます 。副業勧誘アカウントからのフォローやDMが鬱陶しい場合、思い切って非公開にしたり、プロフィールに「副業勧誘お断り」と明記するのも一つの手です 。自分が勧誘のターゲットになりにくい環境を整えておくことで、怪しい話を持ち掛けられる機会自体を減らすことができます。
• 周囲と情報共有する: 家族や友人とSNSでの出来事について話し合う習慣も被害防止につながります。勧誘じみたメッセージを受け取ったら周囲に「こんな話が来たけど怪しくないかな?」と相談しましょう。客観的な意見をもらうことで冷静になれますし、万一被害に遭ってしまった場合でも早期に対処しやすくなります 。

これらの対策を心がけておけば、SNSやマッチングアプリ上の詐欺的な勧誘を見抜き、被害を未然に防ぐ確率を高めることができます。不審な甘い話には十分警戒し、常に「おいしい話には裏がある」という意識を持って安全に利用しましょう。もし少しでも「おかしい」と感じたら、決して流されず然るべき機関へ相談することが肝心です 。

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