トンツカタンの向き合い方「各々のがんばりで未来とチャンスつかむ」|お笑い芸人インタビュー<First Stage>#9(後編)
東京のライブシーンで異彩を放ち、活躍するトンツカタン。今年、『NHK新人お笑い大賞』で決勝進出、『キングオブコント』では5年ぶりのセミファイナリストと着実に歩みを進めている。
そんな3人の初舞台を聞くこのインタビュー。傍目には順調そのものに見えるが、3人いれば現状認識も異なるようで……。
ブレイク前夜のトンツカタンの、現在地を探る。
【記事前編】
若手お笑い芸人インタビュー連載 <First Stage>
注目の若手お笑い芸人が毎月登場する、インタビュー連載。「初舞台の日」をテーマに、当時の高揚や反省点、そこから得た学びを回想。そして、これから目指す自分の理想像を語ります。
森本がひとりでコントを書くようになった理由
森本晋太郎
──前編では、トンツカタンがトリオになるまでの話を伺いましたが、ようやく3人が合流します。3人での初舞台はいつですか?
森本 養成所卒業直前ですね、2012年の2月か3月。すぐに僕ひとりでネタ書くようになるんですけど、最初は3人で作ってて、『カイジ』みたいな世界観のコントでした。
ふたりがすんごい白熱してカードを出し合ってるんですけど、それがまったく意味のわからないカードゲームで、僕が「どういうゲームなんだ……」とツッコむ。
お抹茶 今思うと、森本が傍聴人みたいな意味わかんないポジションで(笑)。
櫻田 森本が見つけたルールブックが、めちゃめちゃでかいっていうのが一番のボケでした。
櫻田 佑
森本 そうだそうだ。その小道具のルールブックは、コンビニで買ってきたジャンプを5冊くらい重ねて、お抹茶が作ってくれたんだよね。
お抹茶 舞台監督に「いい出来だねぇ……」って褒められた思い出の小道具ですね。当時はよく作ってました。
森本 昔は道具のおもしろさに頼ってたよね。今は非現実的な小道具が必要になる設定のコントは減ってきました。
──初舞台のコントは3人で書いたそうですが、現在のネタ作りは森本さんがひとりでやられてます。いつごろから今の作り方に変わったんですか?
森本 わりとすぐです。3人集まってもみんなでわいわいアイデア出し合うわけでもなかったんで、だったらネタ書く時間はふたりを自由にしたほうがいいかなと。
お抹茶 もう来なくていいってなったときは戦力外通告を受けたみたいで悲しかったっすねぇ……。
森本 そういうつもりではなかったけど(苦笑)。
お抹茶 楽しくネタ作りしてたころが懐かしいです。今はもうさすがにやりたくないですけど。
森本 でも最近の新ネタライブでは、お抹茶のコントもやってるじゃない。あれおもしろいよ。
お抹茶
お抹茶 あれは僕の書いたネタじゃなくて、みんなのアドリブがウケてるんですよ! 僕が5分想定で作ってるネタが、10分超えるほどアドリブするから。
森本 すごくアドリブがしやすい台本なんです。
お抹茶 隙間だらけってことですね……。
森本 あっはっは(笑)。
お抹茶 緻密なコントをいっぱいやったあとだから、ギャップもあってウケてしまう。
──『レンタルさん』とか?
お抹茶 そうですそうです! ほんとに台本どおりの部分はさっぱりで、アドリブばっかりウケるんですよ。
森本 そんなことはないですよ(笑)。
転機のネタは、お抹茶が“持ち運んだ”
──養成所を出たトリオのトンツカタンはどうでしたか?
森本 最初の半年はけっこうキツかったっすね。大学時代からずっと漫才書いてきたのに、急にコントに切り替えた上に、トリオですから。しばらくは、ちょっとムリある設定しか思いつかなくて自信なかったですよ。「俺向いてないのかなぁ……」って。
──その苦しい時期を乗り越える転機になったコントとかありますか?
森本 『辞めないよね』ってネタです。僕が野球部で、櫻田が新入部員で。「野球部入りたいんです」と言うから、名前を尋ねたら「桐島です」と返されて「え? 辞めないよね?」となるコントで。
当時、『桐島、部活やめるってよ』って映画が流行ってたんですよね。あのネタから急にウケることが増えた気がします。明確にコツをつかんだわけじゃなくて、感覚的なものですけど。
その数カ月後に、今もお世話になってる『カタコト塾』ができて、トリオでもやっていけるかも、と気持ちを立て直せました。
お抹茶 これは言っておきたいんですが、『辞めないよね』の案って僕が持ってきたんですよ。
森本 そうだっけ?
お抹茶 というのも、僕が同期から「こういう案があるよ」と聞いて、それをそのまま森本に伝えたところから生まれたんです。
森本 それネタの案を持ち運んだだけだよ(笑)。
お抹茶 トランスポーター、ネタ運び屋ですね(笑)。当時の僕って本当にポンコツで怒られてばっかりだったんですよ。滑舌も悪いし、演技も得意じゃない。勝手に髪切っちゃって叱られたり。
森本 あれはひどかった。今YouTubeにも上がってる『天使と悪魔』とは別で、同じタイトルのコントが初期にあったんですけど、当時おかっぱのお抹茶が、天使役だったんですよ。彼の髪の毛がつやつやで天使そのものだったんです。
なのに、いざライブの入り時間にやってきたコイツが、長渕剛みたいな髪型になってて(笑)。「いやぁ、気合い入れてきたよ!」って言うんですけど「お前のキューティクルありきの天使役だったのに!」と腹立ちましたねぇ。
お抹茶 天使は長渕じゃダメなの?
森本 長渕ヘアーの天使はブレるだろ。
櫻田 あれは長渕というより、もはやただのスポーツ選手だった(笑)。
お抹茶 とにかく迷惑ばっかりかけてたので、転機となるコントのアイデアを持ち運べて、信頼を取り戻せた気でいましたね。
トンツカタンなりの賞レースとの向き合い方
──2016年には『ツギクル芸人グランプリ』の前身である『お笑いハーベスト大賞』を受賞され、キングオブコントも初めて準決勝に進みましたが、それからの5年間はいかがでしたか?
森本 賞レースの成績はよくなかったんですけど、結成当初と比べたらネタは悪くないかなとは思ってました。でも、賞レースで、トンツカタン史上一番ウケたときにも落とされちゃって。そのタイミングで僕は「賞レースに賭ける」って考え方を、ちょっとズラしました。
──ズラしたというと?
森本 それまでは「ここで勝たなきゃ、また1年売れない芸人だぞ」とせっぱ詰まってました。でも「ここで一喜一憂してたらよくないな」と感じたんです。
賞レースは審査員の方がいいと思ったネタが上がっていくシステムの中での闘いじゃないですか。そこに全神経を集中させると精神面的によくないかなと思いました。
もちろん賞レースは毎年出てますし本気でやってるんですけど、両足ずっぽりハマってあくせくするのは僕の性格的にあまり合ってないかなと。
お抹茶 そうらしいですよ。
──お抹茶さんと櫻田さんは、森本さんの賞レースに対する気持ちの変化を知らなかったんですか?
お抹茶 ふんわりとは聞いてましたけど、話し合いとかは特になかったので、知らなかったですね。僕は落ちても「また次がんばろう」ってすぐに切り替えられるタイプだから、賞レースへの比重が下がるのは残念でした。ここ4年くらいは少し寂しかったです。
森本 そうなの? でもこれはトンツカタンが「賞レースの結果は求めない」って話ではなくて、あくまでも僕の気の持ちようの話であって。ネタ作りのペースも変わってないし、賞レースに向けた努力もしてるでしょう!
お抹茶 でも前みたいに、賞レースに向けて単独ライブやったり、ライブにたくさん出るっていうことが減ってきてて、僕は涙涙でしたよ。
森本 僕ら単独ライブはあまり向いてないって話はしたよね。
お抹茶 たしかにそれはしましたね。トンツカタンとしてやりたいコントがひとつひとつバラバラすぎて、単独にするにはまとまらない。
──テーマが一貫した単独ライブができないと。でも年明けに『新年のトンツカタン』という単独のライブしますよね?
森本 あれは単独ライブではなくて、新ネタライブという位置づけなんです。特にテーマは設けず、1時間かけて新ネタをひたすら下ろす。東京03さんみたいに長尺コントをやって、幕間でVTRというかたちのライブを、定期的にやるのはトンツカタンには合わないなということですね。
──なるほど。櫻田さんは賞レースへの想いとか、単独ライブへのこだわりはないですか?
櫻田 そんなにないですね。特にキングオブコントは地元の秋田県では観れないので、なじみがないんです。
森本 地上波って何個あるんだっけ?
櫻田 民放は3つ。キングオブコントやってるTBSが入ってない。
森本 ふたつじゃなかったっけ?
櫻田 フジと日テレと朝日で3つ。……ちょっとバカにしすぎじゃない?
森本 あぁ……ごめん(苦笑)。
お抹茶 森本はほんとに田舎をバカにしがちで。
──東京生まれ東京育ちのシティボーイだから。
お抹茶 そうなんです。埼玉に住んでる僕が最寄りにカフェがないって話したら「カフェがない駅なんてあるの?」って言ってくるし。
森本 それに関しては驚きで言ったのよ。ただ唯一バカにしたのは、コイツのマンション近くの外壁に「埼玉ナンバーワン!」って落書きがあったことですね。
お抹茶 あれは僕も引いてますよ。埼玉のナンバーワンってすごくしょぼいし……(苦笑)。
お抹茶は未来が霞んで見えない
──今年のキングオブコントは、“史上最高の大会”と言われてました。それにコント番組も増えてきて、コントが盛り上がってる印象です。そんな変化のなかで、トンツカタンとして、今後どんなビジョンを描いていますか?
森本 どうでしょうかね。
お抹茶 やっぱり僕は賞レースの決勝行って優勝したいですし、単独公演もやりたい。でも、トンツカタンとしてはそこが一番の目標ではなくなってたので迷いますね。だから僕はわりと今ビジョンがないです。僕のこの先はもうずっと靄かかってます。
森本 そこまで言うの?(苦笑)
お抹茶 言っちゃいますねぇ。妻と子供もいるので、もう一か八か僕は休業して、バイトがんばったほうがいいのかなとも思ってます。
森本 えー!(笑)
お抹茶 テレビタレントさんになれたら一番いいですけど、そのイメージも湧かないですし。
森本 でも、こないだの『あちこちオードリー』(テレビ東京)もいいイジられ方して、お抹茶の回になったじゃない。
お抹茶 『あちこちオードリー』さんはありがたい編集でしたけど、あれは珍しいんですよ。普段は僕ががんばっても編集でカットされて、全然映らないんです。「そうか、俺の発言は必要ねぇか……」と毎回思うので、テレビタレントも向いてないのかな、と。だから今はやっぱりバイトですかね。
──今は森本さんはライブのMCとして注目され、最近はラジオやテレビのレギュラーもあって、存在感が増してます。その流れで、おふたりもこれから出ていくんだろうなと勝手に楽観視してましたが……。
森本 そうなんですよ。このふたりは魅力的なんだけど、それが伝わりにくい。だからこそ最初に僕がたくさんメディアに出て、「相方どんな人なの?」ってところまで興味持ってもらう。そこで初めて、ふたりが暴れてくれたらいいなと思ってます。
お抹茶 暴れ回るチャンスが、近々あるってこと?
森本 近々……あるんじゃない?
お抹茶 でも、この方針だと僕らは待つしかないんですよ。
──たしかに、森本さんがひとりでネタを書き始めたときと同じ状況なのかもしれないですね。
お抹茶 だったら、もうその待ってるだけの時間もったいないから、バイト始めようかなと。
森本 たしかに「自由にしてくれ」とは言ったけど、バイトは違うんじゃない?(笑)
──森本さんが表に出てる間、裏で力を溜めておいて、いざというときに発揮してほしいとか?
森本 そうですよ。それこそ彼が作ったオリジナルレシピがTwitterでバズったんです。
森本 あれがきっかけで、『ananweb』で連載も始まったんです。自由な時間の活用としてベストじゃないですか。
──お抹茶さん悲愴感たっぷりですが、ananで連載ってすごいじゃないですか。
お抹茶 いやいやいや、あれはたしかにラッキーでしたけど……。独身のふたりと違って、子供がいる僕は自由な時間ないですし、待つ時間はけっこう大変で。今の僕は、トンツカタンに振り落とされないよう、しがみつくので精いっぱいです。
森本 たしかに僕は奥さんも子供もいないから想像するしかないですけど。子育てはすごい大変そうだよね。
お抹茶 しかも僕が子育てしてるから。あの要領の悪いお抹茶が育児してるわけですから。
森本 そうそう。すんごいがんばってるなと思ってるよ。その間僕がちょっとでもね、知名度上げられたらと思ってるんですけど。
──育児はほんと大変ですよね。僕も3歳の娘がいて、仕事で靄かかってる感覚がちょっとわかります。仕事をもっとがんばりたいけど、育児に時間取られて、焦りだけが募っていくというか。
お抹茶 そうなんですよ。今がんばりたいのになって思いながら子育てするしかなくて……。もっと話したいですね、今度ちょっと酒飲み行きませんか。
森本 飲み友達を増やそうとするなよ(笑)。
──櫻田さんは“待ちの時間”どうですか?
櫻田 お抹茶は靄がかかってると言ってましたけど、僕の視界は晴れ渡ってます。自分の好きなことを仕事にできればいいかなと思って、いろいろ楽しんでます。
──コロナの自粛期間中も、映画を1日に6本観る生活をしてたとか。フィルマークスの感想文もいいですよね。
櫻田 この前も初めて音楽イベントの主催をさせてもらいましたし、今後も自分の趣味が仕事になることが増えていけばいいかなと思ってます。そのための待ち時間です。
森本 櫻田が一番充実してるんですよ。
お抹茶 うらやましいなぁ……。
森本 お抹茶のスイーツとか、櫻田のカルチャー的な仕事とか、各々がんばってるんで、来年は「僕の相方すごいんですよ」ってもっと広めていきたいですね。
トンツカタン
森本晋太郎(もりもと・しんたろう、1990年1月9日、東京都出身)、お抹茶(おまっちゃ、1989年9月26日、埼玉県出身)、櫻田 佑(さくらだ・たすく、1989年9月4日、秋田県出身)のトリオ。2012年に結成。2016年、『第7回お笑いハーベスト大賞』優勝。『キングオブコント2021』では、5大会ぶりに準決勝進出。「聞くトンツカタン」(ラジオアプリGERA)は毎週日曜20時に配信中。『トンツカタンOfficial YouTube Channel』でネタ動画を随時アップする。
2022年1月7日(金)、東京・北沢タウンホールで新ネタライブ『新年のトンツカタン』を開催。会場チケットはLivePocketにて、配信チケットはZAIKOにて販売中。
文=安里和哲 写真=青山裕企 編集=龍見咲希、田島太陽