見出し画像

5年間連れ添った愛車とお別れしました。

 僕のこれまでの人生で一番大きな買い物は、社会人1年目の時に購入した軽自動車だ。5年という長いようで短い間、通勤ではほとんど使わなかったが、休日に山登りや小旅行に出かけるときなどには役に立ってくれ、生活を快適にしてくれた。だが、車を所有することに伴うデメリットも無視できなくなり、購入からちょうど5年が経ったのを機に、思い切って手放すことにした。

 どうでもいいが、せっかくなのでこれを記念に、この5年間の愛車との暮らしぶりや車に対する考え方、感じたことなどをつらつらと書いていこうと思う。


愛車との出会い

 社会人1年目当時の僕は、右も左も分からないまま、縁もゆかりもない、とある田舎町の支店に配属された。そこにいた社員はほとんどみな判で押したようにその寂れた町で生まれ育ち、高校を卒業して会社に入り、若くして家庭を持ち、何十年のローンを組んでマイホームに住み、車とパチンコと噂話が好きな人たちだった。そんな状況の中で僕は完全に浮いていて、仲の良い同僚など1人たりともできず、毎日孤独に社員寮と職場を往復するだけという味気のない生活を送っていた。

 通勤には車を使う必要はなかったが、とはいえ、いちいち自転車でスーパーやドラッグストアに買い出しに行くのも面倒になってきたし、せっかくだから色々な所に行ってみたい、行動範囲を広げたいという思いもあり、夏真っ盛りのある暑い日に、とある販売店を訪れた。

 そして紆余曲折あった末、レンズの厚いメガネをかけ、明らかに不健康そうだがやり手っぽい営業のオッサンの口車に乗せられ、僕は新車の軽自動車を買い求めることとなった。

 今の時代、軽自動車でも200万弱ぐらいするんだなァと思って驚いた記憶があるが、やはり僕の危なっかしい性格上、安全装置とか駐車用のモニターは必須だったので、必要な出費だと自らに言い聞かせた。ちなみに支払い方法は、5年契約の「残価クレジット」支払いであった(ピンと来ない方は、以下リンクの記事などを参照されたい)。

 オッサンの言うとおり、社会人になりたてで貯金もなく、毎月定額で新車に乗れることや、5年経ったらもしかしたら結婚して家族も出来ており、ライフスタイルも変わっているかもしれないから、コンパクトカーとか、別の車に乗り換える必要もあるかもしれない、その時には残価を払わずに返却すればよいのだと考えていた(※)。だが、今更こんな事を言うが、普通にマイカーローンを借りた方が結果的には10~20万は安く済んだだろうと思う。授業料としてはそこそこ高くついたと思っている。

(※社会人になりたてのバカな僕は、当時は普通に恋愛・結婚して普通に子どもを生んで普通に真面目に慎ましく普通に定年までサラリーマンとして生きていくものだと普通に思っていた。だが現実は皮肉なもので、5年経っても「いない歴=年齢」「素人童貞」という状況は変わらず、終わりのない社畜労働に心身をすり減らす日々を送っている・・・)。

 とはいえ、車で色々なところへ行けたのはとても楽しい経験だった。ちょうどコロナが流行り始め、アウトドアブームになっていた頃に、僕も御多分に洩れず、休日には愛車を運転して一人で山登りやキャンプに行くようになった。一時期は山登りに月3回、キャンプも「ゆるキャン」に感化され、月1回は必ず行くほどハマっていた。

 あとは、そこまで遠くには行けなかったが、たまに車で一人旅にも出かけた。特に、今年1月の九州一周旅行では大いに役に立ってくれた。駐車場の問題にはたまに悩まされたが、車があればいつでも気ままにどこでも行けるし、プライベートな空間を確保しながら心地よく移動できるので、旅行中も重宝した。例えば旅行中、観光地でカップルや家族連れの多さに疲れてしまった時などに、よくコンビニのコーヒーなんかを片手に駐車場に戻り、運転席でまったりと心を休めていたものだった。

 しかし、快適な生活には、往々にしてそれなりの代償が伴うものである・・・。

コストに見合わない使用頻度、そしてマンネリ感

 車を持つことを躊躇ってしまう理由に、やはりコストの高さがあるというのは自明なことだ。毎月・ボーナス月のローンに加え、保険料、駐車場代、各種メンテナンス費用や自動車税。当然、どこかに出かければガソリン代もかかる。そこそこ燃費は良かったとはいえ、ここ数年はずっとガソリンも高い。そして、車検でまとまったお金が飛んでいくのがかなーり痛い。車の燃料はガソリンというよりも札束なのである。

 僕は通勤に車を必要としなかったし、今は基本的な日常生活を送る上では車がなくても問題ない場所に住んでいるので、別に家賃や水道光熱費や食費のように生きていく上で必須ではなくとも、固定でコストがかかるのがどうしても嫌だった。

 休日にたまに登山か旅行に行くときにしか使わないとなると、車はもはや趣味というか贅沢品の領域になる。宝の持ち腐れにならないよう、なるべく休日にはたくさん乗るように心がけてきたが、そんな生活を何年も続けていると、次第に飽きが来てしまったのだ。

 登山は楽しいし良い運動になるし、景色は綺麗だし、頂上まで登った達成感・満足感を味わうことはできるけれど、最近はだんだん時間の無駄なのではないかと思えてきた。普通のウォーキングと比べて、登って下るので相当の時間がかかることに加え、僕は割と街中に住んでいるので、山登りに行くとなると行き帰りでそれなりの移動時間が発生する。要するに、交通手段とそれなりの装備があれば追加でお金はあまりかからない代わりに、かなりの時間がかかる趣味なのである。

 それを裏付けるかのように、山登りをしていてよく出会うのは、掃いて捨てるほど時間が有り余っているようなシニア層ばかりだ。「山ガール」などは所詮空想上の存在であり、今時の若者はこういう「タイパ」の悪い趣味を好まないのである。

 同様にキャンプも、当初は物珍しさもあり、非日常感を楽しめるからと頻繁に行っていたが、結局は根がズボラなので設営やら片付けやらキャンプに伴う色々な手間や不便さがだんだん面倒臭くなり、いつの間にやら熱も冷めてしまった。

 一人旅も、近場の観光地は行き尽くした感があるし、先日ポストしたとおり、大体どこに行ってもカップルや家族連ればかりなのが精神的に効いてくる年齢になってきたので、そろそろ飽きたというか、限界かなと思っていたところだったのだ。コストだけでなく、こういった趣味のマンネリ感も、車の所有をやめようと決める理由になった。

車に対する執着のなさ

 車を手放した背景には、僕自身が車に対する執着があまりないこともある。僕は車を単なる移動手段としか捉えることができなかった。要するに乗れればいいじゃんという考えだ。

 だから、イキってマツダのアテンザとか、BMWを乗り回す会社の同期をどこか一歩引いた立場から見ていた。車の所有はステータスになるという考えはある程度は理解できるが、僕はそもそも高級車に乗っても扱いきれないと思うし、小回りのきく軽で十分なのだ。

 ただ、軽自動車だと往々にして、運転中に周りの車から舐められる、馬鹿にされるような経験をすることがある。後ろから煽られたり、前に強引に入ってこられたり、嫌な思いを何度もしてきた。

(ちなみに、僕はいかにもガラの悪いDQN家族が化粧した金髪のガキを乗せてオラオラ言いながら乗り回してそうな黒のアルファードが大嫌いだ。街で見かけるだけでも態度がデカくて虫酸が走るような気分になる。)

車単体でも「オラオラァ!」とか言ってそうな見た目である

 まぁ、デカい車や高級車を運転しているからといって自分もデカい人間になったと勘違いして公道で好き放題振る舞う馬鹿共に遭遇したりしていると、車の所有も考えものだなぁと思うのである。

唯一の後悔:ドライブデートができなかった

 以上、車を5年間使ってたけどそろそろやめます!という話をその理由や考え方とともにダラダラと書いてきた。色々と考えて決めたことなので、晴れやかな気持ちで手放すことができたが、唯一の心残りは、女性とドライブデートができなかったことだ。

 僕は5年間で40,000km、およそ地球1周分ぐらいは車で走った計算になるが、多分そのうち39,500kmぐらいは一人で運転していたと思う。言うなれば、地球1周の旅で東京―大阪間だけ付き添いがいたぐらいな感じである。助手席には両親のうちどちらかか、あとは数回会社の同期が乗ったぐらいで、フロアマットにはいつも砂の一粒さえもなかった。いつか女性を助手席に乗せてドライブデートするという淡い淡い夢を、心の片隅に抱いていた。

 しかし、ただでさえ運転には神経を使う人間なのに、前、後ろ、左右、自転車、歩行者、色々なところに注意を配って安全運転に気を遣いながらもデートの全体行程に影響が出ないようにいい塩梅のところで速度を調整し、車内の空調やらBGMやらトイレ休憩にも配慮しつつ、隣に座っている女性と話が途切れないよう脳味噌をフル回転させ話題を提供し続ける・・・というようなマルチタスクはそもそも僕には土台無理な所業なのではないかと思えてくる。

 道を間違えたり、目的地の駐車場が満杯で車を停められなかったりしたときにパニックになりそうだし(一人で運転していても結構なパニックになる)、交通違反や事故という最悪の事態になったらどうしよう・・・。もうそこで二人の関係はパアになってしまう。

 いやそもそも、軽自動車だからドライブデートを断られるかもしれない。軽自動車で女性とデートする男は大抵、ダサいとか貧乏臭いとか論外だとか言って叩かれる。そんなに悪く言うほどのことかとは思うが、確かに、普通車と比べて事故時のリスクが大きいという安全上の懸念もある。「女性を何だと思ってるんだ!」とお叱りを受けてしまいそうだ。社会的にも、生物学的にも、男性よりも女性の命の方が重いからね。大変失礼しました。

おわりに

 さて、唯一の後悔はそれだけで、あとは気持ちよくディーラーに車を返却することができた。山登りだって、電車やバスで行ける山も少ないなりにあるし、山頂でビールを飲むことだってできる。どうしても車を出す必要があれば、レンタカーやらカーシェアを使えばよいのだ。

 車を所有していることに伴うコストや様々な義務・しがらみや「車を使わないといけない」という強迫観念のようなものから解放され、こうやってまた一つ、モノへの執着から解き放たれていくのは良いことだ。独身男の人生はなるべくシンプルであるべきで、多くのモノは必要ないのである。

 ・・・とかカッコつけたつもりだが、まず自分の汚部屋に溢れているガラクタを片付けられない人間にはこんなことを言う資格はないな・・・。(おわり)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?