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トム・ブラウン「自分たちの力だけではM-1決勝にたどり着けなかった」|お笑い芸人インタビュー<First Stage>#12(後編)

有名人やアニメのキャラクターを合体させる「合体漫才」でおなじみのトム・ブラウン。不気味なのに心惹かれる合体漫才は、先輩芸人や仲間の言葉に耳を傾けながら、少しずつ磨かれたものだという。

「First Stage」前編では初舞台やオーディションにまつわる話を聞いたが、後編ではM-1決勝進出までの道のりや、合体漫才誕生の背景、今後の活動などについて聞いた。

【インタビュー前編】

若手お笑い芸人インタビュー連載 <First Stage>
注目の若手お笑い芸人が毎月登場する、インタビュー連載。「初舞台の日」をテーマに、当時の高揚や反省点、そこから得た学びを回想。そして、これから目指す自分の理想像を語ります。

「イケる!」と思っては落ち込む、迷走の日々

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上から:みちお、布川ひろき

──トム・ブラウンさんが世に出たきっかけは、やはり2018年のM-1決勝だと思いますが、事務所に所属してからM-1決勝までの7〜8年は、どのような道のりだったのでしょうか。

布川 事務所のライブでも、一応一番上のクラスのライブに上がったりはするんですけど、お客さんにはまあ〜嫌われてましたね。僕らが出てきたらトイレに行く人とかいましたから。

みちお お客さんは20代後半のしっかりした感じの女性がメインで、上位にいるのはハマカーンさんみたいなシュッとされてるコンビとか、Hi-Hiさんのようなネタがしっかりしているコンビだったんです。僕らは何やってんのかわかんないようなネタだし、見た目も気持ち悪いから、マジで嫌われて全然ウケないっていう。

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布川 そのころにM-1がいったん終わって、THE MANZAIが始まったんですけど、1回戦はまあまあ反応よかったんで、2回戦に自信のあるネタを持っていったら、めちゃくちゃスベって。あまりにスベったせいで、僕らの次の次の出番のスリムクラブさんまでスベったんですよ……。そのあたりも気持ち的にキツかったですね。「どうやっても売れないじゃん」と思ってました。

みちお めちゃくちゃおもしろいネタができたと思っても、地下っぽい場所だと反応があるのに、地上っぽい場所だとウケないんですよ。自分たちとしてはみなさんにウケるようにやりたいんですけど、アングラの域を脱せてなかったんだろうなって思います。

布川 どう考えてもアングラだったよな。機関銃持って「ケイダッシュステージ、バンザーイ!」って言って、喉元を撃って死ぬとか。

みちお 実際には撃ってないですよ、安心してください(笑)。

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──ネタについての試行錯誤が続いていたんですね。

みちお はい。それで、機関銃とかで自分を攻撃してたのを、今度は悪いヤツを倒せばいいんじゃないかと思って、僕が痴漢の撃退法を紹介するネタを作ってみたんです。そしたら、まあまあいい感じでウケるようになって。

そんなときに、『アッコにおまかせ!』(TBS)に準レギュラーで出られていたハマカーンさんが、おすすめ芸人として僕らを呼んでくれたんですね。で、和田アキ子さんの前でネタをやったんですけど、マジでウケなくて……。「おもしろいとかおもしろくないじゃなくて、意味がわからん」って言われて。

布川 おもしろいかおもしろくないかで言ってもらえればまだよかったんですけど、「わかんない」はそこまでもいってないんで、「これはマズい」と。

みちお 「うわ、どうしよう」って、まためちゃくちゃ悩んで。

みちおの思いつきから生まれた合体漫才

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布川 そんなこともあって、2016年に単独ライブをやることになったときには、いつもみたいにふたりでネタを作るんじゃなくて、誰かに入ってもらおうかっていう話になって。

もう辞めちゃったんですけど、「サッチ」っていうコンビの神田(慶太郎)に単独のネタを見てもらったんです。そしたら、「おもしろいけど、いつもと一緒だな。違う感じのネタも一個やってみたら?」って言われて。そのときにみちおが、「一休さん5人集めて合体させて、『キング一休さん』作るってどう?」って急に言い出したんですね。

みちお ダメ元くらいの気分でその場でテキトーに言ったネタが、「なんかおもしろそうじゃん」みたいな感じになって。

布川 たぶん、みちおが映画好きだから思いついたと思うんですけど。

みちお ドラクエ(『ドラゴンクエスト』シリーズ)も好きですし、人間とハエが合体しちゃう『ザ・フライ』っていう映画も好きですし、そんなイメージが頭の中にあったんでしょうね。

布川 あと、僕が札幌でかわいがってもらってたモリマンさんのネタに、『ミックス犬』っていうのがあって。犬って犬種が混ざり合ったら名前が変わるんだよ、っていう話から、セント・バーナードとダックスフンドだと「セックス」になるねっていうネタなんですけど。そのネタがめっちゃおもしろいと思ってたんで、合体するネタに「それいいじゃん」ってすぐ反応したんだと思います。

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──2016年の単独ライブのタイミングで、おふたりの代名詞となる合体漫才ができたんですね。

みちお はい。でも、言ったはいいけど、「このネタ、どうやって表現すんの?」みたいな感じでした。「一休です」「一休です」「一休です」「一休です」「一休です」「で、これで合体だよな?」とか言いながら、手探りの状態でネタ合わせして。

ボケ方もわからないんで、「キング一休です」……「これ、どうやってツッコむんだ?」みたいな。フフ。最初はマジで意味わかんないボケだったよな?

布川 最初のころは、一休さんが5人集まって「キング新右衛門さん」(※)になるっていう。意味わかんないよね。でも、単独ライブでやってみたら、今までとは違う感じのウケ方だったんです。それまでは強く1回ウケても長くウケてる感じはしなかったのが、このときはウケたあとになんかザワザワしたというか。

※アニメ『一休さん』に登場する武士のキャラクター「蜷川新右衛門」

──THE MANZAIでのスベリの余韻とは逆に、今度はウケの余韻が残ったと。

みちお そうですね。その年から長崎でも単独ライブをやり始めてるんですけど、縁もゆかりもない長崎で合体ネタがすごいウケたんですよ。「これはイケる」と思ったら、M-1の2回戦で落ちちゃって。そこから3カ月くらい、ほぼ記憶ないです。「終わったなぁ……」って、ショックでしばらくぼーっと生きてました。

布川 グラフで言ったら、一番下がってる時期かもしれないです。バイト終わりに新橋の富士そばの前で結果見て、膝から崩れ落ちましたから。追加合格にも入ってなくて、「ウソ〜……」と思って。参りましたね、あれは。

先輩や仲間の言葉を糧にネタを磨く

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──それでもまた合体ネタを磨いていこうと立ち上がった理由はなんですか?

布川 ある日、ハマカーンの浜谷(健司)さんが僕らふたりをごはんに誘ってくれたんですけど、「あのネタ、めちゃくちゃいいぞ。うれしくて、ふたりとも呼んじゃったわ」って、高い焼肉食べさせてくれて。THE MANZAIチャンピオンの浜谷さんがこう言ってくれてるんだし、ほかの芸人仲間も褒めてくれるので、やっぱりおもしろいネタなのかなと。

みちお それで、ネタの細かい部分から少しずつ直していって。あと、ネタだけじゃなくて、僕のワイシャツとネクタイをペンギンのトレーナーにして、紺色のズボンを白に変えるとか、服装も変えてみたりするようになりましたね。

──布川さんが髪を伸ばすようになったのもそのタイミングですか? たしかオードリーの若林(正恭)さんのアドバイスだったとか。

布川 はい。2017年のM-1は準々決勝で落ちたんですけど、若林さんに「あのネタ、めちゃくちゃおもしろいよ」って言っていただいて。「話半分で聞いてほしいんだけど、最初にマジメそうな人が出てきて『あ、ツッコミの人なんだな』って思ったら、急に『ダメ〜!』ってツッコみ出すから、笑う前にお客さんがびっくりしちゃうんだと思うんだよね」みたいなアドバイスをもらいました。

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──「あ、このツッコミの人もヤバいんだ」と、最初に印象づけたほうが笑いやすいと。

布川 そうですね。それで、ネタの最後にやっていた「キャーッ!」っていうツッコミを最初のほうに持っていくようになって。さらに、「布川は人間性もちょっと変わってるじゃん。だから、髪伸ばしてみるのとかどう?」って言っていただいて。

当時、1回お笑いを辞めようかと思ってたんで、どうせならアドバイスとして言ってもらったことは全部やってみようと思って、ウィッグを買ったんです。で、髪を長くしてみたらめっちゃくちゃウケたんで、髪だけでこんなに違うんだってびっくりしました。

──お客さんの心理まで計算すると、ウケ方も違うんですね。

布川 当時はボケのおもしろさばっかり追ってましたけど、見た目とか構成も変えていく必要があると気づけたのが、2017年から18年にかけてでしたね。

変化を感じながら挑んだ2018年のM-1

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──そして2018年のM-1ですが、予選の段階から「トム・ブラウンが仕上がってるらしい」と芸人さんたちが噂していたというエピソードを聞いたことがあります。

みちお たぶん、3回戦のときに人生の中でも何番目かに入るくらいウケたので、それを芸人さんたちの間で言ってくれたりしたんですかね。

布川 すごく覚えてるのは2回戦のときで、ウエストランドの井口(浩之)くんが、「今出たら、すごい歓迎ムードだと思いますよ。たぶん、出た瞬間に驚くと思いますけど、びっくりしないでくださいね」って声をかけてくれたんですよ。実際に舞台に出たら、今まではお客さんが引いた顔してることが多かったのに、普通に観てくれてる感じがして。なんかやりやすかったんですよね。

みちお たぶん、ネタ番組とかに出させてもらうこともあったので、少しずつ皆さんに認識してもらえるようになったのかなと思います。

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──予選中はそのまま勢いに乗っていたのか、勢いを感じながらも冷静だったのか、どんな状態でしたか?

布川 3回戦のあとに芸人さんたちと飲ませてもらったんですけど、そこにいただーりんずの小田(祐一郎)さんが3回戦を観に来てたらしくて。僕は1発目のボケについて、「後半あんなにウケてくれたお客さんなら、もっと最初でウケないか?」と思ってたので、そのことを小田さんに聞いてみたんです。そしたら、「おもしろかったし、めちゃくちゃウケてたけど、なんか一瞬だけ早い感じしたんだよね」って言われて。

実は、いつもは「これはいったい、どうなっちゃうんだぁ?」って言うところを、3回戦だけは時間を削るために「これはどうなっちゃうんだぁ?」にしてたんですよ。「いったい」っていうひと言がなかっただけで、笑いの量が下がったんですよ、おそらく。それで、ネタの一個一個がすごく大事なんだなってわかったというか。やっぱりそこを直したら反応もよくなりましたし。

──わりと冷静に、細かくネタをブラッシュアップされていたんですね。

布川 はい。でも、自分らでやったとはあんまり思ってないですね。井口くんもそうですし、浜谷さんにも、若林さんにも、小田さんにも感謝してます。自分たちの発想だけではあそこまでできなかったので。

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──決勝の舞台で漫才をやったときはどんな気分でしたか?

みちお もちろんド緊張ですよね。だから、最初に舞台にせり上がるときに、1回爆笑しようと決めてたんです。そのおかげでテンションが上がって勢いでやれてたんですけど、布川越しに上沼(恵美子)さんが見えて、「うわぁぁ、M-1だぁ!」ってまた緊張して、口の中の水分が全部なくなりました。布川が「これはいったい、どうなっちゃうんだぁ?」って言ってる間に、必死で口の中の全水分を集めたのを覚えてますね。

布川 話の最後が汚いなぁ。僕は決勝の3日前ぐらいに声を飛ばしちゃって、まず声が出るようになるかがすごい不安だったんですけど、ギリギリ出るようになって。

当日もいろいろ不安だったんで、本番前の昼にみちおに似たハゲてて太ってる人とライブに出て漫才したんですね。それでけっこうほぐれて、ほどよい緊張でネタをやれました。あと、僕はみちお越しに上戸彩さんが見えたんですけど、すごいかわいかったですね。

みちお 「M-1前にライブ出るか?」って聞かれたんですけど、僕はギリギリまで寝たいし、絶対にヤダと思って。そしたら、「代わりに似てるヤツ探すわ」つって。意味わかんない(笑)。

「やっぱりネタで評価されたい」

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──現在はいろいろなメディアに出演しながら、単独ライブなども継続的に行っていますよね。今後の芸人としての活動について、おふたりはどう考えているのでしょうか。

みちお 「結局、ネタが一番おもしろいのはトム・ブラウン」って言われるような存在になっていきたいですね。ネタをやり続けるのはしんどいし、弱音も吐く前提ですけど。

布川 僕も全国でライブをやってお客さんを集めて、ネタでちゃんと評価されたいですかね。あの……札幌が毎回一番スベるんですよ、地元なのに。逆に西に行けば行くほど、わりと反応がいいというか。九州の人に聞いたら、「九州の人って見た目が濃い人が好きなんだよね。だからウケるんじゃない?」って言っていて。

北海道の人はたぶん、見た目が濃い人があんまり好きじゃないんですよ。「こわっ」ってなっちゃうんだと思います。だから、北海道でちゃんとウケたいですね。

みちお あとはいずれ、「この男が、ナンバーワンのカリスマだ」って言われる存在になりたいです。

文=後藤亮平 写真=青山裕企 編集=龍見咲希、田島太陽

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トム・ブラウン
2009年結成。布川ひろき(ぬのかわ・ひろき、1984年1月28日、北海道出身)と、みちお(1984年12月29日、北海道出身)のコンビ。高校時代に柔道部の先輩後輩だったふたりがコンビを組み、地元・北海道から上京。2018年、M-1グランプリ決勝に進出。みちおが有名人やアニメのキャラクターを合体させるという「合体漫才」で大きなインパクトを残した。オールナイトニッポンPODCAST『トム・ブラウンのニッポン放送圧縮計画』(ポッドキャスト/毎週金曜18:00ごろ配信)は、布川が自らの髪の毛を切ってリスナーにプレゼントするなど、特異なノリで話題となっている。

5月8日(日)の長崎公演を皮切りに、『トム・ブラウン全国五大都市ツアー2022「がちょん十一郎」』を開催。詳細はこちら

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『ももクロちゃんと!』トム・ブラウン出演回がテレ朝動画「logirl」にて配信中!

「ヤバいおじさん」ことみちおさんが、ももクロメンバーに楽屋ドッキリを仕掛けられています。
みちお「僕、楽屋で歌を歌ってたんですけど、なんの曲を歌ってたのかまったく思い出せないんですよ。僕の鼻歌でその曲名がわかった人、ご連絡お待ちしてます」
布川「ももクロのみなさんはアイドルなのに、みちおの気持ち悪い動きとかを見ても引かずに笑ってくれたのがすごいなぁと思いましたね」

テレビ朝日にて4月30日(土)深夜3時20分〜放送の『ももクロちゃんと!』にもトム・ブラウンが出演するので乞うご期待!

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(写真:『ももクロちゃんと! ももクロちゃんとヤバいおじさん Part1』

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(写真:『ももクロちゃんと! ももクロちゃんとヤバいおじさん Part2』

【後編アザーカット】

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