忘れられない「トキメキ」の記憶。全力で柏駅を駆け抜けた夜(チカコホンマ)
エッセイアンソロジー「Night Piece〜忘れられない一夜〜」
「忘れられない一夜」のエピソードを、毎回異なる芸能人がオムニバス形式でお届けするエッセイ連載。
チカコホンマ
1994年5月4日生まれ、千葉県出身、体重112kg。吉本興業所属のお笑い芸人。よしもと新潟県住みます芸人。「チカポン」名義でYouTuberとしても活動し、チャンネル登録者数20万人。2021年12月24日に初の書籍となる『まともな恋愛経験なしでマッチングアプリに挑戦したら事件だらけでした』を上梓。現在のレギュラー番組は『潟ちゅーぶ』(NST新潟総合テレビ)『まるどりっ!UP』(UX新潟テレビ21)ほか、新潟のテレビ番組に多数出演。
(Twitter:@honmaaaaax/Instagram:chika54_h/YouTube:チカポン)
アラサー、独身、ぽっちゃり(当社比)。
彼氏なし、加えてこじらせというオプションつきの私。
ご覧のとおり、愛に飢えすぎているため、「おいしくて温かいお料理をすぐお家でいただけますよ?」と毎日マメに連絡をくれるUber Eatsさん(公式)にトキメキかけている。否、トキメいている。私に好意があるに違いない。ネットの無料占いで、お互いの相性もたしかめないと。あと、Facebookも調べないと。
最近はというと、タイムラインに流れるバレンタイン関連の広告をブロックして、SNSの風紀を保つ活動に勤しんでいる私ですが、毎年この時期になると思い出す夜がある。
高校3年の冬、珍しく好きな人がいた。
「珍しく」でお察しいただけたかとは思うが、当時の私はすでに“完成”されていたのだ。
反・キャピキャピ系JKの過激派組織として活動しており、髪の毛はマッシュで古着系を好んで着ていた。今振り返ると、10代の私は、自分のコンプレックスを「個性」で打ち消そうとしていたのかもしれない。
で、その好きな人というのが、校内で5本の指に入るほどの問題児BOY。
なんだか山﨑賢人さんあたりが登場しそうな少女漫画の実写化映画の予告編の語り口で、私自身も少々興奮しながら執筆しております。
そうなんです。簡単に言うと、ヤンキー。
腰パンでローファーを履きつぶし、校舎でタバコをふかし、もれなくバレて停学。「硬派で一途↑ 場面で地元↑」が家訓(勝手な予想)。
ここでは彼を「硬派くん(仮)」とします。
自分とは対義語のような存在なのに、なぜ硬派くんを好きになったかというと、見た目とは裏腹に、とても温かみのある優しい方だったから。
高校生のころの私は、ご覧のとおりイジられキャラであり、お笑い担当だった。そのポジションで生きることが楽でもあり、今の仕事につながっているところもある。
特に3年生のクラスでは、男子と仲よく話すことも多く、硬派くんもそのうちのひとりだった。
ただ、ほかの男子と違ったのは、私に対してとても優しいところ。
もちろん私は、中学時代もまともな恋愛経験がなく、優しくされると根こそぎ持っていかれるタチ。生粋のこじらせ。私がハリーポッターに出ようもんなら、組分け帽子を被る前から「非モテェエエエ!!」と叫ばれることだろう。
優しく、時にはおもしろくイジってくれる硬派くんに、気づいたら恋をしていた。
ただ、己のキャラ的に「君のことが、だいしゅきだぉ! キュルルンピン! 放課後デェトちよ?」なんて口が裂けても言えなかった。そんな甘々な言葉を口にしたら、自分の中の大切な臓器が1個なくなる、そんな気がしていた。
「好きな人がいます」感を出せずにいた私は、とりあえず彼と仲のいい関係を保つことにした。
そして、うだうだしているうちに、あっという間に卒業式。
卒業してから私は、夢を叶えるために大阪へ行くことが決まっていた。
大阪行きの前に、親友の女の子と硬派くんと私の3人で遊べることに。柏駅集合で、10代にしては少し背伸びをしたご飯屋さんへ行った。
今も鮮明に覚えている、当時の服装、頼んだジュース、彼の笑顔。
なぜ、こんなにも鮮明に覚えているかわからない。
記憶はいまだに私をつかんで離さないのです。
このまま、ポエマー風味満載でお届けしようかと思ったが、よくよく考えてみたら、きっとそれから「トキメキ」をあまり更新していないから、あのころの記憶がはっきりと残されているのだ。アップデートされぬまま、27歳になったから。あぁ、気づかなければよかった。「エビフライの尻尾って、ゴキブリと同じ食感なんだよ」と友人から聞かされたときと同じ感覚だ。
と、まぁこの話は置いといて。
そのあとは、3人でプリクラを撮り、よきところで親友が気を遣って先に帰った。
緊張していたが、緊張していないふりをするのが得意検定準2級の私は、硬派くんとふたりで誰もいない駅の端へと向かった。
冷たい夜風が心地いいと感じるほど、緊張していた私。駅のロータリーの端っこでちょこんとしゃがみ込んで、終電を気にしながら静かにお話をしていた。
いつもとは違うトーンの声で、初めて硬派くんを大人に感じた。
「道行く人には、どう見えてるのかな? 友達? カップル? 姉弟? 否、兄妹? 先輩後輩? それとも、カツアゲ? は? 敬いな?」なんて考えていたとき。
そのとき、一瞬だけ、ほんの一瞬だけ。
目と目が合い、見つめ合った。
少し、時間が止まって見えた。さすがの私にもわかった、わかりすぎた。
「これは接吻をするときだよ」
私の中の眠っていた本能がご丁寧に教えてくれた。
だが、わからぬ。目を閉じるべきなのか? 硬派くんにもっと近づくべきなのか? こんなにもYahoo!知恵袋を欲した瞬間はあとにも先にもないだろう。
正直に申し上げると、キーボードを叩いてる今も、興奮してきている。非常にお恥ずかしい限りです。
そこで私が取った行動は、
Run away...
高校3年間ハンドボール部で培ってきた脚力、瞬発力を活かし、全力で柏駅を駆け抜けた。自分が電車かと錯覚するほどに。
皆さん、もったいない運動というのはご存知でしょうか?
ノーベル平和賞を受賞したワンガリ・マータイさんが、国連本部での演説で、日本の「もったいない(MOTTAINAI)」の精神を提唱したことから、世界的に注目されるようになりました。
ワンガリさんも激怒するレベルのもったいなさ。今でも忘れられない一夜です。
そんな硬派くんも、今では3児のパパです(娘さんが硬派くんそっくりでかわいい)。
もしかしたら、あの夜、彼は接吻するつもりもなかったかもしれない。
どちらにせよ、ただ、本当に申し訳ないと思っている。
ああ、1日でも早く、SNSのプロフィール欄に
「2022.06.10〜入籍
2024.08.21〜マイホーム
#マタママさんと繋がりたい」
と書き込みたい。
私の非モテ伝説は、止まらないのである。
文・撮影=チカコホンマ 編集=高橋千里